第2話 宅配司書と劇作家 ⑭
さて、花の色は移り変わるもの。『みどりの指』のフランス文学らしい優しい色合いの世界から、強烈な赤へまいりましょう。
戦火の炎、愛の熱情の炎。最後にご紹介する本『風とともに去りぬ』の主人公はスカーレット。鮮やかな緋色というその名にふさわしい特性を存分に持ち合わせた女性です。
十九世紀半ばのアメリカ。広大なタラという土地の地主の長女として育ったスカーレット・オハラ。男性を何人も虜にする魅力を備えた女性です。が、お世辞にも性格がよいとは言えません。
作者のマーガレット・ミッチェルも、スカーレットのようなタイプの女性は好きではないと公言したほど。
作者にまでそう言われてしまうほど気位が高く、気性が荒い彼女。
なんと物語早々、意中の彼からふられてしまいます。
スカーレットが想いを寄せるアシュレは詩や芸術を愛する理性的な男性。
時代は南北戦争がアメリカに強大な影を落とす直前。まだ上層の人々は豊かな文化を享受していました。
物語冒頭で、スカーレットと、彼女の想い人・アシュレの二人の場面に、こんな切ない描写があります。
『二人は互いに違う言葉を話す異国人同士だった』
この場所では、自分の言葉は理解されない。
そんなふうに思ったことはありませんか。
芸術を愛する雅やかな人種から、スカーレットは逸脱した性質と言えます。
そして彼女のその性質こそが、この先の物語を何度も大きく動かしていくのです。
お金持ちの令嬢出身とは思えないしたたかさで、利害を計算した上で三度も結婚。そのうち一度は実の妹の婚約者まで奪っています。
戦場となった荒野で北軍の兵士を銃をとった彼女が、自分と仲間たちが生き延びるため、撃ち殺すシーンは衝撃です。
そんな彼女の周りに常にちらつく男がいます。
大陸の封鎖破りのレット・バトラーです。
どこか危険な香りのするじつに魅力的な男は、スカーレットに言います。
自分たちは同種だと。
社交の時代を生きる芸術愛好家とは趣向を異にする人種。
しかしだからこそ、激しく力強く、戦争に愛に生きる、スカーレットの人生は何度も訪れるどん底にもかかわらず、苛烈な炎を放つようです。
華やかな社交の日々から、戦争の極限へ。
スカーレットが生きた南北戦争時代のアメリカだけでなく、いつでも時代は容易く転じるものです。
それは、あなたの傷が苛烈な物語の光に転じる、革命の足音かもしれないのです。
ご清聴、ありがとうございました。
☆彡ブックトーク部分参考文献
『みどりのゆび』モーリス・ドリュオン/作 安東次男/訳 岩波少年文庫
『風と共に去りぬ』ミッチェル/作 大久保康男・竹内道之助/訳 新潮文庫




