第3話 宅配司書と女学生 ⑰
「……ラヴェンナちゃんなら」
スウィーティは、目の前の司書に問うていた。
「司書さんならどう読むの? この絵本」
かすかに頬をひくつかせ、ラヴェンナは微笑んだ。
「それは、読者様の御心に委ねるものですから――」
「お願い!」
気が付いたら。
学生生活を通じたルームメイトであり司書である彼女に、スウィーティは迫っていた。
「お願い、お願い! 聴かせて! 聴きたいの。あなたがこの絵本で伝えようとしてくれたことっ」
ベージュのニットを掴み、揺さぶるほど。
「ラヴェンナちゃんの、言葉で」
「……」
閉ざされた、司書の唇は。
かすかに蠢く。
「九歳という年齢にして驚くべき感性と思慮深さ。それは荘厳な感動を、呼びます」
「けれど」
「けれどわたしは」
かすかに漏れた、呻きのような所感。
「この絵本を読了後、少し不安になりました。大人びた、しかし幼い彼女を、案じてしまうような」
――そんなふうに。
――そんなふうに絶えず、凛としていなくても。
――言葉を心にきざみこむ。それだけではなく。
「時には運命を嘆いたって。みっともなく頭を振り乱して、八つ当たりしてみたって」
それでいいではないか。
それほどの運命に幼い彼女は直面している。
「吐き出せる大人が、いてほしいと、思ってしまうのです」
涙をりすのような目いっぱいに溜めて。
スウィーティが頷くと初めて、月光に照らされた雫が流れ落ちた。
そして、少女のようなこの女性は。
「スウィーティ。あなたも」
濡れた目を瞬く。
「わからない、ふざけるなと反旗をぶんなげること。あなたに必要なのはそのことではないでしょうか」
ブックトークという、不思議で魔力的なものを終えた宅配司書志望は、そう言った。
「今までのように、『わかる』――そう言って胸の内の言葉を飲み込んで、ご家族の一員を目指されるのもあなたに与えられた選択肢。わたしに言及する権利はありません」
魔法使いのようだと思った。
「ですがもしも、あなたが、別の道を選ばれるのなら」
こんなの。こんなのずるい。
「明日卒業式を済ませ夜、七時の汽車でわたしは、ウィスタリアへ帰還します」
こんな吸引力のある姿と、芸と、言葉。
「スウィーティ。あなたが生きていく場所を自ら選び取りたいのなら、その時は」
差し出された手と、笑顔。
「この手はその一瞬、傍らにあります」
一センチ、また一センチと、スウィーティはルームメイトから距離をとる。
屋根の上一人きり足を踏みしめ立った孤独な少女の喉の奥から。
若い女のものとは思えない太く、巨大な絶叫が、響き渡った。
ラピスラズリに近い、紫の夜空。
絵画的な景色の中。
数個の星が、揺れたように見えた。




