第六話「想定外」③
「あん? 俺をここに置いていくってのか? そりゃねーぜ! 俺も最後まで付き合わせろ!」
いや、だからアンタがいても、やかましいデットウェイトにしかなってないんだって。
そもそも、ニャースキーが出てこないのも、エドガーがいるせいなんだよなぁ……アイツ、基本的に男が嫌いらしい。
「ひとまず、私達が先行して、広域浄化の儀式魔法を進めておきます。ですが、こうも露骨に異変が起きているとなると、エブラン村自体が危険区域になっている可能性が高いです。要するに……危険なんですよ! 見てください! あの空……あんな風になるなんて、異常です! もはや、あれは天変地異とかそう言うのですから!」
アステリアも雲の異常に気付いたようだった。
うん、確かにあれはもう天変地異だ……。
もっとも、だからと言って臆したりしない辺り、さすがだな。
「俺やアステリアは、相応の高魔力保持者だから、火病への抵抗力も高いんだが……。マスターは、俺達ほどじゃねぇだろ。そもそも、増援もアルメダさん任せじゃなく、アンタが仕切らないとカッコ付かんだろ……実際、アルメダさんに文句の一つくらい言われてるんだろ?」
どうやら、図星だったらしくエドガーがツイと視線を逸らす。
ちなみに、アルメダとか呼び捨てにするのは、以ての外なのだ。
「「さん」を付けましょうね! このデコ助さん、えいっ!」
実際にそんな風に可愛らしく言われて、物凄く痛いデコピンもらったから、以来俺はいつもそうしてる。
世の中、笑顔で人を殺せる奴がいるんだからな。
そんなの当たり前の話じゃありませんか。
「それに……だ。いいか? こう言うとき、総大将ってのは最前線に立つんじゃなくて、一歩退いた場所で戦場を俯瞰視する……そうすることで、最前線に居るやつからは見えないことも見えてくる。アンタを見込んで、俺達の背中を預ける……これは、そう言うことさ」
そう行って、俺の手製の双眼鏡を押し付ける。
まぁ、こいつがあれば後ろからでも良く見えんだろ。
と言うか、エドガーが狂化したらマジで手に負えねぇだろうからな。
「背中を預ける……か。確かにそうだな……それは俺にしか出来ない役目だな……ったく、人を乗せるのが上手いな。解った。じゃあ、俺はここで待機して後ろから様子を見守らせてもらう。何かあったら、コレでギルドに連絡を取ってくれ!」
そう言って、もう一枚の首に下げてた通信札を寄越してくれる。
しっかり、予備回線を用意してる辺り、このおっさんもなかなかの石橋叩き。
嫌いじゃないぜ? そう言うの。
「ああ、アンタへの連絡はギルド経由になるが、特に問題もないだろ?」
「そうだな……。ああ、そうだ。アルメダも現地のナマ情報が欲しいって言ってたから、なにか解ったら先に知らせてやってくれ……。だが、この様子だとかなりヤバそうだな……お前は、何が起きてると思う?」
「そうだな……。状況的に、バーナードも感染してる可能性が高い。だが……感染状況もだが、様子が明らかにおかしい、最悪どこぞのバカのテロか……何らかの魔術儀式の実験。そんな可能性も考えられる……。いずれにせよ、聖堂教会だけに任せておくわけにはいかんだろ。薬師ギルドや療養院、それに領主にも連絡して、領兵団も出してもらう必要もあるかもな」
まぁ、なにげに総動員体制ってとこなんだが。
それくらいやっても、多分大げさじゃないぜ……。
「なんだそりゃっ! まさか、これが人為的って可能性があるってのか」
「まぁ、俺の勘だよ……。もっとも、発生状況が明らかに不自然だし、あんなもん見せられちゃなぁ……。むしろ、ああなると、自然現象じゃなくて、人為的なものの可能性を考慮すべきだろうな」
実際、火病の感染経路も良く解ってないんだからな……。
本来は、そこら辺もきっちり調査するべきなんだが、対応に当たってる教会が割と秘密主義で、学術的観点で調査するとかそう言う観点が完全に抜け落ちてるんだよな。
テロや実験についても……実のところ、そう言うことをやらかしそうな連中に心当たりはある……。
例を挙げると「魔王教団」に「大宇宙真理教団」……悪名高い二大邪教団。
そして、割と新興ながら「滅びの炎」とか言う、キャンプファイアみたいなのを囲んで、ヒャッハーやってるヤバい奴らもいる。
特に、「滅びの炎」はヤバい……火病にわざと感染して、炎の神の思し召しとか言いながら、非感染区域へ火病を撒き散らすために、全力で逃亡とかやるんだからな。
「た、確かにそうだな。要するに、エブラン村全員の強制避難も視野に入れておけってことか?」
どっちかと言うと、狂化した村人の制圧に人手がいるって想定なんだが……まぁ、そう言うことにしとこう。
アステリアに視線を送りながら、頷くと解ってますと言いたげに片目を閉じて、ウィンク……お前、緊張感ないし、ムダに可愛いな。
「はい、そう言うことですね。何よりも、私達の知らない火病の感染源……それが見つかる可能性もありますからね。お二人だから、明かしますが……今回の神託も、火の災いの元凶に迫れる可能性が高い……そんな内容だったんですよ」
なるほどな……アステリアがやけに前のめりだったワケもなんとなく解った。
教会の連中は、火病の原因物質や感染源については、あまり関心持ってない。
連中にとっては、騒ぎが大きくなってもそれを自分たちの手で鎮圧出来れば、むしろ、教会の権威が上がるから、望むところ。
逆に火種のうちに簡単に消されてしまうと、感謝もされなくなるとか、そんな風に思ってるきらいがあるんだよなぁ。
この辺は、火病騒ぎに動員された薬師協会の薬師や精霊使いから直接聞いた話で、教会の連中が来た時点でとっくに鎮圧済みだったんだが……。
おっとり刀で駆けつけてきた聖堂教会の連中からは、何も知らん奴らが余計な真似をするなと逆ギレされたとかなんとか……。
もっともアステリアは、今回の騒ぎはむしろ、チャンスだと言っている。
まぁ、実際神託に従って、現場対応に出ずっぱりになってるアステリアは、そこは前々から気になってたところなんだろう。
まったく……あのミハイルとか言う聖騎士の言う通りに、さっさと引き上げさせてたら、ドエライことになってたんじゃねーの?
もしくは、今回の異変は教会の上層部も絡んでる……そんな可能性だってある。
ミハイルの態度にしても、絶対なにか知ってて、俺らやアステリアには言えない……そんな感じだったからな。
むしろ、アステリアには見せらない何かが待っている……そんな可能性もある。
……あのミハイルって野郎を拷問してでも、そのへんの裏事情を吐かせるって手もあったんだよな。
もっとも、そんな暇はなかったってのも事実か。
いずれにせよ……教会ってのはとにかく自分たちのメンツと権威が最優先だから、火病についても自分たちが仕切るって思いが強い……そんなもんにこだわってる場合かって思うんだがね。
いずれにせよ、これが組織的なものなら、こっちも組織で対抗するってのが最善だろう。
つまり、話をデカくして、あちこちを巻き込んで、騒ぎを大きくする……。
そうなれば、もしも組織的なテロだった場合、相手がボロを出しやすくなるからな……。
そして……。
エドガーを置いて、走り慣れた下りをひた走る。
ペースを上げてるから、もうずっとカニ走りみたいな動きで、コーナーも最速でクリアしていく。
「さ、さすがにこれは……慣れていたつもりでしたが、キツイものがありますね」
「大丈夫か? 今は風もないから、目一杯飛ばしてるんだが……。ヤバそうなら、少しペースを落とすぞ」
なお、平均時速は100km超。
幸い風が弱まってるから、イレギュラー要素が皆無なので、俺に言わせれば危なげなく走れてる。
普段だったら、対向車を警戒して、もう少しスピードを落とすんだが。
今日、エブラン方面からくるような奴はいないだろう。
「だ、大丈夫です。この程度ならまだまだ! 追手もいないし、ダンジョンの中でもないですからね!」
まぁ……ダンジョンからの撤退戦とか、俺だって出来れば遠慮したいって思ってたからな。
ダンジョンってのは、何故か最低でも縦横5mくらいの広さがあるって相場が決まってる。
自然の鍾乳洞みたいに、屈んでやっと進めるとか、腹ばいにならないと進めないとか、そんなクソ狭い隙間を抜けるような構造になってるのは見たことない。
縦横20mくらいのだだっ広い空間がグネグネと曲がりくねってるとか、むしろそう言うのが主流で、エアライドでも余裕で走れるようなケースも良く見かけた。
ちなみに、ダンジョン内は地上と違って、天井までみっちりマナが満ちてるから、高度を上げてもガス欠の心配はいらない……なので、魔道具やエアライドを使う場合はむしろ都合が良かった。
なもんで、エアライドでダンジョンに突入して、天井スレスレを逆さになって走ったり、真横を向いたまま、全開で曲がり角を直角にかっ飛んだりってのもよくやってた。
当然ながら、あっちこっちぶつけたり、壁にひっかけてゴリっと削れたり……時には、立ちはだかるモンスターにぶつかって、粉砕したり……。
そりゃもう、絶叫アトラクションも真っ青ってな感じになったんだがね。
それと比べたら……確かに、まだ余裕だよな。
もう、ダンジョンなんかも行きも帰りもエアライドで一気に最深部まで行けばよくね? とか思ってたんだが。
何故か、勇者くんは律儀に歩いて行くことに拘ってたし、なんでも直接歩いて行かないとダンジョンを領域化出来なくて、ボス戦で不利になるとか言ってたんだが……。
……俺が先行偵察でソロで入った時も、後追いでエアライドで入った時も、何の代わりもなかったんだがなぁ。
絶対誰かに騙されてる……俺もそう思ってたし、アステリア達も同じ様に思ってたらしい。
やがて、ワダツミ峠の最後の難関……5連連続ヘアピンが迫る!
ここは、小細工抜きでテンポ良くクリアするしかないんだが……。
近づくなり……総毛立つような感覚が走った!




