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【更新休止】魔法使いの花嫁たち  作者: 春夏 冬
6月:キングス・ファイブ 【魔法使い】VS【魔女】
54/62

side SS:優介たちは週末を過ごす ①

 ――キーンコーンカーンコーン

 

「それでは本日の授業はこれまで。続けて西園寺さん、ホームルームの執り行いをお願いします」


 金曜日の最終授業。

 その終業を告げるチャイムが学園中に響き渡る頃、マシロ先生が告げる一言にクラス中が湧き上がる。


「よっしゃああああ! 終わったぜぇぇぇ!」

「いえーいっ! あっそびにいくぞーっ!」


 あるものは両腕を上げながら席を立ち上がり、またあるものは颯爽と鞄を机の上にあげるとそのまま帰り支度を整え始める。

 なんとも早急かつ迅速なその動きにはいっそ微笑ましささえ覚えてしまう。

 また一方でそんな光景を眺めつつ、マシロ先生は我関せずとばかりに自分のデスクへと足を運ぶ。

 寸分違わないとさえ感じる毎週恒例の出来事に、ついには呆れの一言も無くなったらしい。

 四月の頃はまだおとなしかった。それが五月、六月と時が経つにつれ、やがて抑圧された気持ちが爆発したかのように雄叫びを上げ始める猿が増える。

 初めの頃は注意していたマシロ先生も、さすがに動物園の面倒は見切れないとばかりに匙を投げた末、今に至るというわけだ。


 さてそんな過去へと思いを馳せて頃、マシロ先生がこちらを一瞥する。


 ――さっさとホームルームを始めてください

 ――あ、はい。わかりました

 

 そんな無言のやり取りを交わすと、僕は席を立ち上がり教卓を挟んだ形でクラスメイトたちの前へと立つ。


 ――パンッパンッ

 

「はーい。静かにしてくださーい。さっさとホームルームを終わらせたいですよねー」


 手を叩きながら声を上げる。

 そうすると、ざわざわとしたどよめきが徐々に鎮まり始め落ち着きを取り戻したクラスメイトたちが静かに着席し始める。

 これもまたいつもの光景だが、取り仕切る人が前に立てばなんやかんやと話を聞く姿勢をとり始める傾向にある。

 聞き分けが良くて大層結構なことである。


「うぉぉぉぉ! 休みだぁぁぁ!」

「黙れ猿」


 なお僕の悪友(東間翔也)については最後の最後まで叫び散らかしていたことをここに補足しておくべきであろう。


 

 ******



 とはいえ、実のところすでに連絡事項については概ね済ませている。

 ともなればホームルームは五分と経たずに終わりを迎えるわけで。


「――では連絡事項はこれくらいで。マシロ先生、他に何かありますか?」


 落ち着きなくウズウズとし始めるクラスメイトたちの姿に小さく苦笑いを浮かべつつマシロ先生へと話を促す。

 一応時期が時期だけに何か話があるかもしれない。

 そんな意図を含んでのパスである。

 その言葉を受け、自分のデスクで書類の整理をしていたマシロ先生は生徒たちを見渡しながら話を口にし始める。

 

「――皆さん。西園寺さんの話にもありましたが来週からついに日本魔法技術センターでの合宿がスタートします。すでにご存知の通り月曜日から木曜日まで、三泊四日の合宿で皆さんは魔法について多くを学ぶことの出来る機会を与えられます。この貴重な機会はそう何度もあるものではありません。皆さんが将来を考えるのであればその時間を大切にしてください」

 

 ――日本魔法技術センター。


 その所在は関係者のみが知るものとされ、またどういうカラクリか招かれざるものが足を運ぼうとしても決して辿り着くことが出来ないとされる謎に包まれた施設。

 その秘匿性の高さといえば、例え魔法使いであっても機会がなければその造形を拝むことさえ出来ずに生涯を終えるとされており、一部では本当に存在するのか疑わしい幻の施設とさえ噂されているそうだ。

 しかし一方で、僕たち魔法学園生は年に数回、彼の地に招待されている。

 将来性、なんて言葉を適切に当てはめることが出来ているのか定かではないけれど、少なからず「優秀な魔法使い候補生」としてその貴重な機会を与えられているとのこと。

 案の定というべきか保護者の中には子どもに対して在学中にコネを作るように頑張れと発破をかけている人もいるらしい。結構なことで。

 ともあれ、そんな貴重な時間がいよいよ来週に迫っって来たことを実感すると、さすがの僕も湧き立つものを感じずにはいられない。

 

「――それと事前に伝達していた通りに魔法対抗戦は合宿の三日目に開催します」


 そして、ついに(きた)る魔法対抗戦。


「第二学年生は午前中に各二つのクラスごとに一試合ずつ、計二試合が行われます。そしてうち二試合目が皆さんの出番となります」


 事前に発表されている対戦カードは以下の通り。


 ――第一試合 一般応用学科クラス VS 体育学科クラス

 ――第二試合 一般基礎学科クラス VS 魔法学科クラス


「また試合会場は【キングス・ファイブ】のプロチームも活用する公式フィールド。魔法学園とは魔力濃度の濃さが異なるため、試合までに文字通り空気に慣れておくことが重要になります」

 

 人工的に生成される濃い魔力濃度により顕現可能となる強力な魔法。

 魔法学園では十二分に実力を発揮できない魔法使いほど脅威となるその戦場を、心待ちにしているのはきっと僕だけではないはずだ。

 何より、僕たちの相手は最も優秀な魔法使い。可能性の化け物たち。


 ――【魔女】カルナ・メルティ

 ――【占猫】松永 音子


 それに他にももう一人。

 まぁ、これで期待するなという方が無理な話である。

 

 その後もマシロ先生からいくつかの注意事項が投げかけられる。

 遅刻するな。準備はしっかりしろ。忘れ物には注意しろ。遅刻するな。


 そんなフラグにも聞こえる注意事項の数々に僕はじっとある一点を見つめていた。


 ――おいおいこっちばかり見つめるなよ。照れるだろ


 どうやら僕の視線に気がついたらしい彼女は、目をぱちりとウインクすることで僕に返事を返したつもりらしい。

 いや、ヒメ。これ君絶対遅刻するやつじゃん。

 


 ******

 ******



 明くる日の土曜日。 


「ねぇ優介。ポップコーンはどの味にする?」

「塩にバターにキャラメル、あとはチーズ? ちなみに紫苑さんのおすすめは?」

「しょっぱい気分なら塩味かな? 甘い気分ならキャラメルをどうぞ」

「しょっぱい気分と甘い気分とは一体?」


 僕は紫苑さんに連れられて隣町の映画館へと訪れていた。

 なんでも彼女が以前から気になっていた映画がもう時期公開期限を迎えるらしく、それならば早々に足を運ばねばと貴重な休日に予定を立てたそうだ。

 

『クラスの子も面白かったって盛り上がってたの。面白いんだって!』

『へぇ、そうなんですね』

『そうなの。気になるでしょ』

『いえ別に』

『気になるでしょ?』

『いえ、べ――』

『気になるよね? 観に行きたいよね?』

『…………はい』


 なお僕がここに来るに至った過程は別の機会にでも語るとしよう。

 ともあれ、正直にいえば僕もそう悪い気はしていない。

 特に休みの予定もなし。今日中にやりたいことも特になし。

 ついでに自分ではなかなか映画館に足を運ぼうなんて考える機会もないわけで、そういった意味では貴重な時間を過ごすきっかけを与えてくれた紫苑さんに感謝しているくらいである。


「って、紫苑さんもうパンフレットまで買ってるんですか?」

「うん。私映画を観に来るたびにパンフレットを買うようにしてるの。なんか思い出って感じがしない?」

「なるほど。それは少し分かるかもです」


 思い出、ね。

 そう言われると僕まで欲しくなるのはどうしてだろうか。

 別にまだなんの感情も抱いていない映画だけど……あ、すみません。僕にも一冊ください。


「ふふっ、優介ってこういうところ人に流されやすいよね」


 口元を抑えて笑う紫苑先輩の言葉にそうかなと考えて、そうかもしれないと心の中で頷いた。

 さてそれは一体誰の影響でしょうか。



 ******


 

 物語は少年と少女との出会いから始まった。

 幼少期、ある日少年は公園で見慣れぬ少女を見つける。

 何か落ち込んだ様子でベンチに腰をかけながら下を俯く少女の姿に、お人好しな少年は近づき声をかける。

 大丈夫? 何かあったの?

 そんな少年の呼び声に、少女は顔を上げると一言消え入る声でつぶやいた。

 お父さんとお母さんとはぐれたの。

 それから少年は少女がこの街の人間ではないこと、旅行に訪れている最中にはぐれてしまったことを知る。

 そこまで話すと少女は声を押し殺しながら涙を流し始める。

 そんな少女の姿に、少年はどうにかしてあげたいと悩んだ末に共に両親を探しに行こうと声をかける。

 訪れた場所、記憶に残っている場所、それでもダメなら僕の家に来ればいい。

 そう言葉で励ます少年は、やがて頷き立ち上がる少女を連れて街へと歩き出す。

 

 ――ねぇ、あれはなに?

 ――だがしやっていうんだよ。いっぱいおかしがうってるんだよ


 ――わぁ! みずがいっぱい!

 ――かわをみたことないの? あぁぬれちゃうってばっ!


 その冒険は、少女に笑顔を取り戻させるまでに時間を必要としなかった。

 また少年も大きなリアクション見せる少女の姿が嬉しくて、本来の目的を忘れながらも少女に自分のよく知る世界を案内する。

 そして、その末に少女は無事両親との再会を果たすこととなる。


 少年はそこで初めて少女が異国から訪れた旅行者であると知る。

 ありがとうと感謝を告げる少女の両親から、意図せずしてその事実を告げられた少年は驚きを隠せずにいた。

 まだ幼い少年にとって異国とはまったくと言っていいほど想像のつかない世界。

 船や飛行機なんて夢の乗り物だ。

 自分の足では決して辿り着くことの出来ない土地に住む少女とは、きっともう二度と会えないのだと寂しさを感じる少年に、少女は手を掴みながら笑顔で言葉をかける。


 ――おてがみかいてもいい?


 彼女のその言葉に、少年は頷くことで答えてみせる。

 少年は自分の住所を紙に書いて少女に渡す。

 

 ――おへんじちょうだいね

 ――うん。もちろんだよ!


 少女は両親と手を繋ぎその場を後にする。

 少年は少しの寂寥感とほんのわずかな暖かい感情を胸に家へと帰宅する。


 それから数日後、少年は街から去ることとなった――。



 ******



 うわー、この映画めっちゃ僕に刺さるわ。

 どうにも自分の過去を物語に書き起こされているような感覚に思わず見入ってしまったほどだ。


「……まぁ、考えてみれば本当に物語みたいな話だもんなぁ」

「え、何か言った?」

「あーいえ。なんでも」


 おかげさまでなんとも素敵なタイミングでばっちりと記憶を呼び起こすはめになった。


 ――ユースケ、ワタシキライ、ナッタ?


 先にも後にも、あんな表情を見たのは初めてだったよなぁ。


「――すけ。――もしもーし優介?」

「あ、はい」

 

 ふと気がつけば紫苑さんが僕の名前を呼んでいた。

 いつの間にやら施設の中の喫茶店に到着していたらしい。


「もうっ、ずーっと考え事ばっかりなんだから」

「すみません。少しだけ考え事をしてまして」

「ふーんだ。紫苑さんは気分を損ねたので優介の奢りでパフェを食べようと思いまーす」


 ツーンとそっぽを向くシオンさんに僕は思わず苦笑いを浮かべる。

 この人、生徒会の書記なんて務めてることもあって学園内では年上のお姉さんキャラなのに二人きりになるとどうにも幼さが出てくる。

 その理由が分からないなんて野暮なことは言わないけど、それでもなんだか可笑しいというか。魅力的というべきか。


「……あれ、ねぇ優介。あそこにいるのって」


 そんな紫苑さんを揶揄うようなことを考えていた罰だろうか。

 彼女の言葉が指す方へと視線を向けると、そこにはテレビの取材を思わせる集団が場所をとっていた。

 どうやらお店の中で取材をしているようで、よく見てみればレジの前に『ただいま取材中』と書かれた札が大きくかけられている。

 少し騒がしいけどすみません。そんな風に店員さんがこちらへと会釈していた。

 ――だが、問題はそんなところにはない。


「ねぇ、やっぱりあれって――」

「紫苑さん。ここはダメです。早急に違う場所へ――」


「あー! よく見てみればこちらにもお若い方がいらっしゃいますね。学生さんでしょうか? どうもこんにちわ!」


 くっ、遅かったか。

 集団から抜けてこちらへと近づく一人の少女の姿に、僕はなんとか表情を顔に出さないようにと内心で心がける。

 すなわち無表情。


「どうもこんにちわ」

「わー! すごい美形カップルさん。今日はもしかしてデートですかー?」


 うわー。やばい。

 チラリと視界を横に開けばバッチリとカメラがこちらの姿を収めてることがわかる。

 まさかこれ生放送じゃないよな。

 ひとまずなんとか話の主導権を――。


「あ、はい。デートです」


 はい。終わりました。

 なにが終わったって? 僕の平穏がですよ。

 しばらくすると震え始める僕のスマートフォン。

 あれ、これやっぱり生放送かな?


「えー! すごく羨ましいですね! 彼氏さんとは仲が良いんですね」

「はい。今日もこれから彼のご馳走で甘いものを食べに行こうって。それでこのお店に来たんですけど」

「そうだったんですね! あ、それじゃあ私たち邪魔しちゃったかも知れませんね。ごめんなさい!」

「いえ、そんなことありませんよ。ねぇ優介くん?」

「アッ、ハイ」


 めっちゃ震えるスマートフォン。

 それはもうニッコリと笑う紫苑先輩。

 ごめんなさいと謝りつつ笑顔を浮かべるレポーター。


「あ、それでですね。今テレビの取材でカップルの方へお伺いしていることがありまして――」


 はぁ。残りの週末は穏やかに過ごせるだろうか。

 そう思わずにはいられない今日この頃である。

一話でまとめるつもりだったのに

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