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第92話 不気味な魔法塔


ビビが実の母親から聞かされていただろう父親の情報が、微妙にロマーノの両親とリンクしている。


そんな2人に、本当のお父さんとお母さんだよと言われたら、幼いビビが信じるのも無理はないだろう。


「その節は娘が大変お世話になり、本当にありがとうございました」


ビビによく似た金色の巻き毛を揺らしながら、トリスタン伯爵夫人は私たちににこりと微笑んだ。


綺麗な人だな……。

ロマーノの母親なら若くても40代後半だと思うけど、とても30近い息子がいるようには見えない。


「本当に、何とお礼を申し上げればよいか分かりません。アメティースタ公爵夫妻に助けられなければ、この子はどうなっていたことか」


厳格な雰囲気のトリスタン伯爵は、現役の騎士だけあって逞しい体つきで、すらりと背が高かった。


それにしても……、ビビのあの髪はたぶん、実の父のヴィルジニオから、そしてヴィルジニオは母親から受け継いだものなんだろうな……。

遺伝ってすごい。


「そんな、お礼だなんて水臭いですわ。ビビのことは本当の妹のように思っておりますので、どうか気になさらないでください」


それに、今回のことはビビ自身が道を切り開いた結果でもある。

マルティーノおじさまに預けられることを激しく拒み、私たちに付いて来たからこそ祖父母に会えたのだから。


……自己主張って大事だな。

私もこれからはどんどん主張して行こう。


「……アメティースタ公爵夫人」


微かに聞き取れるほどの小声に振り向くと、アルフォンソが四角い箱を手に私の後ろに控えていた。

え、めっちゃ小声でどうしたの?


「何かしら?」


「……手土産をどうぞ、いちごのロールケーキでございます」


はッ!

手土産!


よそのお宅に初めてお邪魔するのに手ぶらはいかん。

アルフォンソ、今回もさすがの気遣いです!


「ありがとう、アルフォンソ。トリスタン伯爵、こちらは私の魔法で出したお菓子ですのよ。ぜひ召し上がってみてください」


早速、私の魔法で出したことを主張しておこう。


「おお、これが。お噂はかねがね伺っておりました。貴重なものをありがとうございます」


いやあ、美味しいってそんなに評判になってるの?

照れるなあ。


「いちごのー! ビビもすきー!」

「ぼくも!」

「ぼくもすき!」


みんな大好き、いちごのロールケーキ!

これをお土産にしておけば間違いない。


そして、お茶をいただきながら和やかなひと時を過ごした私たちは、昼食の誘いを固辞してトリスタン伯爵家を後にした。


さすがに、いきなり昼食までごちそうになるのは図々しいからね。


ちなみに、2人の王子はまだ帰りたくないそうなので、ロマーノが付き添って残ることになった。






「幸せに暮らしていて安心したな」


「ええ、私も安心しました。でもまさか、祖父母を実の両親と信じているとは思っていませんでしたけど……」


ビビにとってはその方がいいのかもしれないけど、生みの母のことを忘れてしまったのだろうかと考えると、どうしても切ない気持ちになってしまう。


「実の親と思っている方が幸せだよ。俺たちは余計なことは言わず、ただ見守るだけにしよう」


「はい……」


生みの母を忘れずにいてほしいなんて、私の勝手な思いだもんね……。


「次はいよいよ魔法塔だな。このまま直行するのか? 小腹が空いたし、昼食を食べてからにするか?」


さっきお菓子を食べたばかりなのに、ジュリオはもうお腹空いたの?


「ガブリエルが昼食を食べずに待っているかもしれないだろ。魔法塔に着いたらみんなで一緒に食べよう」


えー、ガブリエルが私たちを待ってお腹を空かせてる?

クリス様、本当にそんな可能性があると思ってるんですか?


「そうですね、僕もあまりお待たせしない方がいいと思います。お忙しい中都合を付けていただいているのですから」


アルフォンソも直行に一票か……。

まあ私はお腹も空いてないし、魔法塔へ直行でも問題ないけどね。






そしてやってまいりました、フォルトゥーナ王国立魔法学総合研究所。

長すぎるこの正式名称を日常的に使う人は滅多におらず、一般的には魔法塔もしくは魔術師塔の名前で通っている。


「なんだか気が滅入る佇まいですね……」


雲に届くのではと思えるほど高くそびえ立つこの塔は、近くで見ると圧巻のおどろおどろしさだ。

あちこちに絡まってる蔦が、廃墟っぽさを醸し出しているというか、不気味さに一役買っているんだよね……。


「俺もそう思う……。子どもの頃は、この塔が視界に入るとなんとなく恐ろしかったな」


夜中に見ちゃった日には眠れなくなるよ……。

おとぎ話の悪い魔法使いが住んでいてもおかしくない雰囲気だし……。


「ガブリエル様はどの辺りにいらっしゃるんでしょうね? 中に入れば受付があるのかな?」


アルフォンソ、ここに受付嬢がいる筈ないでしょ?


「通信機で着いたと知らせてみるか。ーーガブリエル、ガブリエル!」


『ーーもっちゃもっちゃもっちゃ……、ゴクッ。誰だ?』


あの……、いま何か食べてなかった……?


「ガブリエル、クリスだ。いま魔法塔に着いたんだが、何階に行けばいい?」


『ああ、3階に上がってきてくれ。じゃあな』


プープープー……。


また勝手に切ったよ。

相変わらず自由だな。


「3階だそうだ」


「ええ、聞こえました。ガブリエル様、何か食べてましたよね」


「はは……、きっと俺たちと違ってお茶を飲む時間もなかったんだろう。何時に行くとも伝えてないんだから、ガブリエルに文句を言うなよ?」


わかりましたよ……。

私だって小さなことでいちいち文句を言うほど子どもじゃないし。


「分かっています。さあ、中へ入りましょう」


私は自分の身長の倍はあろうかという高さの扉に手をかけた。


ぐぐぐ……、お、重いよ!

力いっぱい押してもビクともしないんだけど、どうやって入るの?


「ここじゃないか? ほら開いたぞ」


大きな扉の一部が通用口になっているのを目ざとく見つけたジュリオは、通常サイズの扉を開けた。


あ、そっちなのね……。

まあ、この大きさの扉を日常使いするには労力がかかりすぎるもんね……。


「ありがとうございます。えーと、黙って入っていいのでしょうか? すみませーん、お邪魔しまーす!」


とりあえず一声かけて、中に入らせてもらう。


シーンと静まり返って、人の気配が全然ないんだけど……。

なんか薄暗いし、入り口は本当にここでいいの?


「チェリーナ、入り口で立ち止まるなよ」


「でも……、なんだか怖くないですか……?」


「なら、俺が先に行くから。チェリーナは後から付いてこい」


クリス様はそう言うと、さっさと先に進んでしまった。


「あっ、待ってください!」


慌てて後に続いた私は、遠くからカツンカツンと響いてくる音に気が付いた。

え……、なんか足音が聞こえる……!?


「キャーーーーー! おばけ!」


「うるさい。なんでおばけなんだよ」


クリス様は耳元で叫んだ私を迷惑そうに見た。


「あああ、足音が! ほらっ、私たちが立ち止まってもまだ聞こえます!」


カツンカツン、カツンカツンカツン……。


「……遅い。なぜ上がってこないんだ」


壁の向こうから顔を出したのはガブリエルだった。


ガガガガ、ガブリエルかい……!

脅かさないでよ!


「そこが階段か。ずいぶん暗いよな」


「1階は誰もいないからな。2階から上が執務室だ」


そうなんだ……。


「俺の昼休みもあと30分しかないから早く行こう。歩きながら話をしてくれ」


「そうか、悪いな。実はーー」


ぞろぞろと連なって階段を上りながら、先頭を歩くガブリエルにクリス様が事情を話し始める。

そして、ガブリエルの執務室に着く頃には、一通り話が終わり、後は返事を聞くばかりとなった。


「ーーなるほど。用件は分かったが、時間の都合がな。俺もまだまだ下っ端だから、仕事を放り出す訳にはいかない」


そうだよね……。

ガブリエルからそんなまともな返事を聞けるとは思ってなかったけど、納得です。


「無理を言って申し訳ありませんでした。もし引き受けてくださるなら、お礼にお好きな魔法具を差し上げようとーー」


「それを早く言え。この話、引き受けた」


私の話を遮って手のひらを返したガブリエルは、なぜか私を責めるような目で見ている。

え……、下っ端だからとか仕事を放り出せないとか、そっちの話はどうなったの?


「俺の好きな魔法具ということは、お前が考えたものの中から選ぶのではなく、俺がほしいものを出すということだな。ううむ、何にしようか」


「ええっ!?」


ちょっと、勝手に決めないで!?


「よし、決めた。物を増やせる魔法具がいい」 


物を増やせる魔法具……?

1枚の金貨を2枚にしたり、1つの通信機を2つにしたりとかそういうヤツ?


……いいじゃないか!


よし、電子レンジ的な見た目の機械にポイッと入れて、スイッチを押せば倍の数に増えることにしようっと!


「出来ました! ーーポチッとな!」


シーン……。


あ、あれ?

まさかの不発……?


何も出てこないなんて、こんなこと初めてだ……。






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