第五話「精霊砲エネルギー充填120%」②
……例の一本杉コーナー。
エテルナとか言う運び屋が事故ってたとこで、登りの最初の難所なんだが……。
本格的に峠に入ると、一気に道幅も狭くなるし、この視界ではギリギリを攻めるなんて、ちょっと勘弁して欲しい。
特に、頂上を越えて下りに入ったあたりともなると、いきなりヘアピンの嵐であんなところでカーチェイスなんてやりたくない。
だからこそ、ここで身も蓋もなく決める。
聖騎士が先に最初の緩めの右コーナー手前に差し掛かる。
R500ってとこで、割と緩やかなコーナーなんだが、定石通りなら、ここはフルブレーキング。
なんせ、コーナーの途中で坂の頂点になってるから、先が見えない……こんなところで初見で全開で突っ込んでいくとか、そりゃ只のバカっていうんだ。
聖騎士もこの先になにかあると感づいたのか、大きくアウト側に寄ってから、フルブレーキング……一気に差が縮まって来る。
うーん、さすが! 実に丁寧で読みやすいね! 優等生君っ!
エアライドのコーナリングは、基本的にはコーナー直前で目一杯減速してからゆっくりハンドル切って、コーナリングフォースがかかるまでは、アクセル踏まないってのが基本……。
だが、その定石を敢えて無視することで、最速コーナリングってもんが見えてくるんだが、聖騎士君は基本に忠実だった。
まぁ、ここでヘタれたり、逆にイキって加速して、続くS字でブレーキベタ踏みで大減速するようなら、こっちはさらっと追い抜く……それもありなんだが、それはそれで締まらない。
おいおい! マジで頼むぜ!
……まず最初の高速コーナー。
ここで、フルスロットルで突っ込んでいくと十中八九、S字で事故るんだが……事前の減速は十分。
地形に沿って、インベタで滑らかに通過しようとしている。
もっとも、レコードラインは大幅に外してるし、敢えて一瞬浮かせて、その先のS字を見たのか、なにかに驚いたように更に急減速。
おっと、やっぱり初見じゃ無理だったか。
つか、おせぇよ! クラクションあったら、パパパーッ! ってやってるとこだぜ。
「ここはちょっくらお手本でも見せてやるかな」
ここの複合コーナーは、シンプルに言えば、最初の高速コーナーで如何にスピードを落とさず、かつ車体バランスを崩さずにクリア出来るかにかかってる。
だからこそ、俺は敢えて減速無しで目一杯突っ込む。
簡単に言えば、コーナーに入る前から車体を横に向けて、車体を真横にすべらせながら、曲がった姿勢を維持しながら、コーナーの角度に合わせた上で、アクセル全開で一気に突っ込むってだけだ。
立ち上がり重視コーナリング……なんて言い方もするんだが、軽ワゴンのタイヤってのは幅も15cmくらいで扁平率も70とかそんなんだったから、グリップも何もなかったし、道も砂利道とほとんど変わりなかったから、もう全然踏ん張れねぇんだ。
……だからこそ、敢えて滑らせて誤魔化すってのが定番だったのさ。
ドリフトと似てるが、アレとはちょっと違う。
むしろ、アクセルワークとハンドリングで最初だけすべらせて、慣性と車両姿勢をコントロールするスライドターンってテクだ。
まずは、予備動作としてアウト側ではなく、イン側……一度右に目いっぱい寄せた上で、コーナーに入る直前で一旦逆ハン、アウト側へハンドルを切る……もう、ここからして定石と違うんだが、エアライドでの高速コーナークリアは、これが一番早い。
右コーナーなのに左へ急ハンドルを切ったことで、車体がバランスを崩して右側へ傾いて、重心も右に寄る……これがミソだ。
エアライド特有のタイムラグで、横Gの入りと車体が傾き始めるタイミングは一致しない。
案の定、グワッと横Gが来てから、ワンテンポ遅れて車体がグラッと傾き始める。
そこで一瞬だけアクセルも切って、ブレーキかけて重心を前に移してから、一気にカウンター……右へ切る事でスピン寸前のオーバーステア状態になる。
そこからタイミングを合わせて、アクセルをフルパワーに持っていくことでアンダーを出して瞬時に回頭するって寸法だ。
「名付けて、「木の葉返し」っ! はははーっ!」
……完璧に決まった。
要は、コーナリング中に敢えてスピン状態になる直前に追い込んで、いい感じの角度になったところで、フル加速する事で全てを帳消しにするってワケだ……。
「ドゥわあああああ! 壁、壁っ! し、死ぬーっ!」
「おおお、この斜めから押されるような感覚……久しぶりです!!」
なお、視界はコーナリング中にドーンとイン側の壁に向かって突っ込んでいくような感じになって、壁が真横に向かって流れていって、斜め横から加速Gがかかるとかそんな風になる。
聖騎士はきっちりアウト・イン・アウト、インベタでフルブレーキをかけてたから、まだ全然コーナーの途中。
インベタグリップみたいな走りだったから、余裕で並んで、聖騎士のエアライドの側面を眺めながら、軽く追い抜いていく。
更に軽くアクセルを吹かすと、野郎の前に鼻っ面が突っ込まれる!
決まった! オーバーテイクッ!
今頃になって、追い越し食らってたことに気付いて、更に即突待ったナシ……そんな風に思ったらしく、急減速。
こちらは、一瞬のフルスロットルのあと、コーナーのRに合わせて、繊細なアクセルワークとハンドリングで最適な角度に戻しつつ、立て直して綺麗にターン。
「……コーナリング勝負で俺に勝てると思ったのか? あばよっ!」
完全に前に出た状態で、更に逆ハンカウンター&フルスロットルで車体をまっすぐに立て直し、軽くブレーキをかけて、前傾を作る。
丁度、勾配の頂点とタイミングが一致したことで、浮き上がることもなく綺麗に山を超える。
そして、この先は急勾配S字なんだが、実はまっすぐに突き抜けるショートカットってもんが存在する。
センチ単位の綱渡り……ちょっとでもズレると、コースの端に生い茂ってる草木に引っかかって、スピンしてコースアウト。
だが、毎日走ってる俺には理想のラインが見えている。
「……ここっ!」
アクセルフルスロットル!
リアの精霊石が最大パワーを発揮して、それを推進力に変換する。
ワンテンポ置いて、前からシートに押し付けられるような猛烈な加速が始まり、S字コーナーも減速なしでまっすぐ突っ切っていく!
ちらっとバックミラーを見ると、慌てて加速して、俺のラインをトレースでもしようとしたのか、聖騎士様が道の脇の草木に車体を引っ掛けて、ハデにスピンするのが見えた。
「な、なんだ……その加速はぁああああっ! この私がっ! こ、こんなバカなぁああああっ!」
……むしろ、それ断末魔?
だが、スピンしながらもコースアウトせずにギリギリで立て直すと、車体をまっすぐに向けて、即座に追撃を開始する。
「ヒューッ! やるじゃん! あそこから立て直すってのかよ!」
「そんな曲芸で……貴様ごときの後背を舐めさせられるなど! あってはならんのだぁあああっ!」
ったく、元気イイねぇ……。
本来は、聖騎士が俺の真似をして真っ直ぐ走るのを見込んで、直線で並んだ時にぶちかます予定だったんだが。
聖騎士がミスって、大減速スピンとかやらかしてくれたから、ちょっと予定変更。
向こうが頑張って、追いついてきたところを待ってましたとはばかりにブチ込む……むしろ、簡単なお仕事だな。
この先は、ストレート。
総合パワーも安定性も向こうのほうが上。
直線勝負だとこっちはちょっとキツい。
当然のように一気に追いすがってくる。
だが、頭に血が上ってるのか、先程までのような慎重さも冷静さも欠けていたようだ。
戦場ってのは、アツくなったら真っ先に死ぬ。
まぁ、俺も勇者に偉そうに説教してたりしたもんだが。
歴戦の聖騎士だったルードリック辺りは、うんうんと実感込めて同意してくれてたからな。
「ちったぁ、頭冷やせ……ブチ抜かれて、冷静さを欠いた時点でお前の負けだったんだよ!」
完全な真後ろ距離50……これなら、もう避ける余裕なんてない。
砂時計もきっちり砂が落ちきってて、カウントゼロ!
「撃ちます! 精霊圧……マックスパワー良し! 全弾射出します!」
車体下部に突き出したツインマフラーのようなパイプ……精霊砲から、精霊が解き放たれて、螺旋状に絡まり合いながら、聖騎士の真正面へ迫る。
あっという間もなく、聖騎士のエアライドの進行方向の手前に着弾。
爆風に煽られて、完全に車体の裏側を見せながら、派手に宙を舞うのが見えた。
その後、ぞろぞろ後続してたバイク軍団も、アステリアがタイムラグを付けて放った第二波の雨あられのような精霊砲の爆風に巻き込まれて、乗ってたやつも含めて派手に宙を舞ってる。
……S字コーナーで聖騎士がスピンしたのを見て、減速してたみたいだから、大したスピードも出て無くて、派手にズッコケたところで雪の上だ……結界張ってるなら、かすり傷で済むだろうさ。
「……やれやれ。アステリア……どうだ、連中死んじゃいないか?」
いかんせん、精霊砲って威力がありすぎるんだよなぁ……。
手加減と言っても、直撃を避ける程度で至近弾でもあの有り様。
そのへんは、アステリアに丸投げしたんだが、まぁ……上手くやってくれたようだった。
と言うか、相変わらず容赦ねぇな……。
「そうですね……。一応、直撃は避けましたし、それぞれとっさに緊急結界を展開してたようなので、大丈夫じゃないですかね。ああ見えて、かなりしぶとい方々なので……」
確かに、車体直撃じゃなくて、地面を爆発させてその爆圧で吹き飛ばしたってだけだし、精霊石の誘爆も避けれたみたいだった。
もっとも、タイヤ代わりの精霊石が外れたのか、キラキラと光る物が空高く舞い上がって、地面に落ちて派手に爆発してる。
ああ、こりゃ確実に走行不能……リタイア確定だな。
でもまぁ、確かに、手加減……アステリア、グッジョブ!
かくして、追手の聖騎士共は返り討ち。
いつものパターンっちゃ、いつものパターンだった。




