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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第五話「精霊砲エネルギー充填120%」①

 この撤退中に追手を返り討ちにするってのは、なんかもう定番みたいになってて、魔王軍の将軍やら幹部やらが何人もこの精霊砲の餌食になったらしい。

 

 やれる時は、やられる時ってな……ぶっちゃけ勇者パーティが直接戦って殺ったのよりも、この撤退のどさくさで討ち取った魔族の方が遥かに多かった……なんて話も聞いた。


 いかんせん、勇者パーティ……とにかく、勇者イルマがアホ過ぎた上に、上の連中も無茶振りばかりで、勇者パーティ自体は正々堂々真正面から喧嘩売りに行って返り討ちにあって、後方で待機してた俺が強引に現場に乗り込んで回収するってのが、もはや定番になっててなぁ……。


 実際、俺が活躍したのは、この撤退戦がほとんどだった。

 なんせ、俺の役目は勇者パーティの面々を目的地まで送り届けて、無事に帰還させることだったからな。

 そう言う意味では、ミッション達成率は100%だった。

 

 もっとも、敵に背を向けて、逃げ帰ってる時点で自慢にもならんってことで、それら撤退戦での撃破スコアはノーカン扱いになったとかで、そう言うのも俺が役立たず扱いされた原因にもなってるんだよなぁ……。

 

 俺に言わせりゃ、真正面から正々堂々と魔王軍の拠点にカチコミ……とかやってる方がどうかしてるって思うんだがね。

 一発殴って即撤退……逃げながら、勇んで追ってくるマヌケを返り討ちにする……なかなかに、効率的な戦法だろ?

 

 もっとも……勇者パーティを離脱後は、聖女と賢者の姉妹に匹敵するほどの射手なんてそうそう居るはずもなく、この精霊砲をぶっ放す為に一度止まって……とかそんな使い方を余儀なくされてたんだよな。


 アステリアなら手慣れてるし、聖騎士のエアライドの構造とかも熟知してるはずなので、直撃させずに足止めさせるだけと言った事もやってのけるだろうし、聖騎士とその従騎士ともなると、そう簡単にゃ死なねぇし、コイツも手加減くらいするだろう。


「……よし、任せていいか? 射線は俺がなんとかする……。照準はそっち任せだが、くれぐれも直撃はさせるなよ……さすがに死なせちゃいかんだろ」


「バカは死なないと治らないって言いますけどねぇ……。そもそも、教会うちが一枚岩でもなんでも無いなんて、ご存知でしょう? あれは私に付けられた枷のようなものだったんですよ……。まぁ、そこそこ有能ですし、信仰心も本物なんですが……」


「……俺もお前らのとこの異端審問官に拘束されて、異端呼ばわりされたりしたからなぁ……。あの一件ですっかり教皇さんに借り作っちまった」


 ちなみに、俺は聖堂教会の神……光明神ルクシオンとか、別に崇めてないし、教会に入信した覚えもない。


 なんでまぁ、異端審問官に囲まれて異端認定とかされながらも、「お前らの神なんぞ知るか、ボケェ!」って言いながら、拘束魔法を破壊して、全員まとめてブチのめしてやったし、その場にいたボスのなんとかって枢機卿もボコボコにしてやった。


 最終的に聖堂教会のボスの教皇さんが出てきて「そもそも、君うちの信者でもなんでも無いんだから、異端も何もないでしょ」ってお墨付きをいただき、異端審問室も色々と問題ありってことで、正式にお取り潰しとなり、教会でもかなり高い権限を持ってたボスの枢機卿もどっか行った。 


 教皇さんも「神のもとにでも行ったんじゃないかな?」って言ってたし、どうもそう言うことらしい。

 あの教皇さん……おとなしそうな割に、やる時はやるってことだった。


「あれは……まぁ、当然の結果ですよね。ですが、教皇猊下も日和見猊下とか言われてたのが、あの一件ですっかり権威と権限を取り戻せたって言ってまして……。貸し借りはゼロっておっしゃってましたよ」


 確かに……個人的に気に入ったとか言ってたし、教皇直々の輸送依頼なんかもたまに依頼されるようになったからな。

 ちなみに、報酬はいつもびっくりするほど高い。


 依頼内容は……主にエブラン名物の貴腐ワインの輸送依頼。

 ワイン好きって言ってたから、アステリア経由でエブラン名物の貴腐ワインを教皇さん宛に寄贈したんだが、すっかり気に入ったらしく、毎年輸送依頼が来るようになった。


 たまに、良く解らないものをよくわからん場所へ運んだり、如何にも訳アリっぽい人を運んだりとかそう言う依頼もあった。

 基本的に、教皇さん本人じゃなく、代理人みたいなのを経由してたっぽいけど、わざわざ俺指名で教会関係案件って時点で、教皇さんが絡んでたのは明らかで……。

 そう言う意味では、むしろお得意さんかもしれん。


「まぁ、今回の件も無事に片付いたら、教皇さんに報告くらいしにいかねぇとな……。なんでまぁ、さすがに聖騎士を殺しちまったら、俺も顔が立たないからな。ひとまず、思うところがあるのは解るが、殺しはなしで行く」


 俺がそう言うと、何故かアステリアも良しって感じで、片手をぎゅっと握る……なんだか、すごく嬉しそう。


 なるほど、アステリアも聖騎士を殺せとか言われたら、どうしようっておもってたんだな……。


「……俺も殺しに来たやつには容赦しねぇけど、そうでない奴には手加減くらいするからな……。聖騎士の野郎はムカついたが、殺意は向けてこなかったからな。だから、手加減する……そう言うことだ」


「あ、そっちのことですね? そうですね……精霊砲なら直撃せずとも、至近弾でも精霊石がオーバーフローを起こして不活化しますから、初弾で全員まとめてご退場いただきましょうか」


 まぁ、これが精霊砲の反則級なとこでなぁ。

 精霊そのものの体当たり攻撃だから、マナの密度も半端じゃない。

 魔獣や魔族の魔術結界なんかも一発で割れるし、実はこのニ体の精霊を束ねるってのが意外とキモでね。


 一体目が結界を割って、二体目が本体を仕留める。

 まぁ、一言で言って殺る気に満ちている。


 実際、対戦車ミサイルだかでタンデム弾頭ってのがあって、同じように二段構えになってて、重装甲の戦車を確実にふっとばすようになってるんだとか。

 

 爺さんは魔王軍に息子夫婦を殺されたとかで、魔王軍への復讐のためにこの精霊砲と言うチート装備を作ったらしかったんだが。


 本来は逃げ撃ちとかじゃなくて、高台に陣取って、遠くからスナイプするとか、そんな想定だって言ってたんだよなぁ……。

 

「ああ、そうしてくれ……。くそっ! あの野郎、前に回り込んでもう勝った気でいやがるな……」


 この辺りは道幅も広い……高速コーナーで大外から行かれてブロックも出来ずあっさりと前に出られてしまった。


「そんな……おじ様をこんな簡単に追い抜くなんて……」

 

 向こうもこっちに聖女が乗っているから、車間を空けてこちらに速度を合わせながら、徐々に減速させてようとしている。

 追い抜こうにも、巧妙にブロックされて簡単には追い越せない。


「確かに、いい腕をしてるぜ。こんな最悪レベルの天候で、不慣れなはずの山道で事故らずに居るって時点で、そこは認めざるをえないな……」


 強引に加速しようとすると、向こうもきっちり合わせて加速して、車間もさっぱり詰まらない。


「へへっ! コーナリングも上手いじゃねぇか……そこらを走ってる同業のエアライダーと比べても、腕前に格段の差があるぜ! おもしれぇっ!」

 

 実際、この100km近い速度域で破綻してない上に、加速性能も減速性能も一級品……車両性能も上々って事か。

 あの無駄にハデなウィングも、どうやら可変式で風に合わせて自動で角度調整することできめ細かく対応できているらしい……。


 ガチで世界最速の部類に入るんじゃないのかね……ムカつく野郎だったけど、腕前もマシンも大したもんだ!

 ……まったく、普通に勝負したって、実にアツい悪くない勝負になりそうなんだがねぇ。


 いよいよ、時速50kmを切った……このあたりから本格的な登りになって、なかなかの急勾配でコーナーも多い上に、理想ラインを塞がれてるから、必然的にそうなる……駆け引きも上手い……いやはや、むしろ尊敬したいくらいだぜ。

 

 置いてけぼり状態だったバイク軍団も、こちらの速度が落ちた事で、急速に追い上げて来るのが解る。

 何人かはすでに抜刀している……仕掛ける準備は上々ってか?

 

「おじ様! そろそろ、頃合いなのでは? このままでは囲まれてしまいます! 準備もできましたから、いつでもどうぞ!」


 だが、アステリアもすでに準備完了。

 

 赤と青……十体もの炎と水の精霊が壺の中に押し込まれて、中ではすでに押し合いへし合いの壮絶なバトルが始まってる。


 魔力で蓋をするのは、本来俺の役目なんだが、すでにアステリアが自主的にやってくれてるので、問題なく閉鎖出来ている。

 3年も経つのに、手順とか完璧に覚えてやがるんだなぁ……さすがだぜ。


 ただし、この状態は長く続けてはいけない。

 凡そ3分……180秒後にはぶっ放さないとこっちが自爆する。


 あれこれ指示する前にアステリアも照準器の横の砂時計をひっくり返してる。

 ちゃんと目盛りが振ってあるんで、残り時間のカウントもおおよそながら解るようになってる。


 どうせなら、アナログな数字がカシャカシャとカウントダウンする仕組みとかやりたかったんだがなぁ……。

 

「……限界カウントダウン開始します。150……49、48、47……」


 アステリアの冷静なカウントダウン。

 別に読み上げとかいらんのだけど、俺も助手席の砂時計なんて見てられないんで、タイミングを測るために、助手席の砲手担当がカウントダウンアナウンスをするってのがお約束になった。


 と言うか、必殺の主砲発射と言えば、カウントダウンがお約束だろ?


 別に、カウントダウンの途中で撃っても一向に構わんのだがね。

 ゼロカウントだと、臨界ギリギリだから最大威力になるってだけだし、アステリアも始めから20秒くらいサバ読んでる。


「一応、余裕を持ってますが、カウントダウンの増減あったらお願いしますね」


 さすが良く解ってらっしゃる。

 チラッとアステリアを見ると、ドヤ顔でビシッと親指立てられる。


 まぁ、実際……とってもやり易い。

 

 俺にとっては、毎度のことだった戦場からの撤退戦とかも、あーだこーだ説明してる余裕なんてないから、勇者くんは「はぁ?」とか「なんでだよ!」とか、騒々しかったんだが。


 この姉妹はいつでも、即答「おまかせ!」

 何の疑問も挟まず、むしろ120%くらいの仕事で応えるとか、パーフェクトな奴らだった。


 そして、今回も同様……。

 すでに、真後ろに張り付いてのロックオン状態……この距離ならもう目をつぶっても当たる。


 だが、向こうもさるモノ……。

 真後ろに張り付いた時点で、なにか仕掛けてくるって悟ったのか、右へ左へと落ち着きなく動いて、射線を外そうとしているようだった……。


 まぁ、誘導させることが出来る時点で、多少の小細工……ものともしないんだが、この場合は一度後ろに撃ってから、Uターンさせる関係上、弾速がかなり落ちるし、着弾直前ギリギリで大きく動かれると外される可能性はあるからな。


「すまん、予定変更だ……今から、野郎をぶち抜くから、追いすがってきたとこへブチかましてくれ!」


 本来後ろ向きに撃つ大砲だから、やっぱりオーバーテイク……ブチ抜いてからってのが理想だし、その方が勝ったって感じがして、気分もいい。

 

 仕掛ける場所は、もう決まってる……この先の一本杉の高速コーナーとS字ヘアピンのダブルコーナー。

 

 あそこなら、クリアラインが限られてる……なにせ、レコードラインは一本だけしかないんだからな。


 腕利きなら初見のラインも読める……それが大前提なんだが、奴の腕が確かなら、すでにその動きは見切れたようなもの。


「解りました。一旦カウントダウン停止……精霊圧もこのまま均衡状態を維持します」

 

「頼むわ! さて野郎はどう出るかな? まぁ、どっちに転んでもオサラバって事には変わりねぇんだがな」


 ひとまず、聖騎士様にはご退場いただく。

 これはもう、確定事項だ。

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