第五話「精霊砲エネルギー充填120%」③
「……な、なぁ、今のはなんだ? 聖騎士のエアライドの結界がおもちゃみたいに、あっさりカチ割れてたんだが……」
ちなみに、一応ミハイルはとっさに車体前方に結界を展開してたんだが。
その結界は、あっさりパリーンと割られて、そのまま目の前で大爆発……まぁ、弾速が落ちる程度には役に立ったんじゃねーの?
「今のは……精霊砲って言ってな。作った爺さんの話だと、ドラゴンだって一撃で殺せるって言ってたし、実際、守備力なら魔王軍イチとか言ってたガチガチ鎧野郎も、アレ正面から食らってバラバラになってたよなぁ……」
「鉄壁の魔将ボルガン……でしたね。防御力特化型の魔族で、勇者イルマのセイクリッド・ストラッシュや、ミスティアの最大火力のブラスト・カノンが直撃しても耐えてたのに……。精霊砲を正面から受けとめようとした結果、一発で木っ端微塵……でしたからね。あの時、私もおじ様が味方で本当に良かったって思いましたよ」
それ、別に俺は凄くねぇぞ? どちらかと言うとメカの強さだと思うんだがねぇ……。
俺自身は魔術もさっぱり、剣術も微妙……はっはっは! やっぱり、微妙じゃねぇか。
「……勇者パーティの顛末は、一般で言われてるような英雄譚には程遠くて、実際は、国王がアホすぎて無謀な指示ばかり出して、もう毎度毎度返り討ち……。俺もギルマスだけに、その話は聞いてるよ」
「ま……まぁ、そうだな。そりゃ、間違いなく事実だったよ」
エドガーも伊達にギルマスやってないな。
その話は、他言無用ってことで最重要機密扱いされてたはずなんだがな。
とは言え、毎度毎度、ボロボロで誰もが憔悴しきった顔で、勝利の凱旋とは程遠い様子での帰還に、とても勝ったとは思えないって誰もが思ってたんだよな。
「だが、勇者パーティのスゲェところは、そんな無謀な戦いに幾度となく挑戦して、必ず全員無事に生還してたって事だったんだが……。実は、イザって時にだけ動く6人目のメンバーがいるって噂にはなってたんだ。公式にはそんな奴は、存在しないって話だったんだが……。セナの野郎が……その6人目、そう言うことなのか?」
「そう、そうなんですよっ! やっぱり、解りますよね? ええ、おじ様のスゴいところはですね……」
アステリアが嬉々として、何やら話そうとしてたんだが。
とりあえず、手を向けて止める。
「まぁ、昔の話だ……あんまり吹聴しないでくれや。今の俺はしがないフリーの運び屋なんだからよ。アステリアもそう言うことで頼むわ」
エドガーも何か言いたげだったが、アステリアが苦笑しつつ首を横に振ると押し黙る。
俺は……今の生活も悪くないって思ってるからなぁ……。
別にチート勇者枠とか興味ねぇし。
ヘタに名声なんか上げてしまったら、ろくな事にならない。
そもそも、あんなクソ王にクズ大臣に、教会のクズ集団……枢機卿のジジィ共。
そして、賢者の塔に巣食ってた頭でっかちの老害共……。
何かと色々助け舟を出してくれたり、便宜を図ってくれた王女殿下や、いつも文句一つ言わず救援作戦に付き合ってくれた勇翼騎士団の団長とかは、全然マシだったし、教会もトップの教皇さんはいまいち頼りなかったけど、やる時はやるヤツだった。
……いずれにせよ、まともな奴なんてごく少数だった。
この国の上の奴らは、どいつもこいつもマジでクズしかいねぇんだよなぁ……。
私利私欲に凝り固まって、見栄や下らないプライドのために出る杭を打つ事ばかりに熱心で、下の奴らに死んでこいなんて平気で命令して、平民はいくら死んでも構わんとか言い放つような奴らばっかり……。
そして、今回のように人の命を秤にかけて、犠牲者が少ないなら見捨てるとかクソみたいな決断も平然とする……。
あんな奴らのために、命をかけるなんてもう絶対やりたくない。
だからこそ、俺も二度と表舞台には立たないって決めたんだ。
今回は昔なじみのアステリアが絡んでたし、付き合いも長いギルマス直々の依頼だから、別に国の上層部は絡んでないから、いわば特別サービスだ。
何よりも、今回は見知った人達の命がかかってるんだからな……多少の無茶だろうが、俺はやるぜ。
それから……。
多少スピードは制限しているものの、トラブルもなく、遅延も許容範囲内でまもなく峠を越えようとしていた。
日本のワダツミ峠では、山の頂上に駐車場やら展望台とかあったんだが、さすがにこっちのワダツミ峠には、そんな観光地みたいな設備はない。
一応、休憩用スペースとして、道の周囲に柵で丸く囲った、ちょっとした広場くらいはあるんだが、基本的に殺風景だった。
追手の聖騎士達も事故処理に手一杯なのか、あれっきり静かになったようだし、一度停車させて車外に出てみる。
「……って、なんだこりゃあっ!」
……車外に出る前から、すでに異変は感じてたんだが、やっぱり直接見ると明らかにおかしかった。
麓も豪雪で、俺も昼間にここを通った時は、辺り一面雪景色になってたのに、今はすっかり溶け切ってて、所々に雪が残ってる程度……。
エブランへ続く下りの道もすっかり雪が溶けていて、あれだけ積もってた雪が嘘みたいに溶け切っているようだった。
それに、吹きすさむ風も凍えるどころかむしろ、生暖かく感じるほどで……。
「……これは、明らかに精霊のバランスがおかしくなってますね。先程までは水と氷の精霊が荒ぶってたんですが、火の因子が活性化しているようで、気温が上がってるようです……」
アステリアに言われて、温度計を引っ張り出して、計測してみると20度近くまで上がってる。
確かに、ここまで気温が高いと雪も降る先から溶けてしまって、積もりようがない。
「精霊使いのサーシャの姐さんの話だと、今夜は周辺一帯で水と氷の精霊が活性化することで季節外れの雪って言ってたんだがな。そもそも、今の時期ってそんな火の精霊が活性化する要因なんてねぇだろ……」
サーシャの姐さん。
エルフの精霊使いで、元々は腕利きの冒険者だったんだが……。
最近は、天気予報で生計を立ててて、その精度の高さが信頼されて、ギルドお抱えの天気予報士になったことで、いつも酒かっくらってスローライフバンザイとか言ってるようなお気楽エルフの美人おねーさんだ。
まぁ、俺も仕事の関係上、天候情報ってのはかなり重要だからなぁ……。
必然的に俺もねーさんの常連客の一人だったりする。
彼女は48時間以内、周辺100km以内と言う条件なら、天候をピンポイントで当ててくるし、予報を外した事なんて俺が知る限り一度もない……。
超AIが地球シミューレーターで厳密に計算した日本の天気予報でも、48時間以内のピンポイント予想確率は95%が限界って言ってたのに、100%とかとんでもねぇ精度だよ。
だが、歴戦の精霊使いでも予想できなかった異変が、現在進行系で起きている……そう言うことだった。
「……まいった。ここまで来ると、ただ事じゃねぇよな……。いっそ、サーシャの姐さんでも連れてくりゃ良かったな。エドガー、通信札くらい持ってきてないのか? この様子だとサーシャねーさんも予報が外れて血相変えてるだろうから、ちょいっと話聞いてみてぇんだが……」
ちなみに、空の様子はもう明らかにおかしい。
俺達が来た方向は、霧で霞んでて後ろの風景も空も何も見えないんだが。
逆にエブラン側の方は、頭上に分厚い雲が垂れ込めてることには変わりないんだが。
視界はクリアで、雪もすっかり止んでて、遠くの空の雲の切れ間から星が光ってるのが見えるくらいだった。
要するに、この山の頂上できっちり、境界線が引かれたようになってる。
さすがに、こんなのは山の上にでも上がらないと解りようがない。
「アステリア、お前はどう思う? こんなのは俺も初めて見る……一体、何が起きてるんだ?」
「私にも解りかねますが……。この異常気温上昇現象については、心当たりがあります。火病感染地域で、最終段階の重度感染者が発生した際に異常に気温が上昇したという記録があるそうですし、実際のところ……火病の焼却処理についてなんですが、あれはもう自然とそうなってしまうようなんです……だとすれば……」
「まさか……手遅れってことはないよな? いくらなんでも、一日も経ってないのに、最終段階まで進行するなんて、ありえねぇだろ……」
俺も、それなりに火病については詳しい。
なんせ、火病対策はいつもスピード勝負だからな……200kmくらい離れた現場に薬師や治癒術士を4時間以内にお届けとか、新鮮な火渡り草を鮮度を落とさず、2時間で現場に届けて欲しいとか、そう言う依頼は何度も受けたことがある……。
ただ、初期症状の発熱から、理性を失って暴れ出す……狂化と呼ばれる第二段階までは、どんなに短くても丸一日……2-3日はかかるのが普通だった。
大抵この段階で、普通の風邪とかとは違うと言うことが解って、騒ぎになってくる。
最終段階まで症状が進むとなると、更に数日……初期の発熱からおよそ一週間ほどで最終段階まで至ると言うのが、これまでの明確なパターンだった。
今回の場合、初動については満点に近いし、神託を受けた聖女アステリアなんて言う切り札があるから、本来は楽勝のはずなんだが……。




