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【更新休止】魔法使いの花嫁たち  作者: 春夏 冬
6月:キングス・ファイブ 【魔法使い】VS【魔女】
61/62

バレンタイン記念SS:女の子たちはチョコを贈る

ちょっとドタバタで更新が滞っております。

もう少しで再開いたしますのでもう少々お待ちいただけますと幸いです。


つなぎ程度にコメディをどうぞ。

 例えば意中の相手に自分の内に秘めた好意を伝えるとして、それはとても勇気を必要とする行為であるに違いない。

 もし失敗したら、断られてしまったら。

 好きだと相手を想う気持ちに行き場がなくなってしまったら、近かった異性との間に一生埋まることのない溝が生まれてしまったら。

 そんな暗色の未来を想像してしまうと、人は前に進むことなく停滞の一途を辿っていく。

 たとえその先に僅かほどの可能性が見えないとして、暗闇を進む勇気を抱くことの出来ない人とは決して少なくない。

 ただ、そんな世界の中でさえ誰もが平等に"きっかけ"を得ることの出来る特別な日が存在する。


 バレンタインデー。

 

 同性異性問わず甘いチョコを渡すことで日ごろの感謝の気持ちと、あるいは気持ちを形として伝えることの出来る一種の記念日。

 普段は接点を持てないあの人もこの人も、場合によっては「義理チョコ」を贈るための一歩を踏み出すきっかけを得ることの出来る特別な日。

 もちろんすべての人にとって良い日だとは言えないかもしれないが、ただそれでも一年を通して感情の温かいいちにちであることだろう。

 

 と、前置きはここまでとし。

 さて、ここに一人の男子生徒が存在する。

 はたから見れば眼鏡をかけた賢そうな見た目に整った顔立ち。

 話してみれば雰囲気も悪くなく相手を尊重した思考で立ち回り、人を気遣うことの出来る好人物であることがわかる。

 まぁモテるだろう。

 彼と日常を過ごす学友たちをして、皆一同に認識を抱き、またそれは事実として日々の光景に目撃されている。


「なぁ優介。明日って何の日か分かるか?」

「え? ……あー、もしかしてバレンタインのこと」

「お、分かってるじゃねぇか。で、お前はいくつチョコをもらう予定なんだよ。てか去年はいくつもらったんだよ」

「え、あー、さぁいくつだったかなぁ」


 目線をそらすモテ男(くそ野郎)に聞き耳を立てるオスどものボルテージがひそかに上がる。

 その一方で同じく興味津々にと聞き耳を立てる女子たちも以下省略。


「ではまずは一つですね。私は明日、あなたにチョコを贈りますので」


 燃料投下。

 いつも無表情な金髪幼馴染の一言に、肩をつかむ悪友の力が一気に強くなる。


「なぁ優介。きっとお前は自慢したことでさぞ気持ちよくなってるんだろうなぁ」

「いやいやいや僕何も言ってないけど!?」


 みしみしと聞こえるのは表現音かそれとも現実で骨がきしむ音なのか。

 この後もああだこうだと様々な感情が飛び交う愉快な時間が繰り広げられていくわけだが、ともあれ一つテーマを提示したいと思う。

 

 それでは、以下の問いについて答えなさい。


 Q:モテると自覚のあるサイコパス系男子に対してチョコを送る女子の気持ちについて答えよ。



  ******



「チョコ、こんな感じ」

「……えぇ、いい調子です。ですが湯煎で溶かしやすくするためにもう少し細かく刻みましょう」

「わかった」


 長い髪をお団子状にまとめた少女。

 いつもの眠そうな表情に変わりはないものの、ほんの少し活力を見せながら思いのほかテキパキと調理する姿にはつい感心させられる。

 松永音子。

 気まぐれな猫を思わせるその雰囲気に、愛称もかねて【占い猫】と呼ばれる普段の彼女の姿を知ればこそ、きっと今の真剣な姿を見れば驚愕するに違いない。

 特に彼などは感動のあまり涙を流して見せるかもしれない。

 まぁ普段からどれだけ彼に寄りかかっているのかがうかがい知れるわけなのだが。


「こんな感じ」

「えぇ、十分です。」


 頑張ってる。

 素直にそう感じられる彼女の誠意に、恋敵とはいえつい応援してしまうのは人柄ゆえか。

 まったく、手強い相手がずいぶん近くにいるものだとあらためて思わされる。


「それじゃあお鍋にお湯を用意しましょう。コンロは二つありますが、並んで調理するのは危ないので一人ずつにしましょう。まずは私の動きを見ていてください」

「わかった」


 とてとてとついてくる彼女を尻目に、大きめの鍋に水を貯めるとそのままコンロに火をつけて過熱する。

 沸騰まで数分ほどだろうか。

 強火で熱している鍋にふたをすると、ふと後ろにあるテーブルの上に視線を移す。

 ボウルにゴムベラのほか、丸や星、それに動物の模した型が並べられている。

 今日ここに来るまでの間、彼女と二人で選んで買ってきた遊び心ある道具である。


「そういえば、松永さんはこれまでにお菓子つくりってしたことはありますか?」


 ふと思い立った疑問を口にしてみる。

 ちなみに想定している回答は、もちろん否定の言葉である。


「ある」

 

 へぇ、意外だ。


「おばあちゃんに教わったことがある。クッキーを作った」

「あら、いいじゃないですか」

「うん。でも……」


 珍しい。

 何かを言いよどむ彼女の姿は非常に稀だ。

 思ったことを端的に口にする彼女のその姿に、そっと静かに次の言葉を待つ。

 なんとなく、その言葉がわかるように気はするけれど。


「私、誰かに食べてもらう料理をするのは初めて」


 残念ながら、漫画のように赤面して恥じらうなど表情を見せることはないけれど、それでも伝わってくる感情はある。


「それは、嬉しいことですね」

「うん。嬉しい」


 学園の、いや日本、世界を探したとして気まぐれな猫にこんなことを言わせる異性などこの世にたった一人しかいない。

 まったく幸せな男である。


「――あら、お湯が沸きましたね。それじゃあ次にチョコを溶かし始めましょうか」

「わかった」


 隣に立つ小さな彼女は、刻んだチョコの入ったボウルが沸騰したお湯の中につかる様子を一心に見つめる。

 その真剣な表情に、感情の一部でも彼に伝わるようにと願わずにはいられない。

 当然、それは私の分も含めての願いに決まっているけれど。



 ******



「お先に失礼しますー」

「おっつかれー!」

「お疲れさまー!」

 

 今日も今日とてよく働いた。

 アイドルという職業を務めている以上、学生諸君が学業に努めている平日でさえ仕事を頂けることは非常にありがたい。

 学園で過ごす時間が減ってしまうことについては寂しく思わなくもないが、これも私が進んで選んだ道である。

 その道を順調に進めていることに、私は満足した気持ちで撮影現場を後にする。

 

「……うーんと、よし」


 近くに用意された控え室の鏡台を前に、自分の変装姿に合格点を出す。


 魔法アイドル――天野河リノ


 同年代の中でも生え抜きのトップアイドルだと自負している私が、まさかこんな地味な姿に変装しているなどとは誰も思うまい。

 地味なメガネにお団子ヘア。目深にかぶった赤いベレー帽。

 歩き方もアイドルのそれとは異なる自信のなさそうなおどおどとした姿勢を作ることで背景の一部に溶け込む。

 これがプライベートにおける私の姿であり、ファッションでもある。


「んー、今日もよく働いたなー」


 あたりを見渡せばちらほらと学生服の男女の姿がみてとれる。

 ちょうど学生の下校時間に差し掛かったころだろうか。

 お互いにお疲れさまだねー。などとのんきにあたりを見渡す。

 と、そんな時にふとお店の入り口に掲げられている看板の文字が目に映る。

 そういえば今日、男性陣が意識していたのを思い出す。


「バレンタイン、かぁ」


 個人的に、アイドルは恋愛してもよいと思っている。

 ハードルこそ高く困難な道のりではあるが、それでも愛してもらえるアイドルになれるのであれば、恋愛は自由にすべきだとそう思う。

 それに私自身に経験はないけれど、異性との経験が輝きに増々の磨きをかけることだってあるだろう。

 なので、覚悟さえあれば己の気持ちに従うことは決して悪いことではない。

 それが天野川リノのアイドルに対する価値観の一つである。


「……さーて、どうしようかなー」

 

 思い浮かぶのは一人の男子生徒。

 ふとした瞬間つい気になってしまう異性……などではなく、少々口にするには難しい間柄の同い年の男の子。

 友人? 悪友? ボーイフレンド?

 そのどれもがそうであり、どれもが違う。

 どうしてこうなったのか自分たちでもよくわからないそんな間柄を、しかし私は好んでいる。

 少なくとも、学園も職場も含めて一番居心地が良い異性は彼だ。

 恋愛に発展する可能性などつゆほども感じられないが、それでもまぁ、彼のことは好ましく思っている。

 決して口には出してなどすることはないけれど。


「……ま、プレゼントくらいしてやりますか」


 そう口に呟きながら、チョコレートの売り場に足を運ぶとショーケースを眺める。

 前日のこの時間だ。すでにいいところは売り切れてしまっているようで、ぱっと見あまり印象にくるチョコレートは見当たらない。

 妥協してもよさそうなものも見えるが、それはなんとなく私の気持ちが許さない。

 やるなら全力で。

 それがアイドルたる私のモットーだ。


「あーあ、もう。お返しはちゃんと期待してるからね」


 ポケットからスマートフォンを取り出すと、あたりに良いお店がないかを検索し始める。

 結局それからチョコレートを見つけるまでに三時間ほど時間を要したが、不満より先に浮かぶのは自然と生まれる柔らかな笑みだった。



 ******



「あら、奇遇ですね」

「む、なんじゃおぬしもかえ」


 街のとある洋菓子屋に足を運んだおり、顔見知りの同級生と鉢合わせをする。

 カルナ・メルティ。

 艶やかな腰まで流した銀の髪が今日も美しく、まま異国の雰囲気を強く感じさせる。

 可愛いという言葉は彼女にこそ相応しいと思わせるほどの容姿は本日も健在だ。


「おぬしもチョコを探しにここへ?」

「えぇ。だって明日はバレンタインですから」


 自分の頬に人差し指をあてながら、つぶやいた言葉の先に彼のことを想う。

 気になる異性、というには意識をしすぎていると自覚のある彼への想い。

 であれば当然、明日という日にプレゼントを贈らないといった選択肢はないはずだ。


「そうか。じゃがおぬしなら手作りくらいしそうなものじゃが」


 家柄、花嫁修業と呼ばれる一切の所作を納めたこともあり、料理にも自信はある。

 それは当然、お菓子つくりでも同じこと。

 実際に彼にクッキーやスコーンなどお茶請けとして幾度となく手つくりのお菓子を口にしてもらっている。

 都度、美味しいと褒めてもらっていることもあり、決して自信がないというわけではない。


「でも、せっかくならもっとおいしいものを食べてもらいたいかなと思いまして」


 それでも、もっとおいしいお菓子などこの世には山ほど存在している。

 込める気持ちは負けるはずもない。

 だけど、それだけでは埋められない味の差は確かに存在する。

 これは持論だが、美味しいと言って欲しくて愛情を込めて作る料理と、お店で作られる美味しい料理を比べた時、満足度について後者が勝ることはままあると思っている。

 風情はないかもしれないが、それが現実である。

 であれば、手つくりではなくより美味しいものを用意することもまた愛情表現の一つであると考えるわけで。


「そうか。【狂犬】などと呼ばれているが、やはりおぬしも乙女よのう」

「ふふっ、誉め言葉として受けておきますね」


 そう口にしながら、チョコレートの並ぶショーケースへと視線を配る。

 下調べした買いがありどのチョコもとても美味しそうだ。

 果物風味の味が特徴のチョコに、お酒が混ざった大人なチョコレートも並んでいる。


「ところで、あなたもここで買い物を?」

「うむ、そうじゃ。自慢ではないがわしは料理が得意ではなくてのう」


 まぁ、イメージのままである。


「そうですか。ところで、お店を変えられてはいかがですか」

「おや、気が合うではないか。渡す相手が同じなのに包装紙まで同じでは印象が埋もれてしまうでな」


 視線はショーケースから外さずに、表情に笑みを浮かべたまま気配だけを相手にぶつける。


「あ、あのう。すみませんが店内で喧嘩はちょっとぉ……」


 カウンターのお姉さんが困った様子でこちらを伺っていることに気が付く。

 隣に立つ彼女と初めて目を合わせると、どちらともため息を吐きながら再びショーケースの方を向く。


「ま、肝心なのはチョコが美味しいかどうかじゃな」

「同感です」


 大事なのは彼が美味しいと感じてくれること。

 それに、贈り物に混ざったほんの少しの下心を感じないほど、いうほど彼は鈍感な人ではない。


「すみません、こちらを頂けますでしょうか」

「すまぬ。こちらを一つ頼む」

 

 同時に注文を受ける羽目になったお姉さんは変わらず困った表情で、送り主への一言を添えるカードも付けることが出来ると提案を口にする。

 その言葉に少し悩みながらも、ふと芽生えたいたずら心がとある言葉を口にさせる。

 奇しくも隣の彼女と同じ言葉を口にしたとき、お姉さんは今度こそぽかんと口を開いて固まった。

 ただ彼への気持ちを口にしただけだというのに。



 ******



「ふぅ、出来ましたね」

「お疲れさまー。上手にできたんじゃないかな」


 学園の調理室。

 料理研究会の部室として割り振られたその場所で、私と先輩を含めた二人だけのチョコレートつくりは無事に幕を閉じた。

 とはいえ、語ることなどは何もない。

 私も星宮先輩も料理は自信があると自負するだけあり、何事もなく無難にチョコレートを完成させていた。

 トラブルもなく、いたって平和に。

 なので特質すべき出来事など何もなかったのだ。


「さて、包装も綺麗にできたしあとはチョコを渡すだけね」

「えぇ。そうですね」


 そう。ここまでは問題ない。

 ここからだ。


「あの、優介先輩ってやっぱり、その」

「うん。すっごく大変だと思うよ。去年でさえあれだったし」


 その去年というのを知らないのだが、明日はおよそとんでもない戦争になるのではないかと予想はできている。

 なにせ、まぁ奴はモテる。

 それも学年を問わずに、である。


「まぁ、いろいろあったからねぇ」


 その言葉は、彼に最も近いと称される星宮先輩をして遠い目をさせるほどに重たい。

 というか、こんなきれいな先輩になんて表情をさせるのか。あのサイコパス眼鏡がぁ。

 

「ただまぁ、ねぇ。彼の周りには彼女たちがいるから」


 そう。それもまたある種の火種に他ならない。

 

 ――【魔弾】【占い猫】【魔女】【狂犬】


 他にも何人かいるけれど強烈なのは彼女たち筆頭の四名。

 それらの圧力を跳ねのけてまで彼にチョコをプレゼントしようとする女子がどれだけいるだろうか。

 あるいは集団心理でまとめて動くかもしれないけれど、その分本命として渡せる人は限られてくるに違いない。

 誠恐ろしいボディガードたちである。


「それで、紗耶ちゃんはどうやって渡すか決めたの?」

「えぇ、まぁ一応は」


 ちょっとしたプライドを天秤にかけた末、合理性を判断した私は彼を昼休みに呼び出す予定を伝えていた。

 同じ学年、クラスであればもっと選択肢もあっただろうが、合同授業の予定もない明日では時間が限られてしまう。

 であれば、例え意図がバレていようが確実に渡せる時間を確保することこそが優先される。

 にやにやしながら現れる奴の姿がちらついて仕方ないが、それでもチョコを渡せないという最悪の事態は避けたい。


「それで、星宮先輩はどうするんですか」

「……うん。私はね、ちょっと、そのぉ、放課後にね」

「は?」


 なるほど。

 先ほどの件を少し撤回することとする。

 なんてことない。この人も十分したたかな人でしたね。



 ******



「ふわぁぁぁ。もうこんな時間か」

「お、ラッキー。半額シールついてんじゃん。スパゲッティとか久々だな」

「……ん? うっさい。いいだろう。……あぁ、分かったよ。これは明日の朝に食べるって」

「ったく。別にボクが夜中に何を食べようが別に構わないだろう」

「あぁ、はいはい。太らないように気を付けますよー」

「……あぁ、そういえば。明日――いやもう0時を過ぎたから今日か。バレンタイン、ねぇ」

「え、あいつに? いまさら? あぁ、はいはい。分かったよ」

「……ったくよー。ありがたさはないかもだけどさ、絶対別の日にプレゼントした方があいつは喜ぶだろ」

「昼ごはん食ってるときにさ、おすそ分けって感じで机の上にチョコを並べとくんだよ。そしたら自分から選んで摘まむだろ」

「人間てのは自分で選んだものを食ってる時が一番楽しいんだよ」

「……あーはいはい。んじゃあこれでいいだろ。ほら美味しそうじゃんか。……だろ?」

「じゃ、これ買って帰るぞ」

「ふわぁぁぁ。……これ、寝ぼけて食わないようにしないとなぁ」



 ******


 

「ユーくーん♡ 質問でーす! 今日は何の日でしょーか?」

「バレンタイン」

「……えーなんか反応が薄くないー?」

「だってこの下り昨日もあったし」


 えー!と不満を隠さずに文句を口にする実姉をよそに、すでに食卓につく家族へと挨拶をする。


「おはよう」

「おはよう優介! はい、これバレンタインのチョコね」

「お、ありがと母さん」


 綺麗な包装紙に包まれたハート柄のチョコレートは、弟である良太の手元にも置かれていた。


「おう兄貴。今日はいくつチョコをもらうつもりなんだ?」

「それも昨日やったってば」


 ふわーとあくびをしながら席に着くと、すぐに姉さんが朝食を運んでくれる。


「はい。これ私からユーくんに。ちなみに本命だゾ♡」

「あ、うん。ありがと」


 受け取ったチョコは小さいものの、なんかこう力強さみたいなものをひしひしと感じる。

 なんていうか、まぁうん。愛情たっぷりってやつなのかな。

 ただ間違いなく美味しい。これだけは弟目線を抜きにしても断言することが出来るのは良いことなのか悪いことなのか。


「……なぁ姉貴。俺もチョコほしいなーなんて」

「え、ないわよ」

「なんでだよぉっ! 大事な弟だろぉ!」

「はぁ。一体どこに姉が弟にバレンタインにチョコを渡さなきゃいけないなんて法律があるのかしら」

「隣ぃ見てみろよぉ!」

「あらユーくん♡」


 今日も今日とて騒がしい漫才を繰り広げる姉弟をよそに、目も前に置かれた目玉焼きへと手を伸ばす。


「そういえば父さんは?」

「まだ部屋にこもってるわ。お仕事大変みたいね」


 そう口にする母さんの手元には、ほんの少し豪華な包装に包まれた箱状の何かが一つぽつんと置かれていた。


「優介。今日の夜は私もいるから結果報告よろしくね」

「結果報告って……はぁ」

「あー、ため息なんて絶対に女の子の前でしちゃだめだからね!」


 いつにもまして元気な母さんのテンションに、つい苦笑いを浮かべてしまうもその言葉には同意する。

 今日という日を大事にしている人は多いのかもしれない。

 その気持ちの行く先が、もし僕であるのならばそれは大切に受け取ることとしよう。


「ほら、ちゃんとあんたの分もあるわよ。はいこれ」

「お。おう。ありがと」


 窓から外を見上げれば、今日もまた一日良い天気になりそうな気配を感じる。

 そんな晴れやかな気持ちで学園に向かった少年が、まぁトラブルに巻き込まれてドタバタする羽目になるのはまた別のお話。

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