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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第三話「聖女アステリア」⑤

「はい、「そう言うこと」でお願いします。おじ様には、大変ご迷惑をおかけする事になりまして、誠に申し訳ありませんが、ご理解いただきたく存じ上げます」


 えらく他人行儀な返しだったが、俺は彼女の言葉の意味を取り違えたりはしなかった。


「解った、解った……。確かに長旅で疲れてるだろうからな……で、何処に泊まるつもりなんだ? ボロ教会の宿泊所か? それとも宿屋にでも泊まるのか?」


「はい、こちらの教会にはおっしゃられる通り、宿泊所がありますからね。個室もあったはずなので、そちらにお邪魔させていただこうかと」


「ああ、確かにそんなのあったなぁ……。浮浪者やら金のない貧乏冒険者御用達って事で、雑魚寝部屋がいつも開放されてるし、教会関係者専用の個室もあったっけな。おい、ミハイルとやら、明日の朝にのんびり出ればいいから、今夜くらいはゆっくりさせてやってくれよ。まさか、それすらも許さんとか言わないよな」


「き、貴様に言われるまでもない。マスター殿、すまないが……こちらの意思は確かに伝えた。貴公の立場を鑑みても、思うところもあるのは理解するが、こちらの事情も理解して欲しい……」


 マスターも何言ってやがるとばかりに立ち上がろうとするんだが。

 俺もすっと隣に行くと、肩を叩く。


 いいから、ここは黙って見送れっての。

 マスターも何か言いたげだったが、俺の様子を見て、舌打ちをすると椅子に座り直す。


「……解った。ミハイル殿や聖女様にも立場があるって事だな……お互い宮仕えって奴は辛いな。すまなかった……こちらも色々と無理を言って……。だが、こちらで出来ることはやれる限り、やらせてもらう……俺達は、エブランを救う努力は最大限続ける……それこそ最後までだ。お前ら教会とは違うんでね……そこは理解してくれや」


 そう言って、エドガーも深々と頭を下げる。


「申し訳ありません、こちらこそ……ご期待に添えなくて……。ミハイル、ひとまず教会へ参りましょうか」


「はっ! かしこまりました!」

 

 まぁ、この場はとりあえず、丸く収める……それがベストだった。

 去り際にアステリアが俺の目を見つめながら、ペコリと一礼すると片目を閉じる。

 

 そんな彼女の様子に、ミハイルがチラッと俺に向かって振り向くと、鼻を鳴らして退出する。

 

 ……残された俺達は、しばらく、互いに押し黙ったままだった。


「……で、良かったのか? あのまま見送って……言わせてもらうが、聖女のお嬢ちゃんは行く気満々だったじゃねぇか……。俺は、あの時お前が聖騎士を殴り倒してくれたら、これ幸いとそのままふん縛って、地下室にでも放り込んで、黙らせるつもりだったんだぜ。そうすりゃ、あとはお前が聖女の嬢ちゃんをエブランまで送っていきゃ済む話だったじゃねーか」


「ははっ、聖騎士をぶん殴った上で拉致監禁とか……そりゃ、冒険者ギルドが聖堂教会に喧嘩売ったとか、そう言う話になるだろ。さすがに俺もアンタもだが、何よりもアステリアの立場も危うくなるし、俺もそんなアブねぇ橋を渡りたくはねぇよ。だからまぁ、抑えたんだ……本音を言えば、あのイケメンフェイスに思いっきり鉄拳を叩き込んでやりたかったんだがな」


 もちろん、聖騎士ってのは身体防御結界を使いこなせるので、完全な不意打ちでもなきゃ鼻っ面にパンチなんて決まらんだろうがな……。

 

 だが、出来る出来ないで言えば、出来る……あの野郎は余裕ぶっこいてたけど、あの距離で俺が本気だったら……まぁ、余裕だったな。

 

 実際、すでに結界も張ってたみたいだったが……あの程度の結界なら素手でイケる。

 

 ちなみに、結界対策は割と簡単。

 思いっきり魔力を拳に集めて叩き込みゃ、大抵の結界がパリーンとカチ割れる。

 本来、そんな簡単に割れないらしいんだが、俺の無駄に多い魔力なら、その程度のことは可能だった。


 もっとも、さすがにそれをやってしまえば、俺は間違いなく聖堂教会を完全に敵に回すし、それを傍観した挙げ句に、聖騎士を地下室に軟禁とかやらかしたら、マスターも最低でも首が飛ぶし、最悪だと物理的に首が飛ぶ……。

 

 アステリアもそれは望んでない……だから、俺も控えた。


「むしろ、良く抑えてくれたって言うべきだったか……。俺もすっかり頭に血が上ってたな……すまん。だが、どうするんだ? 火病の発生は確定で、聖女様も使えないとなると、割とどうしょうもねぇぜ。ひとまず、薬師からの連絡で、解熱ポーションと原材料の火渡り草をありったけ送ろうとしたんだが、エテルナが事故っちまったんじゃ、もう在庫もねぇ……。こうなったら、ギルドの腕利き集めて、教会襲撃して聖女様さらっちまうかな……」


 まぁ、火病ってやつはマジでヤバい。

 これまで火病が大きな問題にならなかったのは、ある程度対処法が確立されていることと、医療関係者やアステリア達聖女が頑張ってくれてたおかげと言ってもいい。


 ざっと聞いた感じだと、事前に聖女なり、大司教みたいな高位聖職者に神託が降りてきて、神託にしたがって先回りする形で現地に向かって、発生初期の段階で対応することで速やかに沈静化する。

 

 アステリア達はこれまで、そう言う形で対応することで、犠牲者も最低限に抑えつつギリギリで鎮圧してきたようだったし、後から検証すると神託があった場合ってのは、どれもかなり危険なケースで神託のお陰で無事に済んだとか、そんな話ばかりらしい。


 ちなみに、神託ってのは本来、世界の危機とかそんなんでもない限り、滅多に出ないもんなんだが。

 その神託が火病関連では、もう乱発ってくらいの勢いで出てるらしい。

 

 要は、神様も火病ヤベェって認識で、何とかして蔓延を防ごうと努力してるって状況……魔王なんて、むしろちっちゃい脅威だったんじゃねーかな。

 

 実際、俺も前々から馴染みの教会関係者からそんな話は聞いていたし、アステリアも気丈に振る舞っていたが、疲労は隠せない……そんな風にも見えた。


 どうも、あの様子では現状聖女のミッションは、この火病対策がかなりのウェイトを占めていて、本来勇者の支援役だったアステリアがこんな辺境に来ていたのも、本人も言っていたように、神託があったから……。


 今まで動けなかったのは、発生源の特定が出来ていなかったから……総当りで近隣の農村へ現地視察に行こうにも空振りになったら、それだけで大幅なタイムロスを余儀なくされるから。

 だからこそ、エブランから帰ってきた俺が火病の残滓をまとってたことで、確証が取れた。


 だが、アステリアではなく、付き人のミハイルの現場判断で手遅れ確定と言うことで、勝手に話が進められてしまった。

 もっとも、本来なら、アステリアは第四席……要するに、トップに近い権限を持ってて、横紙破りもいいとこなんだがなぁ……。


 まぁ、教会も年功序列ってのがまかり通ってるし、枢機卿なんて言ったら、私利私欲に凝り固まったクズばかり……。


 と言うか、あの様子だと次の案件が控えてるか何かで、こっちの件は被害が少なさそうなら、始めから見捨てる算段だった……そんな風にも思える。


 ちなみに、焼却処分ってのは文字通り、町や村を丸ごと焼き払う……。

 専門の焼却部隊……葬送部隊とか言う教会の暗部がいて、生き残りがいようがいまいがお構い無しで、徹底的に焼き払って全てを無かったことにする。

 

 ……そんなロクでもねぇ奴らだ。

 実際、前にそいつらともやり合ったことがあるんで、どんな奴らかは良く知ってる。

 よく言えば、職務に忠実……悪く言えば、頭のおかしい狂信者だな。

 

「おいおい、冒険者ギルドのマスター様が、そんな力づくとか犯罪組織のボスみたいな事考えてちゃいかんだろ」


「だ、だが……ここで聖女様を帰らせちまったら、エブランはもう終わりだ……。確かに、犯罪かもしれんが、あの野郎をはっ倒して、口出しできなくさせた上で、聖女様をかっさらうってのが一番……俺は今でもそう思ってる。言っとくが俺だって、なんとしてもエブランは救いたい……。村を離れて随分経つが、あそこが俺の故郷って事には何ら変わりない……。もし救えるってのなら、今のギルドマスターの立場だって、喜んで捨ててやるぜ」


「……だからよぉ。そう言うことなら……一介の運び屋の俺が、まとめて泥かぶりゃいいって話だ。なぁに、アステリアは今夜、教会の宿泊所に泊まるって言ってたろ? 俺、教会の補修工事を手伝った事があるから、人知れずこっそり忍び込むルートも知ってるんだよ。で、こっそりとあいつを連れ出して、そのままエブランに行く。あとはアステリアが何とかしてくれるって寸法だ」


 具体的には、地下水道から教会の宿泊所の個室にギリギリ人が通れるくらいの通気口が繋がってるんだわ。

 だから、侵入するとなると通気口を通って、忍び込む……実に簡単な仕事だった。


「ば、馬鹿野郎! そんな事になったら、お前が……」


「俺のことなら構わんぜ。俺もエブランの皆には、色々と世話になったからな……。助ける手段があるなら、助ける……当たり前の話だ。アステリアも俺に強引に連れ去られたってことにすれば、単なる被害者って事でお咎めもなしだろ。まぁ、俺はしばらく逃亡生活ってなるだろうが、海の向こう側にでも逃げて、ほとぼりが冷めるのを待つってだけの話さ」


 幸い俺は、元勇者パーティの専属エアライダー崩れの民間運送業者……単なるフリーランスの運び屋だからな。

 一応、この冒険者ギルドにも冒険者として登録はしてるし、ちょくちょく顔も出してるんだが……冒険らしい冒険なんて、全然やってない。

 

 うっかり轢き殺しちまった魔物の素材を換金したりとか、それくらいだな。


 ちなみに、そんなんでもちゃんと功績扱いになるんで、そこそこの冒険者の証、Dランクの称号持ちだったりする。

 それに、マスターのエドガーとは仕事明けに飲みに行ったりしてるし、他の冒険者たちの送迎や救援なんかもよくやってるから、一目置かれてるのは確かだな。

 

 とは言え……有り体に言って、根無し草の風来坊と大して変わらん。

 俺の異世界生活の始まりの場所にして、ホームグラウンドのワダツミ峠にしばらく来れなくなるのは、残念だが……よその土地に行っても何とでもなるし、2ー3年も経てば、ほとぼりも冷めるだろうから、こそーっと戻ってくりゃ済む話だ。


「……セナ……すまない……。本当に……感謝する」


 マスターも何やら言いたげのようだったが、絞り出すようにそれだけを告げた。


「まぁ、いいってことよ! あとは俺に任せとけっての」


 そう言って、笑いかけると、エドガーも感極まったように大泣きし始める。


 まぁ、コイツはそう言うやつだ……涙もろくて人情にアツい。

 そう言うヤツだからこそ、ギルマスなんて立場になっても、色んなやつから慕われてるし、俺も友人としてそれなりに長い付き合いだからな……有り体に言ってマブダチって奴だ。


 マブダチの頼みなら、そりゃ断れねぇよな。


 それから……一通りの打ち合わせを済ませて、俺も執務室を後にする。

 さて、聖女強奪ミッションの始まりってな。

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