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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第四話「聖女強奪、そして始まるカーチェイス」①

 そんなわけで……。

 地下水道経由で教会に忍び込み、床下をゴソゴソと這い回って、目的地の教会宿泊所の個室の前に到着。

 通気口の蓋をどうやって開けようかと思ってたら、割と力技って感じで蓋がベリベリと引き剥がされて、見慣れた顔が覗き込んでいた……。


「やっぱり、おじ様……来てくれましたね! 身支度も人払いも済ませているので、そのまま出てきてもらって問題ないですよ!」


 そう言って手を差し伸べられるので、握り返して、通気口から這い出てくる。

 さすがに、ホコリやら煤まみれになったが、そんなもんはどうでもいい。


「……よ、良く解ったな。俺、隠密スキルにそこそこ自信があったんだがな」


 さすがにちょっと自信なくすぜ。

 こう見えても、本職の暗殺者やら隠密兵相手に闇討ち仕掛けたり、厳重に警戒してる魔王軍を出し抜ける程度には、魔力も気配も完全に消せる高度な隠密スキルを身に着けてたんだがな……。


 アステリアはすでに身支度も整えて、髪型もバッチリ……おまけにうっすらと化粧すらしてる。

 ……準備万端もいいとこだった。


「伊達に聖女とか呼ばれてませんよ。もっとも、こうも完璧に魔力も気配も消せるなんて、私でも無ければ、侵入に気づけなかったでしょうね……どうやら、腕もなまっていないようで、安心いたしました」


「やれやれ……さすがって、褒めてやるよ。だが、良く俺が忍び込んでくるって解ったな」


「ふふっ、そこは元勇者パーティのメンバー同士の絆故に以心伝心……ということでっ! むしろ、思ったよりも遅かったので心配してました」


 まぁ、コイツもあのミハイルとかいう聖騎士が居なかったら、即断でエブラン行きを決断してただろうからな。

 

 そもそも、こいつもあの時「ご迷惑をおかけしますが」……なんて言ってやがった上に、今夜どこに居るかまできっちり教えてくれていた。


 実際、あのイケスかねぇ野郎と不毛な言い争いだの、殴り合いをするよりかは、こっそり忍び込んで、黙ってかっさらうってのが一番って思ったんだが、こいつもそこは同じだったって事だ……。

 

 まぁ、ある意味一番穏便な手段だわな。

 

 聖女様を掻っ攫うついでに、あのイケメン聖騎士野郎のツラをボコボコにしてやるってのも悪かねぇんだが……アステリアの手前、そこは勘弁してやる。

 

 教会からギルドの駐機場までのルートは、ギルドの冒険者たちが確保してくれているらしいので、教会から出ちまえばもうこっちのもんだ。


 今はちょうど日付が変わったばかり……俺がエブランを出たのは、丁度半日前……となるとエブランでは、火病の初期症状で何人も高熱で倒れ始めてる頃だとは思う。

 

 いずれにせよ、住民たちが動き出す夜明け前に着くことが出来れば、アステリアなら村丸々一個分を包み込むような巨大清浄化結界を張ることが出来るから、一網打尽に出来る。

 

 まったく、神託なんてインチキがあるのに、ギリギリ過ぎて嫌になるが……大丈夫、まだまだ慌てる時間じゃない。


「一応、先に言っとくが……。お前は俺に誘拐されて、強引にエブランに連れて行かれて、浄化の儀式を強制された。そう言う事だから、そのつもりでいろよ」


「あら、私がおじ様を売って自分の立場を守るような薄情な女だとお思いですか?」


 当たり前のようにそう返されて、思わず苦笑する。


「いや、むしろ立場を守ってくれよ。こいつは、あくまで俺の身勝手な独断……俺は本来ならば、指を触れるのも恐れ多い聖女様誘拐の犯罪者ってわけだ。犯罪者に脅されて仕方なく……そう言っとけば、全部丸く収まるだろ。いいから、急ぐぞ! すまんが、そこの通気口から、地下水道に繋がってるから、先に行ってくれ……」


「かしこまりです。ああ、でも大丈夫ですよ。ミハイルや他の従者達、教会の方々も全員、熟睡してますから。ほら……」


 そう言って、アステリアが無造作に個室の扉を開けると、ミハイルが床に座り込んだまま、寝息を立てていた。

 なるほど、寝ずの番……のつもりだったんだろうな。


「……で、何をやった?」


 いくらなんでも、こんな白目剥いて死んだように寝てる時点で普通じゃない。


「えっと……差し入れってことで、黒茶を淹れてあげたんですが……。ゆっくりとお休みできるように、特製の魔法薬をちょっとだけ……」


 相変わらず、いい性格してるよな。

 実は、何気にコイツ……この手の魔法薬や毒物の扱いにも長けている。


 医療技術のスペシャリストでもあるから、ポーションや薬の調合なんかも、素材さえあれば、出先で軽くやってのけるほどだからな……。

 なんだかんだ言って、こいつ……普通にチートヒロイン枠なんだよなぁ……。


「なるほど、他の従者も教会関係者も全員この有り様か……お前、やっぱヤバいわ!」


「な、なんですか! それはーっ!」


 それから……。

 教会内にも20人くらい居て、全員武装もしてて、どうやらミハイルも、俺やエドガーがアステリアを強奪に来る可能性を想定してたようなんだが……。

 

 保護対象が差し入れに睡眠薬を仕込んで来るとまでは、予想してなかったんだろうな。

 断言してもいいが、コイツ……巷で言われてるような清く正しい聖女様とは程遠い。


 策略と心理操作に長けたむしろ魔女とかそう言う類のやつだ。

 勇者パーティに動員されたばかりの頃は、もっと心優しい清く正しい聖女様のテンプレって感じだったんだがなぁ。

 

 要するに、勇者パーティで魔王軍とやり合ってる間に色々あったんだよ。

 

 その上で、武術を身に着けた事ですっかり自信を付けちまって、更に魔王軍の奴らも、割と呪いやら、毒物みたいな遠回しな絡め手が常套手段だった。

 

 必然的にカウンターパートになったコイツも、魔王軍の精鋭相手にあの手この手で凌ぎ合ったりしてるうちに、なんだかすっかり悪知恵が付いて、一端の策略家みたいな感じになってしまった。


 実のところ、この聖女強奪ミッションもコイツに誘導されたようなもんだよなぁ……。


「ふふっ、こんな真夜中に大通りをおじ様と歩くとか……ワクワクしてきますね! それにこんな幻想的な雪景色の中……とってもロマンチックです!」


 ……めっちゃ楽しそう。

 おまけに、なんだかナチュラルに腕組まれて、ずんずん先に引っ張られてってるし。

 むしろ、俺の方が引きずられてるように見えるだろうな……これ。


 やがて、ギルドの駐機場。

 なお、ここまで来るのに追手どころか、見張りなんかも一切無し。

 強奪への警戒ってことなら、街中に見張りくらい立てとくもんなんだがな……セキュリティ意識がガバ過ぎて、こっちが心配になるぜ。

 

 何人か、冒険者に会った程度で、そいつらも全員グルで顔見知りだから「がんばって!」とか声援をかけられる始末。


 教会関係者の人数も軽く20人くらい居たようなんだが……恐らく、長旅のねぎらいとか言って、全員集めてまとめて遅効性の薬仕込んで眠らせたんだろうな……。

 

 ……ったく、ヒデェことするよなぁ。


「おじ様、なんだか失礼なこと考えてませんか? あ、「ストレイ・キャッツ号」……久しぶりですね!」


 そう言って、アステリアも俺の愛車……「ストレイ・キャッツ号」に駆け寄ると手慣れた感じで、助手席のドアを開けて、素早く乗り込む。


 昔から、コイツは助手席大好きで、移動の時はミスティアと毎回、助手席争いを繰り広げてたんだよなぁ。

 お前ら、子供かよっ! っていつもツッコんでた。


 まぁ、実際お子様と言って差し支えない年齢だったから、そこは気にしてなかったんだがな。


 ちなみに、勇者パーティのリーダーの勇者イルマ君は、一回乗って途中で盛大にリバースして以来、助手席は絶対乗らないとか言い張るようになって、最後部の貨物室のエマージェンシーシートがその定位置になってた。

 

 そっちの方がよほど、ひでぇ乗り心地だと思うんだが……むしろ、派手に揺られてた方がかえって酔わないらしい。

 ちなみに、俺は生まれてこの方一度たりとも車酔いなんて経験してないんで、そこら辺はなんとも言えん。


 アステリアは三点式シートベルトもばっちりで、ガチャガチャとリクライニングのダイヤルを調整中。

 こう言う装備もあっち準拠……なんだかなぁって思わなくもないが、こっちとしては見慣れてるから、違和感もない。


 俺も運転席に乗り込むと、四点式のシートベルトを着用して、ハンドルの横にある起動用の小型精霊石に手を当てて、魔力を流し込む。


 レシプロエンジンみたいにドルンと始動音を立てたりはしないんだが。


 一瞬で車体に魔力が浸透して、主機と言える特大精霊石が活性化して、地面のマナラインと接続されて、キィーンと言う高周波音が響きだす。

 

 ちなみに、これは魔力認証も兼ねてて、俺以外の奴が起動しようとしてもこの時点で弾かれて、動かなくなる……なにげにセキュリティ高い。

 

 やがて、車体に魔力が通って、自分の体の一部になったような感覚になる。

 ハンドルを握って、魔力操作を行い駆動用精霊石にも魔力を循環させて活性化させる……。

 ここまで来ると、大精霊石が地面から湧くマナを増幅させたうえで、吸収して各所の精霊石に行き渡らせるようになるので、俺自身の魔力は切ってしまっても、なんら問題なくなる。


一般的な魔術を使う場合は、バッファとして自らの魔力容量はかなり重要視されるんだが……。

 

 エアライドの場合ライダーの魔力ってのは、いわば呼び水みたいなもんで、魔力係数自体は100以上行ってりゃ、十分だったりもする。

 

 フワッと浮かびあがる感覚がして、車体に完全に魔力が通ったことで、半透明だったフロントウィンドウもスーッと透明になる。

 

 ちなみに、これはスライムの外皮を乾かして加工したもので、本来は半透明なんだが、魔力を流すと硬化透明化すると言う性質を持ってて、触った感じは硬いビニールみたいな質感なんだが、小石が当たった程度ではびくともしない上に、傷が入っても自己修復するスグレモノで、エアライドのウィンドウ素材として重宝されている。


 ロードクリアランスはやや低め……浮力バランスのセッティングは、戻る時用に雪道、強風想定でバッチリ決めてるから、このままでよし。

 

 相棒のニャースキーは静かなんだが……コイツは、基本的に俺以外の前には出てこないからな。

 そもそも、コイツの役割はエアライドの制御システムみたいなもんだからな。

 

 細かい姿勢制御やら、魔力の分配などについては、事前の命令セットに基づいての自動制御となっている……。


 なにげに、AI制御の自動運転車も顔負けなくらいの高度な仕組みを持つ……それがエアライドって乗り物なんだよなぁ。

 

 もっとも精霊術師でもないのに、精霊と意思を交わせる時点で普通にあり得ないらしいんだが。

 コイツは、普通に話しかけてくるし、姿も見せてくれる。

 

 本人曰く、そんなの気分次第だから、細かいことは気にすんなとかなんとか言ってた。

 もっとも、端から見たら、何も無いところで見えない何かと話ししてるように見えるらしいので、人前では控えてるし、コイツもそこら辺はわきまえてるらしい。

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