第3話 宅配司書と女学生 ⑪
はやる鼓動を抑えて、ラヴェンナは宿の戸を開ける。
胸に携えているのは、再度受けた資格試験の結果通知。
ウィスタリアから遠く離れた異国で初めて。
報告したい人がいる現実に、心が急ぐ。
「スウィーティ、ただ今帰りました。実家に戻ると言っていたので、気になっていたのですが、どうでし――」
寮の部屋の戸を叩いたラヴェンナの言葉は最後まで続かなかった。
ソファの上のテーブルに、床に、そこここに散逸するワインボトル。
テーブルの隅には錠剤もあった。
素早く戸を閉め、本能的にラヴェンナが向かった先。
それは六階から成る寮の屋上だった。
無機質なコンクリートの空間を見渡しても誰もいない。
慎重に手すりに向けて歩いていくと、くしゅんと、くしゃみが聞こえる。
肌寒いこの季節に、ブラウスにショーツだけの薄着で。
へらへらと笑いながら。
屋根の上に、捜し人はいた。
防寒という保身さえ忘れてしまったという顔をしている。
「何をしているのですか!」
ふらふらと上半身をたゆたわせながらスウィーティの吐息のような笑いが降ってくる。
「やっだなぁ、ラヴェンナちゃん。夜景を見てただけでしょー? なに怒ってんのー?」
屋根の上ふらつきながら立ち上がり、
「司書資格、取れたんだ」
「何故……」
「下から聞こえてきた声の調子でわかっちゃうよ。ラヴェンナちゃんて意外と感情に正直なとこあるから」
くくくと赤ら顔で笑いながら、てっぺんを歩む。
「おめでとう。やっぱり出来のいい人はちがーう。わたしとはぜんぜんっ」
「そちらへ辿り着くまで動かないでください。一歩でも動いたら絶交です」
「はは、は」
乾いた笑いが空から、振ってくる。
「ひどいなぁ……ラヴェンナちゃんてば、ひどいよ」
その言葉が終わらぬうちに、ラヴェンナはこの世界で一人きり、取り残された少女を抱き留めた。




