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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第九話「エブラン村の怪異」①

 ……エブロン村に到着。

 ある意味見慣れた光景ではあるんだが……ここまで徹底して真っ暗ってのは、さすがに初めて見る。

 

 見慣れた景色がゴーストタウンになってるのを想像してみろ……。

 むしろ、ホラーだろ、これ。


 村の周囲はところどころ、簡単な柵で囲ってある程度で、厳密には境界なんてあって無きが如くなんだが、こう言う辺境の村落では普通っちゃ普通。

 

 一応、村の正門とされている正面入口の両サイドには篝火が置かれていて、普段だったら自警団の夜回り番の若い衆が一晩中、寝ずの番をしているんだが。


 見たところ、篝火は消されていて、見張りもいない。

 ここらでは、夜になるとゴブリンだの魔物が襲来することも度々あって、その程度の備えは必須なんだがな。


「……ったく、蒸しあっちぃな。なんなんだよ……これは……」


 正面入口の前に、ストレイ・キャッツ号を駐機させて、簡単に周囲を見て回る。

 見張りの休憩所に誰かいないかと思って見てみたんだが、誰も居なかった。


 湯気の立つカップが残されてるようなミステリーなこともなく、冷え切った飲みさしのコーヒーが入ったカップがあった程度で少なくとも数時間は誰も立ち寄っていない事が解った。


 変わったこととしては、村の北の裏山の方から熱風のような風が吹きつけていて、この分だと気温も軽く25度を超えているようだった……要するに、夏日並み。

 雪が降ってたから、当然のように湿度は急上昇……暑苦しくてかなわん。


 ここまで、分厚い防寒ジャケットを着込んでたんだが、とても着てられんので、さっさと脱いでストレイ・キャッツ号に投げ込んどく。


 アステリアもモコモコしたコートを着てたんだが、すでに脱いでいて、丁寧に折りたたんで助手席に置いていた。

 コイツもなんだかんだでこう言うところで、育ちの良さってのを垣間見せてくれるんだよな。


「確かに、この暑さは異常ですね。……ただ、私の索敵でも付近には誰も居ないようです。もっとも、さすがに家の中までは解らないので、皆引きこもっているのかもしれませんが……。生命探知でも使ってみますか? それとも個別訪問でもしてみます?」


 索敵魔力波は薄い壁程度でも遮蔽されてしまうからな。

 生命探知は、生きていて体温がある生物の居場所を探知する魔術だ。

 

 それゆえに、板壁一枚程度なら、向こう側に生き物がいるかどうかも解るし、生存者がいればすぐに解る。

 それに、RPG的に言うとHP残量とかを測ることも出来るから、意外と汎用性が高い。


 ただし、魔力消費が激しいので、結界や索敵魔術なんかとは併用できないし、使いっぱなしも厳禁なんだよな。


「いや、お前はこれから儀式魔法なんて、派手な奴を使うんだからな。余計な事でマナを浪費するまでもない。ひとまず、バーナードのところに向かうぞ。だが、参ったな……なんだか、やたらとマナが濃いから、俺の索敵は全く使えん。目視か殺気感知が頼みの綱だな……ワリィが背中は任せるぞ」


 ちなみに、マナの消費については基本的に消費する矢先から、地面から補充されていくんだが。

 消費のほうが上回っていると自前のマナを消費していくことになるから、別に無限に使いたい放題じゃないし、自前のマナを消費し尽くすと普通にぶっ倒れる。

 

「そうですね……。これでは私の索敵魔術も役に立ちそうもないです……。家からも離れて、できるだけ広いところを選んで警戒しつつ、ゆっくり進みましょう」


 そう言って、アステリアも斜めになって、俺に肩を寄せ合うようにしてくる。

 ツーマンセルでの警戒陣形。


 互いが斜め前を向いて、背後にも視線を向けることで、ほぼ360度の警戒が可能になる。

 黙ってても合わせてくれるあたり、相変わらず、いい仕事してくれる。


 幸い雲がぽっかり晴れてるから、月明かりで手元くらいは見えるようになってきてるし、エブランは田舎だから家と家の間は広い。

 市街地みたいに死角だらけって事もないから、周辺警戒を怠らなければなんとかなんだろ。


「ああ、こうなってくると、気が散るから、索敵も生命探知も使わんほうがいいな。頼むぜ? なにか動くものがあれば、すぐに動けよ」


「お任せあれ……! ふふっ、まさに頼れる相棒って感じですよね、私!」


 おう、懐かしい言い回しだな。

 アステリアがこう言うと、ミスティアが「いいえ、私こそっ!」とか返すのが定番だった。

 

 まぁ、どっちも基本的に仲良しだったから、喧嘩もよくやってたけど、いわば喧嘩するほど仲が良いって奴だった。


 ちなみに、二人は勇者パーティで出会うまで、お互い姉妹がいたって事すら知らなかったらしい。

 もっとも、見た瞬間身内ってわかったそうで、あっという間に意気投合。

 

 アステリアは治癒や身体強化と言った神聖魔法系や結界のような守備系の魔法を得手としていて、ミスティアは対軍勢用の大規模戦略魔法……そのうえで、小回りの効く投射魔法を中心とした元素魔法全般を得意としており、錬金術にも覚えがある多才な術師だった。

 

 なお、精霊砲の扱いについては、問答無用でミスティアが上。

 アステリアだとせいぜい10体程度をまとめて吹き飛ばす程度なんだが、ミスティアだと100体だの1000体だのをまとめて葬る地獄の業火に匹敵するような超火力を出せる。

 

 精霊砲は特大精霊石に直結されていることで、尋常ならざる火力が出せるんだが。

 細かい制御……例えば、目標をバラけさせたり、広範囲をまとめて吹き飛ばすとなると、攻撃系の魔術のエキスパートのミスティアが強いのもむしろ当然の話だった。


 俺? 俺一人じゃ、長々と溜めて、まっすぐどかんと一発撃つのがやっとだぜ。

 

 それでも、ガチガチに結界で固めた大貴族様のお屋敷を丸ごとふっ飛ばしたほどの威力はあった

 

 ちなみに、アステリアは……。

 細かくピンポイントを狙い撃つと言った精度を要求される状況や、さっきみたいな集中砲火とか連射速度に直結する魔力運用の効率はアステリアが上。


 それに、何と言っても、コイツの特技は魔術の同時並列発動制御で、こればっかりはミスティアも勝てないと言ってたくらい。

 割と地味なんだが……結界張りながらバフ飛ばして、回復までこなすとか割とデタラメ。

 聖女の祝福も、その同時制御でセット魔術みたいに仕立て上げた代物で、誰も真似できないって評判だった。

 

 要はどちらも一長一短で、状況次第ってところだったし、アステリアもミスティアも助手としては、どちらも一級品だった……。

 

 アステリアとはこんな風に一緒に大冒険って感じになってるんだが……。

 次は、ミスティアが厄介事を持ってくるとかそんな風にならんだろうな?


「そうだな……さっきもこっちに合わせてくれたし、相変わらずの強力なバフ魔法とダメージを受けた先から回復させる超回復魔法……。実に頼もしい限りだったぜ!」


 あれ、ホント……何が出てきても、負ける気が全然しなかった。

 

 あれがあったから、勇者くんも失敗ビルドにも関わらず、最低限死なずに済んでたし、圧倒的に不利な状況でも俺が駆けつけるまで死人も出さずに持ちこたえられてた理由なんだよなぁ……。


 アステリアは……と言うと、何故か真っ赤になって俯きながら、ワチャワチャと腕を振り回してる。

 ったく、真面目にやれよ。


 やがて、村の中心部近く……薬師バーナードの診療所の前に着く。

 ここに来るまで、家々はどこも明かりを消していて、物音一つしなかったし、出歩いてる奴に出くわすことも一切なかった。


 診療所だけは、窓から明かりが漏れていて、人影が動いているのも見えて、なかなか盛況な様子だった。


 だが、近づくにつれて、俺はその異変に気づく。


「……アステリア、構えろ」


「え? どう言うことです?」


「なんてこった……。中で物音はしてるのに、人の気配がまったくしない! 念のため、生命探知を使ってみてくれ……」


 アステリアが慌てて、生命探知の印呪を結ぼうとするのだが、診療所の扉が開いて、中から冴えない中年が出てきたこと、思わず揃って固まってしまう……。


「……あ、あ、ああ……。き、君たちは……きゅきぃきゅ、救援だね? ご、ご、ご苦労さま! ……た、た、た……助かるよ……。これで皆、すわ……すく? わ……れる、てる、れれれれれ……」


 なんと言うか、壊れたテープレコーダーか何か。

 もしくは、人間じゃない何かが、適当に台本でも読みながら、それっぽいセリフを棒読みしてる……そんな風な印象だった。


 思わず、アステリアと顔を見合わせるんだが、ひとまず、頷き合ってどちらもすぐに動けるように身構える。


「そこで止まれ! てめぇ……バーナードじゃねぇな……。村の皆はどうした? 貴様は一体何なんだ!」


「な、な、な……なんなんだ? き、き、貴様は? バーナド? バーナード? ああ、それは……私のことか? ああ、そうだ……バーナードは私だ。うん、少し……馴染みが……いや、少しは馴染んできたな。ああ、すまなかった……こっちの話だ」


 ……なんだろう?

 それまで人間じゃない何かが人間のマネをしてるって感じだったんだが、唐突に魂が入ったように急に自然な口調になった。


 いったい、コイツはなんなんだ?

 

 バーナードは真面目で融通が効かない学者って感じのヤツだったけど……。

 少なくとも、こんな虫みたいな目はしてなかった。


「バーナードに何をした! それに村の皆はどこに居るっ!」


 思わず、飛びかかりそうになるんだが……アステリアが上着の裾を引っ張って、既のところで止めてくれた。


「おじ様! そんな冷静さを欠いた状態で突っ込むなんて、らしくないです! ……あの方の生命反応は正常です……。いえ、むしろ強すぎる! こんなのは……見たことありません!」


「あ、ああ、すまない。しっかし、なんなんだ……ありゃ。生命反応が正常ってことは普通に生きてるって事なんだろうが……。だが、気配も殺気も一切感じないんだ……!」


 なお、バーナードの先程までの虫みたいな目は相変わらず。

 もうワケがわからんぜ!

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