第3話 宅配司書と女学生 ⑱
ウィスタリア私立図書館設立数か月前。
前身となる建物の中には、空の本棚とカウンター、書庫があった。
まだ世の中に生まれ出ていない空間の中の、社長室となる予定のその場所で。ある秋の会話である。
「社長! ただ今ロンドンより戻りました。ラヴェンナです!」
「ラヴェンナさん、お帰りなさい。そして、司書資格取得、おめでとうございます。よく頑張りましたね。何かお祝いにほしいものはありますか」
「まぁ、ほんとですか⁉ わたし、これから設立する図書館に宅配挿絵画家がほしいです!」
「――はい?」
「お客様に必要な物語があるのなら、挿絵もあるはずです! 必要な本のシーンの挿絵を描きご提供するのです! 時にはわたしのブックトークの資料の絵も担当してもらうのはいかがでしょう!」
「それはその、悪くない――魅力的な提案ではありますが」
「本当ですか⁉」
「しかし、合格祝いとは少し――」
「スウィーティ、入ってください! お許しが出ました!」
扉が、開け放たれる。
「はじめましてっ、社長様! ラヴェンナちゃんのっ、プレゼント、立派に務めますっ!‼」
社長室の主となる見込みの人物の前に、現れたのは見慣れぬ少女。
長くカチューシャをつけていた髪は、編んで耳の横で二つのお団子にして、日替わりでレースのリボンを飾ろうと決めた。
門出の祝いにと、少女たちが結った髪。
それが後の彼女の平生のスタイルとなった。
「あなたは。……まさかすでに持参していたとは……」
地味だった服装も今日で終わり。
これから思いきり好みの女性らしいものを身に着けると汽車の中で誓った少女は手始めに、スカートを持ち上げ愛らしく礼をする。
「スウィーティ・ハニービーンズ。ウィスタリア私立図書館所属の挿絵画家。古今東西、鳥獣戯画から西洋画、現代風イラストまで、どんなものでも承ります!」
やったぁ、やったと手をとり合う二人の少女を見、後の社長は苦笑を深める。
「なるほど。この上ない合格祝い、というわけですか」
そうした後で、肩を竦めた。
「やれやれ。パンチの効いたお嬢さんがまた一人、増えてしまいましたね」
深く。満足げに。




