第4話 宅配司書ができるまで ㉑
金色の朝日が灯る数日後。
スーツケースを従えて、ダイアンはラヴェンナに向き直った。
小さな少女のその背にはリュックサックがある。
今日はアパートを引き払う日。
「気が変わりました、ラヴェンナさん」
しゃがみ込み、見せるのは、そのつもりなどないのにすっかり板についてしまった柔らかな笑顔だ。
「あなたはシルベステ氏のところには行きません。もちろんゴルディ氏の元へもです」
「……はい」
咀嚼するように、ラヴェンナは言葉を飲み下す。
「わけあって僕もあなたと同じように行き場のない身となりました。盗賊団に追われ逃亡しなければなりません。そうなってしまった以上は、互いに助け合うのが得策と考えます」
「はい」
「そこで提案なのですが、しばらく、外国で生きるための資格を得、ほとぼりが冷めた頃この国で商売を始めるというのはいかがでしょう」
もうみすぼらしい歯切れではない。
少女らしいワンピースを纏った彼女の、ウィスタリアの小さな目が、見開かれる。
「仕事を手伝ってほしいのです。その職に就くため、イギリスには考え抜かれた高度な資格を取る場があります」
「いぎ、りす」
少女は一度、踵を弾ませる。
「小公女。ピーター・ラビット。メリー・ポピンズ」
出てくるのがどれも夢のある児童文学ばかりで、思わず笑みが漏れる。
やはり、彼女が世界を認識するのは文学なのか。
彼女の内包する極彩色で世界を彩るには。
書物を、ネットを調べ上げた、その答えは。
ダイアンはにこりと微笑んだ。
「文字を愛し言葉を愛し、物語を人々へと繋ぐ」
彼女にふさわしい生きる糧は。
「ラヴェンナさん、図書館司書になる気はありませんか」




