第4話:意図せずして演者の名は上がる
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「あ、そうそう! 最後に一つ、確認しておきたいことがありまーす」
本日の主題である八月の魔法対抗戦についての説明を終え、そろそろ解散するのではなかろうかという頃に再び西園寺生徒会長が口を開きます。
さて、お話とは一体なんでしょうか。
「あら、なんでしょうか」
それはまた先輩方も同様に予期していなかった様子で、最初に返事を返したのは首を傾げながら口を開く佐倉先輩だった。
「せっかくこの場には各クラス代表も参加してもらっていることだし。今の段階で構わないからそれぞれの推薦人を聞いておこうかなーって」
「推薦人……それを聞くにはやや時期が尚早ではありませんか?」
続けて言葉を発するのはマシロ先生。
ふと視線を配れば黛先生もまた生徒会長の方へと顔を向けていた。
その様子を見るに、もしかすると先生方もこの話については事前に聞いていなかったのかもしれません。
「参考程度に、ですよ。マシロ先生。それにどうせあと来月には推薦枠を決めななくちゃいけないんですから、それなら少し早めに聞いたところで悪い者でもないでしょう」
推薦枠。
たしか先ほどの説明だとプロチームからの推薦枠が最大十名、学園側の推薦枠が最大五名、残りの推薦枠を生徒会が決める。そんな話だったはず。
「先ほどの繰り返しにはなるけど、生徒会推薦枠はルールの仕様上最低でも全校生徒から五名以上を選ぶ必要があるの。プロチーム、それに学園としての推薦枠が少ない場合はもっと選ばなくちゃいけないし、結構大変なんだよね。だから今のうちから君たちの意見を確認しておきたいなっていうのが今からの話の意図ってわけ」
「一理ある。それに『学園側』としても生徒たちの意見を聞いておくのは悪くない」
生徒会長の説明に、それまで沈黙していた黛先生が腕を組みながら同意します。
一方で質問を投げかけたマシロ先生もまた強い反対意見は持ち合わせていないようで、わかりましたと一言呟くと話を委ねるように一歩引いた姿勢を見せる。
「なるほど。そういうことであれば」
一方で先輩方も話を受け入れている様子。
特にクラス代表に任命されている西園寺先輩、天神先輩、佐倉先輩、カルナ先輩の四名は一切の困惑を見せずに至って落ち着いたままに見受けられます。
というかこの四人が慌てふためく様子が全然イメージ出来ないのは私だけではないはず。
「じゃあ最初は、一般応用学科クラスの天神くん。あなたのクラスからは誰を推薦しますか?」
「はい。それでは――神崎シズク嬢を推薦します」
それでは早速ばかりに質問を投げかける生徒会長に対し、天神先輩は澱みなくすぐさまに推薦人の名前を伝えます。
「神崎シズクさんね。ちなみに推薦理由を聞いても?」
「勿論です。推薦理由ですが私と、隣に立つ神崎都子との相性が良いことが挙げられます。当然戦略次第とは存じますが我ら三名が同じ戦場に立てばプロ相手でも立ち回ることをお約束しましょう」
神崎シズクさん……私には覚えのない人物だ。
四月の魔法対抗戦では記憶に残るような目立った活躍をしてなかったのかと認識しているものの、天神先輩が自信ありげに意見を伝えるあたりどこか優秀な魔法使いなのかもしれません。
「うん、ありがと。それじゃあ次に――体育学科クラス、佐倉さん」
「はい。体育学科クラスの推薦人はおりません」
即答。そして推薦人――なし。
「推薦人なし? 本当の良いの?」
「えぇ、問題ありません。それともどなたか候補者をあげた方がよろしいでしょうか?」
「いや、そんなことはないけど」
にこりと笑みを浮かべた表情で佐倉先輩は生徒会長へと質問を返します。
あたかも「何かおかしいでしょうか?」と言外に伝えるその態度に、生徒会長は少し思案する様子を浮かべるもすぐに納得したようにいつも通りの表情を浮かべる。
とはいえ、体育学科クラスといえばそれこそ優秀な人材が揃っているクラスの一つです。
結果的に西園寺先輩たち(彼はいなかったが)のクラスに敗北こそ喫したものの、試合だけ見れば終始押していたのは体育学科クラスでした。
例えばその中心にいた金髪が特徴的な山崎先輩。彼など対プロチームの選抜メンバーとして選ばれてもおかしくはないように思えますが――。
と、そんな私の考えを察してか否か、佐倉先輩は姿勢を正すと続けて考えを口にします。
「そうですね、たとえば山崎くんなんかは候補者としてあげても良いかもしれません。ですがそれを彼が喜ぶでしょうか」
佐倉先輩は一度話を止めると、自分の顔の前に人差し指を一本立てる。
「もしも彼らが必要だと、その力が肩を並べるに足るものだと生徒会長がご判断いただければ、その者は自然と選ばれるはずです。――ですのであらためまして。私、佐倉朱音は私のクラスから誰も推薦をいたしません」
浮かべる笑みとは裏腹に感じる強い意志。
なるほど。それはたしかにわからない話ではありません。
「問題ありません。それにあなたの考え、私は嫌いじゃないよ」
「そうですか。それは良かったです」
そういう意見もあるのかと私は内心で何度も頷く。
それが誰かのためになる考え方なのか今の私が判断することは困難ですが、それでも私の中にこれまで存在しなかった一つの選択肢として強く心に残ります。
「では次に、魔法学科クラス。カルナ・メルティさん」
「うむ」
次に呼ばれたのはカルナ先輩。
余談ですが彼女の名前について、カルナが姓でメルティが名前らしいです。
いわゆるファーストネームとラストネームの構成ではなく、日本特有の姓と名の考え方に沿った名前だとのこと。
正直違和感を感じはしますが、ご本人がそういうのであれば納得するほかありません。
「実はわしもそやつと同じ考えでの。わしからの推薦人はなし――といきたいところじゃが、故あって一名――魔法学科クラスから天野河リノを推薦する」
天野河リノ。
こちらの名前は知っている。というよりも知らない人の方が珍しい。
正真正銘の現役アイドル。そういった話に疎い私ですら知っている程には、天野河リノという人物は有名ということ。
「あやつはの固有魔法は便利じゃし、それに祭り事には向いている人選じゃろうて。選出理由はそんなところじゃよ」
――かっかっか!
話を終えたとばかりに腕を組みながらカルナ先輩は特徴的な笑い声を上げます。
一方の生徒会長も話には納得したのか、加えて何か尋ねることもなく最後のクラスへと意識を向けます。
「それじゃあ最後に――ユーくん。一般基礎学科クラスの推薦人を教えてね」
一般基礎学科クラス。
他のクラスと比べると特色に薄く、また魔法使いとして平均能力も決して高いとはいえないクラスですが、それでも現在の二つ名所有者九名のうち、四名は一般基礎学科クラスに集約しています。
そういった意味では、第二学年の中でも最も注目されているクラスの一つだといっても過言ではないでしょう。
「一般基礎学科クラスからは伊南潤、それと東間翔也の二名を推薦するよ。前者は【嘘言】との相性を、後者は頑丈さが役に立つっていうのが理由」
「なるほど。一般基礎学科クラスからはその二名の推薦を考慮すればいいのね?」
「うん。よろしくお願いします」
……その回答は、私にとって少し意外なものでした。
たしかに東間さんは私の中でも選択肢の一つ。
こと四月に開催された【かくれんぼ】では体育学科クラスの生徒を相手に身体を張って戦線維持に努めた東間さんの活躍がなければあの勝利はあり得なかったでしょう。
それこそ最終的にMVPにこそ選ばれはしませんでしたが、長い試合を通じて特に印象の残った生徒といえば東間先輩の名前をあげる一年生も少なくありません。
一方で伊南先輩といえば、姿を見せなかった西園寺先輩や姫島先輩の代わりに司令塔のような役割を果たしていたと記憶していますが、では彼が魔法対抗戦で何か戦果をあげたかといえばそうではありません。
まだ実力を見せていないと言われればそれまでですが、ただなんとなく伊南先輩は戦うタイプの魔法使いではないような気がします。
それなのに対プロチームの貴重な推薦枠を埋めてしまうのは問題ないのだろうかとつい気になってしまいつつも、ただそれ以上に私が気になるのはもう一人――。
「補足ながら生徒会長。私こと姫島姫子からも伊南くんを強く推薦させて頂きます」
ふとそんな考えを巡らせていた頃、すぐ隣から予想だにしていなかった声が部屋に響く。
静かな佇まいでその場に立ち続ける姿に何か違和感を感じてしまう女子生徒――姫島姫子。
彼女は部屋に入室して以来の言葉を生徒会長への意見として口にします。
「東間くんも勿論優秀ですが私としては伊南くんの存在が勝利には欠かせないと確信しております。どうかご考慮のほど」
「へぇ、キミが意見を述べるなんて珍しいね。うん、その言葉を覚えておくよ」
「えぇ、ぜひよろしくお願いいたします」
わずか数秒程度のやり取り。
その短い会話を終えると、姫川先輩は静かに目を閉じ存在感を希薄にする。
なんというか、やはりどこか違和感を感じてしまうのは気のせいではないと思うのですが。
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『以上で本日の会議を終了とします。それではかいさーん!』
生徒会長からの挨拶を経た後、その場を後にした私は西園寺先輩に誘われて食堂へと足を運んでいた。
放課後から時間が経っていることもあり人気は少なく、販売機で飲み物を購入すると空いている席へと腰を下ろす。
「どうだった? 情報が盛りだくさんで少し大変だったでしょ」
「えぇ、本当に……ですが貴重な機会を頂けたことには感謝しています」
処理できない情報量だとは思わないけど、少なからず自分の中で整理する必要のある部分がいくつか存在していました。
魔法対抗戦の特別ルール、それにプロチームとの試合。
幸いにも資料が手元にあるため情報を見返すことも出来ますが、可能な限り熱のあるうちに頭で処理しておきたいというのが本音ではあります。
それに、わざわざ西園寺先輩が招待してくれた時間。このまま何も形に出来ずに失うのは気分が悪くなってしまいます。
「それは良かったです。雪代紗耶さん」
そしてもう一人、この場に同席しているのは姫島先輩。
彼女は両手でカップを持ちながら口元に近づけると、喉を潤すようにと飲み物を飲み始める。
数秒後、ふぅと小さく吐息すると次に私の方をじっと見つめる。
「昨年の優介くんのように、一年生から選抜メンバーに選ばれる可能性は少なからずある。もしあなたに優れた素質が眠っているのであれば、もしかすると――」
それは、私自身もうっすらと意識していることでした。
今日の言動から西園寺先輩ももしかしたら私に何かを期待しているのではないかと、そんなふうに考えてしまうのは自惚かもしれません。
ただ恥ずかしいから口にはしないものの、そんなもしかしたらを考えてしまうのはご愛嬌としてほしい。
「ところで優介くん。いよいよ八月が迫ってきてるけど調子はどうかな」
再び飲み物に口をつけながら、姫島先輩は続いて西園寺先輩へと話をふる。
対する西園寺先輩はといえば、テーブルに飲み物を置いたまま顎に手をつきどこか遠くへと視線を向けながら口を開く。
「順調、と言いたいところだけどまだまだ準備が必要だよ。聞いてるかもしれないけど、先日【狂犬】と手合わせしてみて、うん。やっぱり力不足を実感したよ」
「彼女を相手にそう言い切れるのは優介くんくらいだよ。私から見たって【狂犬】はプロと比べても遜色ない力を有している。もし彼女が本気を出せば、相性を勘定に入れたとしても第六位以下は単身でだって降せるさ」
またなんだかすごい話をしてる。
西園寺先輩と佐倉先輩が戦った? その佐倉先輩はプロ相手に負けないほどの実力を備えている?
どこまで信用していいのか分からないけど、ただの学生がそこまで言い切ってしまっていいのかと気になるほどに姫島先輩の口調は自負に満ちていました。
「そういうヒメたちこそ準備は進んでるの? そっちも同じくらい大変だと思うけど」
「今のところ私たちの計画は順調だよ。手に入った【飛翔】のコマは有用だし、他にも成長株はいくつか確認している。――そうだね。あとは六月と七月の魔法対抗戦次第かな」
そう言葉を口にした姫島先輩は、残った飲み物をぐいっと一気に飲み干すと席を立つ。
まだ話は途中に思えたが、やや急ぐような気配を見せる彼女の様子を見て察するに何か用事があるのかもしれません。
「それじゃあ私はこれで。優介くん、お互いに頑張ろうね。雪代さんもまたね」
「はい。さようなら」
「またね。――次は七夕かな?」
「――ふふっそうだね。それじゃあまた」
姫島先輩は入り口近くに置かれたゴミ箱にカップを捨てると、そのまま食堂を去っていく。
ふと気がつけばあたりに人影はなく、残っているのは私と西園寺先輩の二人だけになっている状況に気がつく。
そうか、もうこんな時間ですものね。
「では、私たちも帰りましょうか」
「そうだね。あらためてだけど雪代さんも今日はお疲れ様」
「えぇそうですね。いつも以上にどこかのメガネ先輩にいじめられましたので」
「なにそれ?」
なんてことない一日で、なんだか知らぬ間に色々な物事が進んだような気がする。
これから始まる【キングス・ファイブ】、そして八月のプロチームとの魔法対抗戦。
いよいよ持ってこれから慌ただしくなるのであろうと予感を感じつつも、そんな中において私は自分がとある感情を抱きつつあることを自覚する。
「ところで先輩。せっかくなので私の用事に付き合って頂きたいのですが」
「別にいいけど。どこにいくの?」
「実は駅前の本屋にですね――」
なんてことはない。
私――雪代紗耶もこの学園生活を楽しみ始めているのだということである。
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