第3話 宅配司書と女学生 ⑥
「ラヴェンナちゃん! 見て見て! ハックニーにまた新しくベーカリーができたの! アップルパイすっごくおいしいんだって! 二つ買ってきちゃった! ラヴェンナちゃん今日試験終わりでしょ? 一緒に――って、アッポーパイのテンションじゃないーっ‼」
それから三日後の夜遅く。
足取り軽く寮に戻ったスウィーティは、ソファの前、戦争に敗れた兵士のようにうずくまるラヴェンナを見て叫んだ。
普段はほんのり赤味がさしているその頬も蒼白である。
「スウィーティ。……司書資格試験に失敗しました」
「ええっ」
ほかほかアップルパイの入った袋を投げ出さんばかりにテーブルに置くと、スウィーティはラヴェンナの隣に腰かける。
「でもでも、試験は今日だったんでしょ? まだ結果は――」
「自己採点の結果、明白に」
スウィーティは言葉を失う。
「いえ、結果自体は当然です。自身の能力不足です」
淡々と告げるその姿が余計に痛ましい。
「そんな」
「ですが」
一旦言葉を区切り、開いた目には底知れぬ激情が滲む。
「……待ってくれている人に歓びの報告ができないことが、堪えます……」
「……」
ラヴェンナの視線を追うように視線を落とし、スウィーティは黙考する。
適切な言葉は何だ。何だ――。
きっと彼女は、大好きで大切で、こちらを向いてもらいたい、そんな人に言いたかったのだ。
夢が叶ったと、胸を張りたかった。
こっちを見て、笑ってほしくて――。
「……わかる」
そう思うと、なんだかスウィーティの目元にまで熱いものが滲む。
「何日も徹夜で勉強とか。わたしには超無理だけど、でも」
がしっと、スウィーティはラヴェンナの両肩を掴む。
「その気持ちは、超超わかるーーっ」
よし。
ある時立ち上がり、状差しから一枚のメモとペンを手に、スウィーティは戻ってくる。
そこにコミカルなイラストが描かれる。
若い女の子と少年だ。
女の子のイラストに吹き出しがつけられる。『なんであんたなんかが弟なんだ』。
隣の少年はどや顔。吹き出しにはこうある。『ごめんな、夫になってやれなくて』。
「……」
次に描いたのは、レストランの店員と客のイラストだ。
華やかに着飾った女性は、怒り顔。吹き出しにはこうある。『ちょっと、スープにあなたの指が入っていたようなんですが』。
店員はすまし顔で言う。『だいじょうぶですよ、火傷していませんから』。
「……ぷっ」
「あ笑った! 笑ったね!」
目じりの涙を弾くラヴェンナに成功を悟ったスウィーティは、語る。
「種明かしするとねこれ、大昔からあるふっるいギャグなんだ。でもうけるでしょ? こうやって滑稽なイラストつけると」
「スウィーティ。……もう」
「やなことは笑って笑って忘れちゃえ! ラヴェンナちゃんは自分に厳しすぎだよ~っ」
けたけたと笑って、スウィーティはラヴェンナの首を掴み、ソファにダイブする。
「たまに、理解の範疇を超えますが。いえ」
ぱたぱたと、はしゃいではためく、足。
「だからこそ、あなたもわたしの『好み』です」
藤の花が曲線を描いて零れるような、ウィスタリアの目の笑み。
何か言ったー? というスウィーティに、いいえと答え、ラヴェンナは心地よく目を閉じた。




