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第5話 宅配司書が死ねない理由 ②
事の発端は半刻ほど前。
ウィスタリア私立図書館、閉架書庫でのことである。
「ラヴェンナちゃんー」
高々と積み上がった書棚の隙間に入り込んで、書物を棚へ戻していたラヴェンナに、同僚の独特の甘ったるい声がかかった。
「スウィーティ」
脚立から見下ろすと、同年代――二十代半ばの女性がパレットをひさしがわりにこちらを見上げている。編んだ髪を左右の耳元に団子状に括り、桃色のレースのリボンで結び。
ロイヤルブルーの制服は膨らんだ袖にフリル、シフォンスカートと、ラヴェンナのそれよりクラシカルなデザインだが、絵の具で大分汚れている。
図書館専属の挿絵画家という個人性の高い生業をしている彼女は、生き生きと絵筆を振って合図した。
「宅配司書の注文が入ってるみたい。女の人。来館してのレファレンスの後、自宅に来訪希望だって。珍しいね」
その頬にピンク色の絵の具がついていることに気付いて微笑みつつ、ラヴェンナは頷く。
「わかりました。すぐ行きます」




