第4話 宅配司書ができるまで ②
「続いての商品はBLS09。書物の所持、保管に最適な商品。古今東西、ほぼすべての書物を記憶している優れものです! スタートは四十六ポンドから」
今宵の目玉商品に観衆が沸き返る。
円形で囲まれた小舞台の中、立つ少女。
その周りをぐるりとオーディエンスに囲まれ、競り落とされる。
四十九ポンド、五十六ポンド。値段がせり上がっていく傍ら、少女はまどろむような目をぼんやりと客席中央に向けている。この愚鈍そうな少女に本当にそんな能力があるのかと疑う声がちらほら。まだ目覚めていないかのようなその表情に隠れたウィスタリアの瞳が澄み渡っていることに気付くものはない。
「さぁ、他にいらっしゃいませんか? 五十九ポンド、五十九ポンドが出ております」
決済を示す金槌の音が響いたのはその値がそこまで吊り上がった時だった。
「おめでとうございます! BLS09。五十九ポンドでゴルディ氏が落札されました!」
沸き返る歓声。商品を勝ち取ったゴルディ氏は大柄な身体で右手を上げ、威厳ある足取りで壇上に向かう。
少女の両手に枷がはめられ、酔狂な金持ちに手渡されるその瞬間、事件は起きた。
丸天井のシャンデリアの裏から黒い人影が降り立つまで、数秒。
後の一瞬に影は少女を奪い去り、天井の窓から星空の彼方へと消えていた。
「……な」
何が起きたかわからず、呆然とするゴルディ氏。
突如として生じた現実を人々が認識するまで、約五秒。
「賊だ! オークションにコソ泥が入った!」
ウジ虫のようにあたりを覆う、数秒前と気色の違うざわめき。
賊に奪われた。――自身のコレクションが。
ゴルディ氏のこめかみに血管の筋が浮き立つ。
誰かが雇ったに違いない。この身をこけにするために。
大手宝石会社を立ち上げた資産家として何人ものライバルを蹴落とし、のし上がって来た彼には心当たりはありすぎるほどだった。
動揺のあまり謝罪すらままならないプレゼンターの前に出しかけた札束をむんずと掴み、ぞんざいにトランクに詰め込むと、彼は憤然と、その場を後にした。




