第七話「空だって、飛べるはず」①
「アステリア……しっかり、掴まってろ! このまま崖から飛ぶぞ!」
「は、はい?」
これぞ、裏技中の裏技っ!
「アイ・キャン・フラーイ!」
一言で言ってしまえば、崖からダイブ。
なお、ガードレールなんてないんで、フル加速で道の端の崖っぷちから、そのままドーンとダイビングッ!
「ふわぁあああっ! おじ様っ! おじ様っ! さ、さすがにこれはっ! お、お腹がヒュンってーっ! キャァアあぁああああっ!」
さすがのアステリアも涙目になって絶叫中。
すまん、説明してる暇がなかった。
ちなみに、ここは階段みたいに段々になってる崖みたいな地形に沿っての連続ヘアピンになってて、その後は長いストレートと緩やかなコーナーが続く……こんな無茶な道作るなと言いたくなるようなクソ道だ。
実を言うと、こっちのワダツミ峠ってのは、日本のワダツミ峠のコースレイアウトそのままに、途中で頂上まで登って下る……そんなレイアウトになってるんだよな。
要は、起伏はぜんぜん違うんだが、コースレイアウトは同じ……。
だから、本家のワダツミ峠の5連ヘアピンは、こんな階段状の崖に沿ってのつづら折れ……とかはなってなかったんだが、こっちのはそんな狂ったコースレイアウトなんで、こう言う地元スペシャル的なショートカットが使える。
さすがに、俺も普段はここまで無茶はやらない。
出来そうだなと思ったことはあったんだが、さすがにやったことはなかった。
崖からジャンプくらいなら勇者パーティー時代にやったけど、せいぜい10m程度だった。
要はぶっつけ本番だったんだが、それでもなんとかなりそうだった。
高さは上空50mくらいかな? 普通のガソリン車だったら、こんなの飛び降り自殺と変わりない。
エアライドも本来ならそこは一緒で、地面から離れたことで、あっという間に地面からのマナ供給が切れて、精霊石が不活性化したことで浮力も消えて、姿勢制御も出来なくなる。
だが、俺の奥の手……精霊石に自前のマナを注ぎ込んでの再始動ッ!
「おらぁっ! まとめて持ってけーっ!」
派手に魔力を持っていかれてる感じがするが、この程度ならまだまだ問題ない。
たちまち浮力が回復して、落下速度が緩む……上手く風に乗ったようで、姿勢も安定してる。
眼下をすごい勢いで、連続ヘアピンが流れていく。
「うーん、気持ちいいぜ! こいつは最高だっ! もっと早く試してみても良かったかもな!」
アステリアは……チラッと窓の外を見て、まだ空の上にいると気付いて、引きつった顔をしながら、股ぐらを抑えてる……あー、み、見なかったことに!
さて……さすがに着地はなかなかデリケートだ。
さすがに、この高度からの着地は経験ない。
飛行機の着陸と同じようなもんだと思うんだが……。
まず、あまり浮力を落としすぎると、着地の勢いを殺しきれずに精霊石が地面に掠って、大爆発だ。
断続的に、浮力をかけながら、なるべくゆっくり落下するように制御する。
何よりも着地角が重要だ……角度が高いと衝撃を殺しきれずにやっぱり大爆発だ。
速度が出すぎていても、今度は地面効果で揚力が発生してしまって、地面スレスレで浮き上がってしまう。
この場合、浮き上がるのはいいんだが、地面効果が無くなってからが怖い。
おまけに、高く浮いてしまうと、マナラインが切れてしまう。
そうなったら、そのまま勢い余って地面に激突しかねない……これもやっぱり大爆発だ。
ある程度減速させて、浮力もゆっくりと落としながら、車体姿勢を水平から若干フロントを浮かせた姿勢に立て直す……。
ハンドルを微調整しつつ、アクセルも最小……フルスロットルを100%だとすれば、まさに1%刻みで出力調整する。
同時に、前後の精霊石の出力バランスをオートバランサー任せではなく、ダイヤル操作でマニュアルで微調整しつつ、最適な出力バランスを維持し、突入角を浅くしていく。
「……ここだっ!」
着地角15度、着地直前にフルスロットル……バーストッ!
地面スレスレで跳ねるように、3mくらいまで浮くので、頭下げてから……更に加速!
石切りみたいに、何度もバウンドして、ようやっと高さが安定する。
よし! なんとかマナラインも切れずに立て直せた。
続いて、あっという間にコーナーが迫る!
だが、すでに車体は安定してる……かなりの前傾姿勢になってはいるが、ほとんど減速無しでクリア!
「よっしゃ! 上手く行った……これはかなり時間が稼げたな!」
いかんせん、この5連続ヘアピンはどんなに頑張っても大幅減速を余儀なくされる……道も狭いし、勾配も急すぎるし、コーナー角もR30とかめちゃくちゃキツい。
本来ならば、クリアまで5分近くはかかるんだが、それが一分くらいに短縮できた。
それに……あのまま普通に5連ヘアピンに行くのはマズいって予感がしたんだよな。
こう言うときは、何かがある……だからこそ、危険を承知でショートカットで回避した……俺って冴えてるな!
「あはは……。だ、大丈夫って解ってても、さすがに今のは……あ、いつぞやかみたいに、お漏らしとかしてませんからね! ちょっとだけですから! ちょっとだけ!」
むしろ、黙ってろよ……そう言うことは……。
「……ああ? あ、安心しろ……俺は何も見てないし、聞かなかった事にしてやるから!」
まぁ、聖女様だって、そう言うこともあらぁな!
予備のパンツもいつも持ってるらしいから、ちょっとくらいなら問題ないだろ!
「ありがとうございます。おじ様……。あ、後ろから何か来ますっ! 数、多数っ!」
案の定、アステリアの索敵に何かかかったらしい。
こう言うときでも、索敵を切ってない辺り、優秀なナビゲーターだねぇ……。
バックミラーを見ると、赤く光る何かが十個ほど、かなりの速さで接近中だった。
「なんだありゃ!」
「断定はできませんが……。恐らくファイアウルフ……火属性の魔獣だと思います」
見た目は、狼の形をした炎……みたいに見える。
エレメントウルフとか言われる精霊に近い魔獣がいるんだが、その炎属性版ってとこだな。
RPGあるある……色違いの手抜きモンスター。
ちなみに、エレメントウルフは属性に応じた特殊能力を持つ上に、実体がないので物理攻撃も無効……まともに相手をすれば、かなり面倒なヤツだった。
弱点は属性に応じた魔術や魔剣。
火なら水属性、水なら土って具合にな。
なお、特筆すべくはその足の速さで、時速100kmくらいで延々走れるので、生身で追いかけられたら絶対逃げ切れないし、エアライドでも普通はあっさり追いつかれる。
こんなのに見通しの悪い連続ヘアピンコーナーの途中で襲われてたら……なんて、考えるだけでゾッとするな。
「……野良魔獣じゃないな。いくらなんでも統率が取れすぎてるし、エレメントウルフなんぞが自然発生してたまるか!」
「ですよね? 多分、あれは獣魔術師の使役獣だと思います。だとすれば、獣魔術師を始末すれば、顕現できなくなって消えるはずです」
アステリアも同意見……。
獣魔術師なんて、その時点で真っ当な術者とはとても言えない。
なんせ、どう贔屓目に見ても魔物使い……魔物ってのは、積極的に人を殺しに来るから魔物って呼ばれてるんでな。
そんなの普通に邪法だし、実際そんな風に扱われてる。
こりゃ、本格的に邪教団辺りが絡んでそうだな……。
つまり、これは邪魔者が入らないようにって事で配置された伏兵ってとこだ。
確かに、あそこに伏兵置かれちゃ、それだけで街道閉鎖出来るし、その時点でエブランは陸の孤島になる。
こんな真似をやってくる時点で、もう確定だった。
「たしかにそうだな……。しっかし、魔獣使いはどこから見てる? あれが使役獣なら、術者が近くにいるのは間違いないんだが……どうだ、お前の索敵で見つからんか?」
索敵範囲、精度共にアステリアのほうが優秀だ。
俺の索敵魔術は、無作為に全方位で魔力を放って、魔力波が何かに当たって、跳ね返ってくれば、そこにいるって解るって代物で、正直なところ、索敵魔術と呼ぶのもおこがましい……そんな程度の代物だ。
なお、遮蔽物があると、そこに遮蔽物があるって事しかわからないので、その後ろに隠れられていると、それだけで解らなくなるし、そもそも範囲もそこまで広くない。
まぁ、森とか岩場なんかだと、全然駄目だったりもするし、魔力吸引型の結界を張られてると、反射魔力も返ってこないので、この場合も解らない。
一方、アステリアの場合は、上空に魔力の塊を打ち上げて、そこから細い糸のような魔力を雨のようにばら撒くって方式らしい……そして、その糸に何かが触れれば解る。
元々は賢者ミスティアが開発したサーチレインと言うオリジナルの術式らしいんだが、アステリアは見様見真似であっさりパクった。
もっとも、ミスティアもアステリアの使う身体強化魔法やら、治癒術をパクってたから、お互い様なんだがね。
なんせ、基本的に双子だから、どっちも賢者と聖女の才能持ってるから、お互いをパクろうと思えばパクれてしまうし、合力魔術なんかも使えるから、その場合は超強力な魔術を使える……。
まぁ、その辺が二人が突出した実力を持ってる理由でもあるんだがね。
ちなみに、アステリアの索敵魔法は、屋根があるようなところで、その下に隠れない限りはまず捕捉できる。
要は索敵ドローンみたいなもので、俯瞰視点での広域索敵魔術ってところだ。
「……少なくとも平原の草むらや岩陰に潜んでいる事はないようです。可能性としては、あの崖の下の森のどこか……すみません、ここまでしか判りませんでした」
……森の中では、木々や葉っぱが索敵ラインの障害になってしまい、索敵魔術の精度は一気に低下する。
これは、アステリアの索敵魔術も事情は一緒で、基本的にどのタイプの索敵魔術でも森の中の索敵は不得手って事で、共通してる。
高所からの目視索敵でも森の中に潜まれると、簡単には見つけられないからなぁ。
森ってのは、そう言う意味では物凄く厄介な地形なのだ。
ああ言うところでの索敵は、エルフ達が使う植物魔術による生命探知とかの独壇場なんだよな。
「そこまでわかりゃ十分だ……。エレメントウルフ相手となると、エアライドで振り切るのも逃げ回るのも、現実的じゃねぇ……。俺が奴らを引き付けるから、アステリアは精霊砲の最大出力で森ごと術者を吹っ飛ばせ!」
そう言って、エアライドを停車させると、俺も飛び降りる。
追われた時の基本……追手を振り切れない時や足の早い相手の場合、地形的に有利なところで迎撃する。
どのみち、追手が付いてる以上、よほどの速度差があって相手の心が折れるのを期待するか……。
追いつけそうって思わせといて、ブチかますか。
あるいは、今回のように、遮蔽物の少ない平原で迎え撃つのが最善だった。




