第7話:優介たちは施設見学の準備を進める
「それではみなさん、午前のミーティングは予定通り十一時から開催いたします。場所は宿泊棟二階の第四研修室。各自遅刻のないように時間管理を心掛けてください」
合宿初日。時刻は十時二十分。
約三時間のバス走行を経て日本魔法技術センターへと到着した僕たちは、荷物を手に持ち宿泊棟一階のロビーに集合していた。
なお諸事情により出発に若干の時間要した僕たち一般基礎学科クラスをよそに、同じ第二学年生のうち他の三クラスはすでに部屋の入室を済ませているとのこと。
その証拠にすでにミーティングまでの空き時間を満喫しようと売店に足を運んでいる生徒がちらほらと散見されているわけで――まぁ今はいいや。
ともあれ次の予定時間まであまり余裕もなし。さっさと次の行動に移すべきだと判断し、僕はクラス副代表を務めるアリスへと今後についての指示を出すことに決める。
「それじゃあアリス、女子の入室を確認したらクラス代表のチャットで報告をもらえるかな。僕とアリスと藤堂さん、あとマシロ先生に通知が届くようになってるから」
「分かりました。それと研修室への移動はどうしますか。施設図を把握できていない方は迷子になる可能性があるかと考えますが」
「それなら六階のロビーに集合してから全員行動でいいんじゃないかな。男子は僕、女子はアリスが連れていく形で」
「分かりました」
ここ宿泊棟と呼ばれる建物はなかなかに広い。
一応いくつか案内図が設置されている場所はあるから多少迷っても目的地に辿り着けるはずだけど、なにせ今は時間に余裕がない。
であればみんなでまとまった行動した方が賢い選択と言えるだろう。
あとは念の為――。
「藤堂さん。藤堂さんも場所は分かるかな?」
まだどこか本調子ではなさそうに見えるものの、藤堂さんの様子を見るに今のところ何かに支障をきたすほどではなさそうだ。
「えぇ、確認済みです。私もスメラギさんをお手伝いしますね」
「うん。助かるよ。よろしくね」
なにぶん男子と比べて女子は人数が多い。
アリス一人でも十分管理は出来るだろうけど、ここは負担を減らす意味でももう一人のクラス副代表である藤堂さんにはぜひ助力頂きたい。
「じゃあアリス、藤堂さん。そっちは任せたよ」
「はい」
「分かりました」
互いに行動の指針を確認し合うと、僕たちは男子女子それぞれを牽引してエレベーターホールへと足を進める。
さてさて。上手くことを運ぶために頑張るとしましょうかね。
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「ルームキーは各部屋ごとに一つしか用意がないから。外出する時はよく気を付けてね」
宿泊棟の五階へと到着した僕は、手に持つ四枚のルームキーを各部屋における代表者に一枚ずつを手渡す。
まず一般基礎学科クラスの男子生徒は全部で九名。
次に一部屋あたり二人利用の部屋割りとなっており、僕たちの場合は五○八号室から五一二号室の計五室を割り当てることとなる。
ちなみに僕の部屋は五○八号室で、かつ一人部屋を獲得している。
「ミーティングに必要なものって特になかったよな。あ、旅のしおりは必要なんだっけか?」
クラス男子を代表する形で翔也が質問を口にするため、そうだねと一言回答を返す。
「あと服装だけど、ミーティングは制服参加で問題ないから。一応そこで説明を受けると思うけど午後の自由選択で【魔法実技】を選択している人については後でジャージに着替えることになるから忘れないように」
ついでに補足も加えておきつつ、まぁ連絡事項としてはひとまずこんなところだろうか。
取り急ぎの説明、また集合時間は今から十五分後であることを伝え終えると僕は解散する旨で指示を出す。
各々割り振られた部屋に入室して行く姿を確認しチャットで報告を一つ入れておく。
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合宿初日の午後について、大枠としては【自由行動】と銘打っているものの正確には選択制の課外授業に他ならない。
一、プロ御用達の魔法フィールドにおける魔法の実技訓練
二、日本魔法技術センターの施設見学
前者は学園よりも環境の整った魔法フィールドでいち早く魔法を試してみたい生徒向けの選択肢。
そして後者は学園では学ぶことの出来ない魔法の知識を学ぶための選択肢。
事前に選択した内容をもとに、僕たちはそれぞれの授業を受けることとなっている。
ちなみにこの辺りは面白いことにクラスの特色がよく反映されており、顕著な例として体育学科クラスは大半の生徒が実技訓練を選択しているのに対し、魔法学科クラスはほぼ全ての生徒が施設見学を選択している。
個性、思想、理念。
一年を通じて形成され始めている各々魔法使いとしての個性がよく現れているとでもいうべきか。
なーんて。難しい表現を分かりやすく言えば身体を動かしたいか勉強をしたいかの違いで十分だろう。
ちなみに一般基礎学科クラス、一般応用学科クラスはともに若干実技訓練を選択する生徒が多かったことを補足しておくこととする。
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と、かれこれあれから約一時間後、予定していたミーティングはことなく終わりを迎えることとなった。
「――それでは説明は以上です。振り返りとして、十二時からは食堂で昼食。十三時からは実技訓練グループ、施設見学グループに分かれて特別授業。なお実技訓練グループについてはクラス副代表の藤堂さんを中心に行動してください。藤堂さん、何かあれば近くの教師または私まで連絡をください」
ちなみにミーティングで確認した本日の予定は次の通りである。
十二時――昼食(食堂)
十三時――自由行動(特別授業)
十九時――夜食(食堂 ※自由)
二十時――入浴(二十一時まで入浴場を利用可能)
二十二時――就寝
こうしてみるとやはり自由時間が多く確保されている。
夜食、入浴にしても実質個人での時間の内であり、食事は買ったものを部屋で食べても良いし、入浴も部屋に備え付けられている浴室を使えばわざわざ入浴場まで出向く必要はない。
ともすれば、特別授業が終わったあとは寝るまでは個人単位での自由時間といっても過言ではない。
「次に施設見学グループですが、先ほどお伝えした通りに見学グループを分けています。各自、十三時までに集合場所へと向かい担当スタッフのもとグループメンバーと合流してください」
ちなみに僕が希望したには施設見学のグループだ。
同じ選択授業を選んだメンバーはアリス、山田さん、それと潤。
それと親しいクラスメイトで言えば翔也とヒメ、藤堂さんは実技訓練グループを希望している。
「と、ここまではいいんだけどねぇ」
ただここで少し気になったことがある。
嬉しいことに僕を含む見学グループ希望者の四名は一緒のチームに区分けされていたわけだが、一方で他のメンバーの名前を確認するとそこには何かしらの意図を感じずにはいられなかった。
「……優介。このグループですが」
「うーん」
松永音子、カルナ・メルティ、神崎都子、天野河リノ、山崎和也、――そして雪代紗耶。
まぁツッコミどころはいくつかある。
山崎くんは実技訓練を選択しなかったんだとか、なんで一年生の雪代さんがいるんだろうとか、知りたいことは多々あるのだが。
ただそれ以上に気になるのはこのメンバーが集められた意図。そこがどうにも気になって仕方ない。
あるいは、見方によってはこれは一種のメッセージともなのかとも感じ取れるわけで。
「――そういえば特別授業中、マシロ先生はどうされるんですか?」
一点、確認しておくべきポイントを押さえておこうと挙手をした上で質問をしておく。
「私の担当は施設見学になります。なのでどこかのグループに混ざって私も見学することになります。ただし連絡があれば必要に応じて場所を移動することは出来ます。何かありましたら遠慮なく電話もしくはチャットで呼んでください」
なりほど。理解した。
ともあれ、これで僕の中の可能性は強まることとなる。
あと一つ条件が揃えば、そういうことなのだろうと脳内で考えを巡らせる。
――念の為、一つ彼女に連絡を入れておくとしようか。
******
「はーい。今回皆さんのグループの施設見学案内を担当させて頂きます、西園寺文野と申しまーす。どうぞよろしくねー」
その顔を見た瞬間に僕の中でピタリとピースが組み合わさる。
うん。まぁこれでパズルが完成したわ。
本作と少しだけ世界観が交わる新作を執筆しております。
「ポイント制勇者と名もなき魔法使い」
https://ncode.syosetu.com/n1290in/
ややシリアス寄りの作風で、もし興味があればご一読ください。
※両作品を読まなければ理解できない話などは特に予定ありません。




