第79話 思わぬ大発見
(お前ら……、さっさと歩け! 俺は忙しいんだ!)
はッ、そうだった!
思わず足が止まってたよ!
「ごめんごめん。みんなー、遅れずに付いて来てねー!」
私はへらっと笑って誤魔化し、何事もなかったように歩き出した。
(みんなじゃなくて、お前が足止めしてたんだろうが)
え、そうだっけ?
それはそうとさ。
「マーニ、水場までどれくらいかかるの? 10年前に来たときは、マルティーノおじさまの小屋まで1時間くらいは歩いた気がするんだけど。そこからさらに歩いたところだったでしょう?」
(そんなにかからない。マルティーノの足で浜辺から水場まで10分くらいだったぞ)
え、身長2メートル越えのマルティーノおじさまを基準にされても……。
こっちは子どももいるから。
「マルティーノおじさまで10分なら、子どもだと倍はかかるでしょうね」
(そうかもな。もう少しペースをあげよう)
えっ、そんなに急いでまでジョアン侯爵家に帰りたいの?
私の靴はジャングル歩きに適してないから、できればゆっくり歩いてほしいんだけど……。
そんなささやかな願いもむなしく、マーニはさっさと歩くスピードを上げてしまう。
私は先を歩くマーニを見失わないよう、必死に後を追った。
「ーーはあはあはあ……。ふうふうふう……」
「大丈夫か、チェリーナ」
始めの頃こそ軽快な足取りで進んでいた私だったけど、いつの間にか一人二人と追い抜かされ、ついには最後尾になってしまった。
子どもにも抜かされるっていったい……。
靴だ……、靴のせいだ……。
「ク、クリス様……。私はもうダメです、私のことは置いてクリス様は先に……」
こんな不甲斐ない私じゃ、足手まといでしょうから……。
「そうか。じゃあ、先に行くな」
えッ!?
クリス様って先に行ってくださいって言われると、ほんとに行っちゃうタイプなん!?
「クリス様……!」
待って、待ってください!
「くくっ、行くわけないだろ。ほら、引っ張ってやるから手を貸せ」
クリス様は笑いを噛み殺しながら振り返ると、私の方へ手を差し出した。
なんだあ、からかっただけ?
もうー、ほんとに先に行っちゃうのかと思って焦ったよ。
「はい……。すみません、私の靴のせいで」
「靴のせいじゃなくても、もともと歩くの遅いだろ」
そうかなあ?
お嬢様基準では、割とスタンダードだと思うけどな。
まあ、普段はトブーンやバルーンに乗ってるし、あんまり長時間歩く機会がないから多少は遅いかもしれないね。
「はあはあ……、まだかしら……」
「もうちょっとだから、がんばれ」
もうちょっとかどうか知らないくせに適当なんだから……。
時間的にはもうそろそろ着いてもいい頃かもしれないけどさ。
チラッとでも水場が見えたら気分も変わるんだけど……。
左右に首を伸ばして辺りを見てみると、私の視界の片隅に色鮮やかな何かが映り込んだ。
「ーーあ、あれはッ!」
一瞬スルーしかけたものの、なんとなく気になって二度見してみたら……!
「どうしたんだよ?」
「もしかして、もしかして……!」
あの黄色いラグビーボールみたいな形の物体は!
まさしく私が探し求めていたものじゃないですか!?
確かめたい!
「あっ、待て! どこに行くんだよ!」
どうしても間近で見てみたい私は、制止するクリス様の声を背にダッと駆け出した。
「ちょっと確かめてきます!」
あれが私の思っているものなら、わざわざ遠くまで探検に行く必要はなくなる。
まさか来たことのある場所に探し物があるなんて!
灯台下暗しとはこのことだね!
「うおっ!? わああッ!」
浮かれていた私は、踏みしめた背の高い雑草にズルッと足を滑らせてしまった。
「おととととッ! うわ、あぶっ、あぶないっ!」
す、滑りやすい!
両手を伸ばして何とかバランスを取ろうとするものの、足元の草にどうしても足を取られてしまう。
「チェリーナ!」
ーーパシッ!
クリス様は頼りなく宙を切る私の片手を掴むと、グイッと自分の方へ引き寄せてくれた。
「あぶ、あぶ、あぶ……っ!」
抱きとめられた今でも、心臓がバクバクと激しく脈打っている。
危うくすっ転ぶところだった……。
「大丈夫か? 急に走ったら危ないだろ」
「は、はい……」
(馬鹿め……。こんなところで足を滑らせたら崖から落ちるぞ)
崖……!?
ここって崖の近くだったの?
草がぼうぼうで崖の存在にまったく気づいてなかった。
マーニ、近くにいたならもっと早く教えてほしかったよ……。
(いま来たところだ。気が付いたらお前がいなくなってたから、迎えに来てやったんだよ。お前が連れてきた連中を水場へ案内してやったぞ)
「ありがとう、マーニ……。ところで、あそこに見えるあの木なんだけど! あの木を近くで見たいのよ。どうやって行けばいいかしら?」
私は目当ての木を指さしてマーニにアピールした。
ほら、あれだよ、あれ!
見えなかったら抱っこしようか?
(あれは川の向こうだな。お前が行くなら、いったん水場に出て、川を渡って向こう側に行くしかないんじゃないか?)
そ、そうですか……。
橋はどこかにかかってたりしないよね……、無人島だもんね……。
トブーンも無理だよね……、ジャングルだもんね……。
「なんであの木を見たいんだよ?」
「ここからだとちょっと距離があるので確かではありませんが、私が探していたカカオの木に似ている気がするんです」
探し物が意外と近場にあったことに、クリス様も驚いて目を丸くした。
「あれがそうなのか? こんなところにあったなんて」
私も意外でした。
「たぶんあれです。あんな風に大きな実が鈴なりになる植物はそう多くはないと思いますので」
ラグビーボール状の実が枝と言わず、幹と言わず、そこかしこに生る木なんてそうそうないよね。
いや、パパイヤもあんな形だったっけ……?
ここからちょっと距離があるから、実のサイズ感がいまいち不明だな。
「よし、確かめてみよう」
ザッと足を踏み出すクリス様を、私は慌てて止めた。
「あッ、クリス様! この先は崖になっているとマーニが言っています。私たち、危うく崖から滑り落ちるところだったんですって」
「が、崖……!? そうなのか」
草ぼうぼうの先には地面がないとか……。
そりゃビックリするよね。
「いったん水場へ出れば、川を渡って向こう岸へ行けるそうです」
「そうか。それならそうしよう」
(行くぞ。しっかり付いて来いよ? もう探しに来てやらないからな)
承知しました……。
マーニ様、案内をよろしくお願いします。
そして私たちは、今度こそマーニを見失わないよう慎重に足を進めた。
「あっ、いたいた! どこに行ってたんだ?」
「まったくもう……。心配させないでほしいな」
クリス様と私の姿が見えなくなったせいで、みんなに心配をかけてしまったようだ。
「ごめんなさいね。実は、ここに来る途中で大発見をしたの」
「大発見?」
「そうなの。私たちの旅の目的だったカカオの木を見つけたのよ。……といっても、近くで見たわけじゃないから、まだ確かではないんだけど」
私はカカオの木らしきものが見つかったことを、ジュリオとアルフォンソに報告した。
「へえ。わざわざ遠くまで行かずに済んでよかったじゃないか。ここならアゴスト伯爵領のすぐ近くだ」
ジュリオの言う通り、本当にここでカカオの木が見つかれば大助かりだ。
「そうよね。早く確かめに行きましょう!」
あの木がカカオの木なら、私たちがボルカノ島民に仕事を用意することも出来る。
無一文の島民にとって、貴重な現金収入になるだろう。
なんだか、何もかもすべてが上手くいく予感がするな!




