第2話 宅配司書と劇作家 ⑫
夕暮れの日差しに揺り動かされるように、起こされた。
レモンの木が甘酸っぱい香りを奏でるように流し込む、庭でのカウチに。
安らうように、グリッサンドーニは横たわっていた。
「お目覚めになりましたか」
耳障りでない、ハープの高音のような声に、顔を上げると、二週間ほど前にやってきた宅配司書が、傍らでミントを入れた紅茶を差し出し微笑んでいるのが見える。
無言で頷くと、グリッサンドーニはティーカップを受け取り、傾けた。
薬によって、急性期のような興奮は静まっている。
眠りにつく前、自身が犯した失態もまざまざと想起できる。
だが不思議と不快ではなかった。
安らかな微睡みが、繊細な蔦のように体中を覆いつくすようだ。
「さすがのお客様も今ならば、大人しく聴いてくださるでしょうか」
スケルツォ――冗談という名を持つ音楽を思わせる、曲線的でおどけた声音は、まるで快いピアノのトリルのように、彼の頭の中で弾けた。
「ロレンツォ・グリッサンドーニ様。あなた様に捧げるブックトークが、仰せつかったテーマとは少し、趣向を違えたものだとお伝えしても」
だから、グリッサンドーニは大人しく目を閉じる。
その、直前。
「怒らずに、耳を澄ませていただけるでしょうか」
目に映った女の笑みは、アルペジオの最後の一音のように、均整が保たれていた。




