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第2話 宅配司書と劇作家 ⑧

 空色を背景にした絵画で彩られた円形の天井。

 アドベントカレンダーのように一面に敷き詰められたボックス席。

 合間の壁に隙間なく描かれた天使や天上界の花々。

 舞台上には深緑や唐紅、黄蘗と鮮やかな衣装に身を包み舞う俳優たち。

 監督や指揮者が指示を飛ばす声。

 夜の公演に向けてのリハーサル中であるフェニーチェ劇場の大ホールの扉の前で、ラヴェンナはねばっていた。



 座長のアルペッジョと話がしたいと、受付にいた係の者に訴える。作曲家グリッサンドーニの遣いだと言っても態度を軟化させるどころか露骨に顔をしかめられた。

「お引き取りください。座長は稽古中です」

「ですが、グリッサンドーニ様の大事なお仕事の件でして――」

 数刻ねばっていると、脇を通りかかった紳士がふいに足をとめた。

「何、グリッサンドーニだと」



 コルク色の髪を撫でつけた、ふくよかな初老の紳士が瞠目してこちらを見ている。

「きみ、そう言ったね。彼はまだ、その、正気を保っているのか」

 一気に話の核までいきついてしまいそうな反応に、ラヴェンナは思わず声を上げる。

「はい。まだかろうじて。グリッサンドーニ様は、座長のアルペッジョ様に一度、オペラのお仕事の件でお話されたいと――」

 その一言で、彼はすべてを悟ったように目を伏せた。

「わかった。対応しよう」

 どう猛な野獣を眠らそうとするかのような――込み上げる苦汁を抑えた瞳で、紳士は名乗った。

「わたしが、この劇場の座長、アルペッジョだ」


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