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第80話 出だしでつまずく探検隊


「よし、それじゃ早速出発しよう」


ジュリオが隊長よろしく、意気揚々と号令をかけた。


「あっ、ちょっと待ってください。私たちが探検している間に、ボルカノ島民には今夜の寝床の準備をしてもらいましょう。その方が効率がいいですから」


時間は有効に使わないとね!

のんびりしてる時間はないんだから。


「そうだな。しかし、寝床と言っても、こうも木が密集してるとコテージも出せないな」


クリス様の言う通り、この島にコテージを出すのは無理そうだ。


それより何より、コテージをたくさん出せるほど木を切り倒したら、マーニがどれほど怒り狂うか……。

今後のことを考えたら、すぐにまた怒らせてしまうようなことは避けるべきだ。


でも大丈夫だよ、私に考えがあるから!


「トアミンを木と木の間に吊ってハンモックにするんです! いい考えでしょう?」


「え……、この人数分? チェリーナ、全然いい考えじゃないと思うよ……」


ええ、なんでっ?

アルフォンソって夢がない!


ツリーハウスも捨てがたいけど、ハンモックと無人島ってすごくお似合いでしょ?


「トブーンの座席に敷いているクッション、あれを大きくしてベッド代わりにしてたことがあったじゃないか」


ええまあ。

それはありますけど。


「でも、ベッドじゃひねりがないから別のことしてみたいかなって」


「ひねる必要がどこにある?」


それは……、ないけどさ。

でも、せっかく無人島に来てるんだし、非日常的なことをしてみたいじゃない?


「チェリーナ、こんなことで議論するよりも、早く木を確かめに行こうよ。僕はクリス様の案の方がいいと思うよ」


「俺も2人に賛成だな」


ええー、3対1?

女の子1人じゃ不利だよ!


「分かりましたよ。ーーあ、そうだわ! 防水の丈夫な布を出してテントを作れば、雨が降っても大丈夫じゃない?」


何か一つくらいは私のアイデアも採用してもらわないと!


ええと、まずは撥水加工のテント生地を出して。

どういうテントがいいか分からないから、生地を一巻き出して、ハサミでカットして自由に使ってもらおうかな。

ロープもあるし、たぶん手先の器用な誰かが何とかするだろう。


それから、ベッドマットはあんまり分厚いものよりも、木と木の間に敷くなら薄手でコンパクトな方がよさそうだな。


「ーーポチッとな! こっちの緑色の生地はテント用に使ってね。水をはじくから、屋根としてはもちろん、地面に敷いても大丈夫よ。適当に切って使ってちょうだい。こっちの茶色い敷物はベッドマットよ。寝るときはこれを敷いてね」


「ほんとうに、なにからなにまでー。火の女神様ー、ありがとうございますー」


あ、さっきのおばあさんも無人島組だったんだ?


いいのいいの。

みんなが無事で本当によかったよ。


「いいのよ! それじゃ、私たちはちょっと行ってくるから、みんなで寝床の準備をしていてね!」


見守っててあげられないけど、自力でがんばって!


「承知しましたー」

「ありがとうございますー」

「お気をつけてー」


ああ、気が抜ける……!

ただの方言なのは分かっているけど、故郷の島から命からがら逃げてきたとは思えないほどのんきに聞こえるよ。






「さっ、行きましょ、マーニ! マーニ?」


私はマーニを探してきょろきょろと辺りを見回した。


「マーニなら帰ったんじゃないかな? チェリーナたちが着いたらパッと消えちゃったよ?」


そうなの!?

帰るなら帰るって言ってくれればいいのにー。


でも、だいぶ急いでたみたいだったからな。

ここまで案内してくれただけでも御の字だね。


「仕方がないわ。私たちだけで行きましょう。大丈夫よ、場所はなんとなく分かるから!」


まずは川を渡ってと。


「裸足にならないとな」


「クリス様、気を付けてください」


箱入りお坊ちゃまには川渡りは難関だろうけど、ここは渡るしか選択肢がないから。


「ああ」


「さあ、行きますよー!」


私は脱いだ靴下を靴の中に押し込むと、片手に靴を持ち、片手でスカートの裾をたくし上げた。


ーーザバッ……。


川の中に一歩足を踏み入れると、足の裏にぬるりとした感触が伝わってくる。


気のせいかな……。

なんだか……、とてもいやな予感がします……。


「川底が滑るな。チェリーナ、手を……。空いてないか」


「ク、クリス様……。私、いやな予感がします……」


「奇遇だな、俺もだよ……。せめて靴はアイテム袋に仕舞ったほうがよさそうだ。いったん戻ろう」


ジュリオとアルフォンソの方を見ても、やっぱり2人とも不安そうな表情を浮かべている。

川幅も狭いし流れも穏やかだと油断してたら、川底がぬるぬるだったとは……。


これは無理して進んだら絶対流されるやつだよね。


(あそこにあるロープを俺に寄越せ)


「マーニ!」


いたんだ?


(マルティーノがこの川で滑って怪我をしたのを思い出してな。引き返してきた)


マーニ……!

さすが私の守護神獣!


マルティーノおじさまはこの島で暮らしていた時に、足をざっくり切ってしまったことが原因で危うく死んでしまうところだった。

だから私たちを心配して戻ってきてくれたんだね。


「ありがとう、マーニ!」


ときどき私のこと忘れてるんじゃないかって疑ってたけど、ちゃんと私のことも守ってくれてるんだな。


(俺がロープを咥えて向こう岸に行ってやるから、お前たちはロープにつかまりながら渡ってこい)


「分かったわ!」


マーニはテント用に出したロープを使おうとしていたみたいだったけど、あれを使っちゃったらボルカノ島民が困るからちょっと待ってね。


「ーーポチッとな! マーニ、お願いね」


私は魔法でロープを一巻き出すと、端を引き出してマーニに渡した。


マーニはそれをパクリと咥えると、水面から顔を出している岩へ器用に飛び移りながら、あっという間に向こう岸へ着地した。

そして、ロープを咥えたまま手近な木の後ろを通り抜け、私たちのいるところへトットッと軽い足取りで戻って来る。


(こっちの端をどこかの木に結べ)


「分かったわ! ありがとう、マー……うっ」


よ、よだれが……。

ロープにたっぷりと染み込んでいます……。


(仕方がないだろ。文句を言うな)


いえ、文句は言ってません。

ただ心の中で思っただけで。


「ジュリオ様! このロープをその辺の木に結んでいただけないでしょうか?」


別によだれがどうとかじゃなくてさ、ほら、男の人の方が力が強いから。

緩く結んでほどけちゃマズイっしょー。


「ああ、分かった」


ジュリオは二つ返事でロープを受け取ると、じっとり湿っていることなど気にする様子もなく、手早く木に括り付けていく。

うん、細かいことを気にしないのはいいことだ!


「ありがとうございます」


(それじゃ俺は今度こそ帰るからな。つまらないことで呼ぶんじゃないぞ)


へいへい。

分かってますよ。


私に手厳しいマーニにしては、今日はいろいろとよく手伝ってくれたものだよ。

感謝しないとな。


「ありがとう、マーニ。ジョアン侯爵家のみんなにもよろしくね」


言葉は通じないと思うけど、ジェスチャーでよろしくしといて。


(……ふん。じゃあな)


マーニは嫌そうに目を細めながらも、文句を言うことなく帰って行った。

あの、ジェスチャーは冗談だから、本当にやらなくていいからね!?





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