第七話「空だって、飛べるはず」②
「相変わらず、乱暴なやり方ですけど……確かに、それが最善ですね! あ、いつもの「聖女の祝福」をかけますね……。ご存分にどうぞっ!」
アステリアが俺に向かって、白い光を放つと、それが俺の両手と両足にまとわりついて、光る籠手とブーツみたいになる。
基本は、装甲魔法と呼ばれる魔力の物質化による防御魔法なんだが。
剣なんかにまとわせて、切れ味やリーチを増したり、この手の非実体型モンスターも斬れるようにするオーラ魔法と呼ばれる魔術も併用されている。
それに加えて、筋力や敏捷性……あらゆる身体パラメーターを一時的に増強するバフ魔法と持続型の自動回復……「聖女の祝福」ってのは、これらが四点セットになった複合支援魔法なんだが……こいつがあれば、俺だって勇者並みに戦える。
最近は、すっかり実戦からも離れてたんだが……まぁ、なんとかなるだろう。
ちなみに、本来ならばこの手の強化バフ魔法はあんまり長くは持たなくて、頻繁にかけ直しが必要なんだが、
俺の場合、自前の魔力で補うことで、この持続性が短いと言う支援バフ魔法共通の問題をクリアできるので、実に強力な支援になる。
もちろん、アステリアもそこは承知の上。
両腕と両脚に付与したのも俺の戦闘スタイルを良く知ってるから。
ファイアウルフを俺に任せて、獣魔術士が尻尾を出したら、即座に潰すため、エアライドに乗ったまま、周囲に結界を展開して、精霊砲の射出準備に入っている。
ちなみに、アステリアもその気になれば、エアライドは乗りこなせるから、いざとなりゃ一人でも逃げれる。
この時点で、アステリアを守る必要もなくて、こっちも心置き無く戦える。
まったく、手の内が解ってる相手が一緒だとやりやすいぜ。
「サンキュー! アステリア! ちょっと最近運動不足だから、ひと暴れしてくるぜっ!」
なお、獣魔使いが潜んでいる森まで2kmくらいは離れてるんだが、精霊砲ならその程度の距離なら造作もない。
森の木々の間に潜んで、そこが安全地帯だと思い込んでるんだろうが、世の中そんな甘くねぇぜ?
ファイアウルフどもも、こちらが逆に突っ込んでくるとは予想外だったようで、こっちが100mも走らないうちに一斉に止まって、10mほどの間合いを取ってジリジリと包囲を作ってくる。
だが、甘いな……機動力が強みのくせに止まってちゃ、その強みが台無しだ。
一斉に息を吸うような仕草をする……なるほど、ファイアブレスで一斉放火ってとこだな?
「包囲された時の鉄則……敢えて、一番分厚いところに突っ込むッ! つまり、真正面だッ!」
強化された脚力を使って、一足飛びに肉薄して、片足を地面につけたまま、地面を滑るように接近して、ケリの間合いに入った瞬間に渾身の一撃を叩き込む!
白いオーラを纏った俺のケリがファイアウルフの鼻っ面に直撃して、膝くらいまで一気に貫く。
そこから、左足を軸にしたまま、前方に荷重を乗せて、震脚……要するに、蹴り抜いたまま、そのまま右足を踏み込んだってだけなんだが。
ズドムとか、重たい音がして地面がヘコんでクレーターみたいになってる。
……まるで手応えがなかったんで、勢い余った状態になったんで、バランスを崩すくらいならと敢えて、震脚で踏みとどまったんだが……相変わらず、身体強化魔法ってすげーよな。
結果的に、この一撃でファイアウルフの上半身をゴッソリ持ってった。
もちろん、ファイアウルフは炎の塊みたいなものなので、それなりに熱い。
熱いんだが……心頭滅却すれば、火もまた涼しって言うだろ?
業火に包まれて、30分とかやられたら、こんがりローストされる未来しか見えないんだが……。
この程度なら、気合……もとい、無造作マナ放出でノーダメで済む。
そして、ファイアウルフは……と言うと、半ば真っ二つになって、そのシルエットもグニャグニャとしたワケの解らんものになっていた。
本来なら、こんな殴る蹴るとかやっても……この手のモンスターにはまるで効果ないんだが。
オーラ魔法で魔力を付与した状態でなら、話は別だ。
結果、ファイアウルフの俺の身体に触れた部分が根こそぎ消滅していた……。
この手の非実体型のモンスターの厄介なところは、その顕現体の1/3くらいまでなら、削られてもすぐに自己修復してしまうことにある。
だが、逆を言うと1/3以上の体積を削られると修復不能になって、元の形を保てなくなって消滅する。
この初手で体の半分近くを失ったファイアウルフも同様のようで、やがてかき消されるように消滅していった。
いきなり、一匹消された事で、ファイアウルフも何が起きたのか理解できないようで、ファイアブレスを吐くこともなく、一瞬フリーズする。
辺りを睥睨する……次は琉球空手の三戦の構えに移行する。
脇を締めて、拳を腰のあたりで構えて、両足の膝を曲げて内股気味にして、足を安定させる。
これは、俺的には防御態勢のようなもの……左右と前、三方向を同時に対応できると言う鉄壁の防御だ。
その代わりに、この構えからの踏み込み技の派生は割とシンプルなんで、積極的な攻撃にはあんまり向いてない。
基本的に受け身の時の構えなんだが、背後以外に死角もないので、こう言う他対一の時に向いてる。
ちなみに、俺は前世では格闘マニアだったからな。
八極拳や琉球空手だけに留まらず、いろんな格闘技の技を身に着けてる。
もっとも、その実点格闘技の試合の動画を見てその気になったり、ゆっくりと動きを真似たり……。
つまり、イメトレ・ファイターだ!
……要するに知識として知ってるってだけ。
実際のところ、ジム通いとか、面倒くさくて3日も持たなかったんだが……。
そう言う知識だけだったり、体を動かすイメージがあったおかげで、こっちの世界でいざ本番ってなっても結構なんとかなっちまったんだよなぁ。
ゆらっと一歩前に出ると、弾かれたように、俺の左右にいたファイアウルフが同時に動いて、飛びかかってくる!
だが、読み通り!
両手を左右に広げるような動きとともに、前に一歩踏み込むと両手に水でも叩いたような感触が広がる。
「透ったッ!」
俺に向かって、飛びかかろうとしていた2匹のファイアウルフは、縦方向に何重もの波紋が立ったようになって、硬いものにでもぶつかったように、どちらも頭と胴体の半分くらいがゴッソリ潰れて、ほとんど同時に崩壊する。
「……初手で3つ落とせたか。へへっ……まともな攻撃を受け付けないはずが、逆に一瞬で消されるような相手。お前らも初見か? 運がなかったな……」
ちなみに、俺は一応八極拳の免許皆伝をもらってる。
日本にいた頃……中国人の爺さんと飲み屋で知り合ったんだが、その爺さんが八極拳の元師範だったとかで、色々面白い話を聞かせてもらって、その礼って事で、その日の酒代を奢ってやったんだ。
そしたら、俺に八極拳の極意を教えるから弟子にならんかとか言い出して……。
運動不足の解消も兼ねて、軽く修行を付けてもらったんだ。
まぁ、実際は軽はずみに弟子なんてになるんじゃなかったって思ったくらいには、ハードな修行……山籠りやら、組手やら型を真似る見通し稽古やら……。
とは言え、なかなかにいい経験だった。
もっとも、その爺さんもその後、ちょっとしてから寿命で大往生してしまったんだがね。
その時、遺言として俺に免許皆伝を与えるって一筆したためてくれてた。
かくして、俺も一端の八極拳士として認められたと……。
まぁ、実際は本家本元の中国が崩壊して、エンドレス内戦みたいな事やってたから、そんなもんにあんまり意味があるとは言えなかったんだが……気分は大事だろ?
もっとも、結局……向こうにいる時は、こんなガチ武術での実戦の機会なんてついぞ無かったんだが。
むしろ、こっちに来てから、そう言う機会が回ってきた。
と言うか、爺さんの遺言状に「そのうち、役に立つ日が来るから、修行を怠るな」とか書いてあったんでね。
他の格闘技みたいに、動画見て満足じゃなくて、型のトレースくらいは毎晩のようにやってたんで、いざ実戦になったら、半ば反射的に身体が動いた……。




