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第2話 宅配司書と劇作家 ⑬

ブックトーク

場所:イタリア ヴェネチア お客様ご自宅

対象者:ロレンツォ・グリッサンドーニ様

テーマ:『名馬の傷』


 豊かな水の流れの中に反射する光がまどろみを誘う。

 こんな日は、幼い頃を思い出しませんか。

 アンデルセン童話の『みにくいアヒルの子』をお客様はお聴きになったことがありますでしょうか。

 周りと違う羽の色を持ち、疎まれいじめられていたアヒルの子はじつは白鳥だった、というお話ですよね。



 友達から変わっていると言われているような子がじつは、後々すごい人になったりするんだよ。

 学校の先生やご両親からそんな教訓を添えられた記憶があるかもしれません。

 周囲から浮き立ってしまうもの、評価されないもの、時には害悪とされるものが、じつは鉱山の最奥で見つかる原石かもしれない。

 そのことを大人になった今、より贅沢にたっぷりと感じられる作品が、この世にはあるのです。



 フランスの児童文学『みどりのゆび』に登場する少年チトも冒頭では問題児でした。

 学校で授業を受けていると黒板の数列がぐるぐると回り始め、しまいには眠りこけてしまう。手におえないと学校から見放されてしまいます。

 けれど、家の庭で庭師と土の勉強をしていたある日チトは秘められた自身の才能に気付きます。

 地面に親指を押し当てるとそこに、一輪の花を咲かせることができるのです。

 家庭教師の先生から、刑務所について教わったチトは疑問に思います。この人たちは何故こんな汚いところにいるの? 悪いことをしたというなら、いる場所がこんなに汚くなければいいことをもっと早く覚えるのに。動物園の動物たちはどうしてのびのび遊ばないであんな冷たい柵に閉じ込められているの?

 どうして、ばかげた戦争なんかがあるの?



 それからというもの、チトは刑務所、動物園、戦争の武器庫のあらゆる場所に親指を押し当て花で彩っていきます。

高い壁は薔薇に覆われ、鉄格子はクマシデニ変わり、ヒルガオやノブドウがピストルに絡みつきます。

 するとなにが起きたと思いますか。

 人を、動物を閉じ込め、果てには武器で人を殺し合う人間社会に、どんな作用が起きたのでしょうか。

 初等教育から弾かれた子どもが世界にもたらしたものとはなんだったのか。

 ぜひご自身で確かめ、その胸いっぱいに花々を敷き詰めてみてください。


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