第90話 ペリコローソ島の特産品
国が国がってさあー。
大体、私より先にガブリエルの方が死にそうだし、いまからそんな先のこと心配したって仕方がないと思うんだけど。
「ガブリエル様……、なんだか最近より一層お父上に似て来たんじゃありませんか?」
就職してから変わったのかもしれないけど、ガブリエルって国がどうのよりも、自分さえよければいい感じじゃなかったっけ?
『話を逸らすな! それに、息子が私に似て何が悪いのだ!』
……息子?
え、何……、もしかして、ガルコス公爵本人なのっ!?
『父上……、通信機を返してください。そろそろ仕事に戻った方がいいのでは? 父上の部下が困っていますよ』
小さく聞こえたこの声、こっちが本物のガブリエル!?
「ガ、ガルコス公爵でいらっしゃいましたか……。それは大変失礼いたしました」
できれば、そっちから名乗ってほしかったよね。
見えないんだからさ……。
『いや、俺だ。父上はいま部屋を出て行った』
今度はガブリエルかい。
前触れなく代わるのが好きな親子だな。
「ガブリエル様、私は一体いつからガルコス公爵と話してたんでしょう?」
『父上が、”いつまで待たせる気だ”と言って通信機を奪っていったところからだろうな』
つまり、最初からですね。
道理でいつにも増して嫌なやつだと思ったよ……。
「さようで……。お仕事中に邪魔をしてしまって申し訳ありませんでした。王宮魔術師のみなさんは、こんな時間までお仕事をされているのですね」
私たちはもう夕食も終えたというのに、王宮魔術師って激務なんだなあ。
うっかり就職しなくて本当によかった。
『まあ、俺たちはお前と違って忙しいからな』
むっ!
私だって忙しいし!
「それは申し訳ありませんでした! これ以上邪魔してはいけませんから、もう切りますね!」
別に話したいこともないしね!
『ああ。それじゃ、明後日にな』
「明後日?」
『なんだよ、そっちが会いたいって言ってきたんだろ。折り入って頼みがあると聞いたが。どうでもいい用事なら来るな』
そうでした。
つい売り言葉に買い言葉状態になってガチャ切りしそうになったけど、ガブリエルにカカオの実を任せたいんだったよ。
不本意ながら、ここは下手に出ねばなるまい。
「いいえ、とても大切な用事なんです。明後日伺いますので、ぜひよろしくお願いいたしますわ」
『わかった。じゃあな』
ツーツーツー。
切れた。
クリス様に代わらなくてよかったのかな。
それにしても……、魔法塔なんか訪ねて行ったら、ガルコス公爵に会っちゃうかもしれないじゃん……。
面と向かってクドクドお説教されたらどうしよう。
あー……、気が重くなってきた……。
そして翌日、一晩寝たら私の体調はすっかり回復していた。
この分なら王都までかっ飛ばしても大丈夫だとは思うけど、みんなも観光してから帰りたいそうだ。
そういうわけで、昼過ぎまでこの島を見て回って、それから今夜はアゴスト伯爵家のお世話になろうと思います。
「まずはどこへ行きましょうか?」
宿泊料金に無料の朝食が含まれていると聞いた私たちは、1階の料理屋で食事を取りながら観光プランを練り始めた。
ちなみに朝食のメニューは、卵料理とパンケーキ、それにカットフルーツとフルーツジュースという南国らしさあふれるラインナップだ。
特にこの黒っぽくて甘いシロップがたっぷりかかったパンケーキは、かなりおいしくて食が進む!
これは小麦粉じゃなくてお芋から作ったものなんだって。
「僕はこれを買いに行きたいな」
アルフォンソはそう言って、フォークに刺した一口大のパンケーキを目の高さに持ち上げた。
「パンケーキを買いたいの?」
それなら、ここで作ってもらったら?
あるだけ買うって言ったらまた迷惑かけちゃうから、数は加減した方がいいと思うけど。
「違う違う。上にかかってるこのシロップだよ。無料の朝食に、こんなにたっぷり甘いシロップがかかっているんだよ? おそらく、この島では砂糖が安く手に入るんじゃないかな」
「ああ、そういうこと! そうね、きっと安いのよ。たくさん買って帰りましょう」
わあー、早速お買い得商品を見つけちゃった!
黒糖のような独特の風味があるこのシロップ、私も好きな味だからいっぱいストックしたいな。
それに甘党のクリス様も、さっきから無言で一心不乱にパンケーキを頬張っているところを見ると、かなり気に入ったようだしね。
「おいおい、砂糖の輸入はアゴスト伯爵家の貴重な収入源なんだからな。自宅で楽しむくらいの量に抑えておいてくれよ?」
ジュリオはこの島で砂糖が安く買えることを知ってたの?
ふーん、アゴスト伯爵家は輸入品で儲けてるのかあ。
言われてみれば、港町を擁する貴族家はフォルトゥーナ王国内にいくらでもあるのに、他と比べてアゴスト伯爵家は群を抜いたお金持ちだ。
おそらく、他国との貿易があるかないかで、懐具合にかなりの差が出ているということなのだろう。
「はは、アゴスト伯爵家にご迷惑をおかけするほどは仕入れませんから。どうぞご心配なく」
「信用はしているが、アルフォンソは抜け目ないからなあ」
確かに……。
アルフォンソにはマイトブーンもあるし、直で買い付けに来て売りさばく可能性もあるよね。
「貴族家を敵に回しては商売が成り立ちませんよ」
それもそうか。
この言葉にはジュリオも大いに納得して頷いている。
いくら私たちと仲が良いとはいえ、平民であるアルフォンソが貴族家に目を付けられては商売あがったりだもんね。
「それじゃあ、食べ物中心に珍しいものを探しましょうか。他にもお買い得品が見つかるといいわね」
「うん、自力で探すのも楽しいとは思うけど、僕たちはあまり時間がないからね。地元の人に案内を頼もうよ。宿の娘さんの友達とか、近所の人とか、案内を頼めないか聞いてみよう」
「そうね、穴場を教えてもらえるかもしれないわ」
そして私たちは、甘い朝食に舌鼓を打ちながら綺麗に平らげると、案内役を紹介してもらうために受付へと向かった。
「ふうー、珍しいものがたっぷり手に入って大満足よ!」
果物をふんだんに使った甘いお菓子がたくさんあって、しかもすごく安かったのは嬉しい誤算だった。
「喜んでいただけてー、よかったですー」
私たちを案内してくれたのは、宿の娘さんのポリーナだ。
昨夜は宿泊客が少なかったらしく、午前中は手が空いているからと言って案内役を買って出てくれて大助かりだったよ。
やっぱり知ってる人に案内してもらった方がなんとなく安心だしね。
「助かったよ、ありがとう。これは少しだが取っておいてくれ」
クリス様が案内をしてくれたお礼を渡そうとすると、ポリーナはぶんぶんと手を振って遠慮した。
「いいえー、昨日はたくさんお料理を買っていただきましたしー、知ってるお店に案内しただけでー、大したことはしてませんからー」
「いいんだよ、本当に少しだから遠慮しないで受け取ってくれ」
そうそう、こういうのは気持ちだから!
「ではー……。あああー!? ありがとうございますー!」
口では少しと言いつつ、どうやらクリス様はお礼をたくさん渡したようで、ポリーナが目をまんまるに見開いている。
「それじゃ、そろそろ帰るか」
「そうですね」
アゴスト伯爵家へ向かいますか。
「短い旅ももう終わりか……。いや、ほんとに短すぎてなんとなく帰りづらいよ」
確かに……。
私も数週間はかかると思ってたしね。
「それなら、ジュリオ様も私たちと一緒に魔法塔へ行きませんか?」
人数が多い方が、ガルコス公爵の注目を逸らせる気がするし。
なんならさ、私とクリス様がビビと遊んでる間に、アルフォンソとジュリオで魔法塔へ行ってくれてもいいんだよ?
……あれ、すごくいいアイデアじゃない!?
「そうだなあ。まあ、行ってもいいけど、行かなくてもいいかな。王都には3年も住んだし、今更見たいものもない」
いやいや、観光目的じゃなくて、ガブリエル説得要員として参加してほしいのよ!
「ガブリエル様に、カカオの実の研究を頼んでほしいなーって」
「それはチェリーナから説明した方がいいだろ。大雑把にでも加工の手順が分かっているのはチェリーナなんだから」
まあね……。
ノーヒントでスタートするよりは、多少なりともヒントがあった方が上手くいく確率はあがるだろう。
それに、ガブリエルがタダで引き受けるとは限らないしな。
やっぱり自分で交渉するしかないか。




