第76話 受け入れ問題
「おーい、話を聞いてくれ! 俺の名はジュリオ・アゴスト。フォルトゥーナ王国アゴスト伯爵家の者だ!」
ジュリオが、中型船の甲板に立つ人物に向かって大声で名乗りを上げた。
「アゴスト伯爵家の……!? これは失礼しましたー。たくさんの船がー、向かってくるのが見えましたのでー、攻撃されはしないかと警戒していたのですー」
こちらの身元が判明したことで、相手の船の責任者は目に見えてホッとしている。
アゴスト伯爵家の名前が通じて助かった……!
普段どれくらいの船が行き来しているのか分からないけど、アポなしでこんなに来られたらそりゃビックリするよね。
ましてや、バルーンなんて初めて目にしたんだろうし。
「船に乗っているのはボルカノ島民だ。山が火を噴いて大変なことになったから、逃げてきたところなんだよ。とにかく、いったん上陸させてくれないか? 話はそこでゆっくりしよう」
「山火事が起こったのですかー? 承知いたしましたー!」
山火事じゃないけど、この距離じゃ込み入った話がしにくいよ。
それに、できれば避難民を受け入れる権限のある人と直接話をさせてもらった方が手っ取り早い。
私たちは、中型船が方向転換するのを待って、港へ向けて移動を再開した。
「ジュリオ・アゴスト様。ようこそペリコローソ島へー。私はディディエと申しますー」
ディディエと名乗った髭面のおじさんは、最初のドスのきいた声とは打って変わって、バルーンから降りる私たちを友好的な態度で出迎えてくれた。
この島ではアゴスト伯爵家の名は絶大な効果があるようだ。
「突然驚かせて悪かったな。早速なんだが、ボルカノ島民のことで話し合いたい。誰と話をするのが適切かな?」
おそらく、ディディエは湾岸警備隊的な組織の隊長クラスだと思われ、避難民受け入れの権限はないだろう。
「それならー、王様とお話していただければー。いま使いの者を向かわせますので、少々お待ちくださいー」
え?
王様ってそんな気軽に話せるの?
というか、この島って王国だったんだね!?
この大きさの島が、よく他国の配下に下らなかったものだ。
たぶん、私たちの住む大陸目線では、行き来が容易ではない島を自国の領に加えるメリットがなかったんだろうけど。
「ああ、頼むよ。待っている間、ボルカノ島民を休ませてあげられないかな? 着の身着のまま逃げて来て、疲れているだろうから」
そうだよね……、疲れているのはもちろんだし、怖い思いをしたばかりだ。
少しでも気が紛れるように、飲み物と軽食でも出してあげよう。
「はい。しばらくの間でしたら問題はないかとー。おおい、誰かー! 船を誘導してやってくれー!」
「はーい! おまかせくださいー!」
10代半ば位の小柄な少年が元気よく手を上げた。
……小柄な少年というか、気が付いたらみんな小柄じゃない!?
大人の男の人でも私より小さいような。
右を見ても左を見ても、私よりみんな小さい……!
「アゴスト伯爵家のみなさんー、こんにちはー。私がペリペリーコ・ペリコローソ13世ですー」
ペリペリ……?
え、それ本名ですか?
「王様ー、ずいぶん早かったですねー?」
お、王様!?
「ああ、ちょうど港へ来るところだったのさー」
のんびりした口調でそう話すおじさんは、とても王様には見えない風貌だ。
背が低くて小太りの、日に焼けた人のよさそうなおじさんとしか……。
「はー、それにしても、フォルトゥーナ王国のお人は大きいと聞いてましたがー、まさか女の子まで大きいとはねえー。食べ物が違うのかねー」
「ほほほ……」
また大女って言われたよ……、これでも家族の中では小さい方です……。
この調子じゃ、この辺りの人たちがお父様を見たら、あまりのサイズ感に本気で神が降臨したと思うかもしれない。
「ところで、この大きい風船……? これが噂の空を飛ぶ乗り物ですかねー? いやあ、魔法使いのいる国はすごいものだなあー」
噂になってたの?
トブーンの方はずいぶん前からポルトの町の人達も目撃してるから、結構話題になってたのかもしれないね。
「はは、こちらまで噂が届いていましたか。それはそうと、ボルカノ島民の話をさせていただいても?」
バルーンをしげしげと見つめ、今にも乗ってみたいと言い出しそうな王様に、ジュリオはサクッと話題を変えて避難民の件を切り出した。
「はい、なんでしょうかー?」
「実は、ボルカノ島で大規模な災害があり、人が住めない状態になってしまったのです。私たちはたまたま通りかかったのですが、そのままにもしておけず、こうしてこの島まで連れてきました。こちらのペリコローソ島で、避難民を受け入れていただくことは可能でしょうか?」
王様は災害のことを聞くと、表情を一変させて難しい顔をした。
そして腕を組んで、うーんと唸り出してしまった。
「困りましたなあー……。毎年何人かのボルカノ島民が移住してくるのは受け入れていましたがー……、さすがに、一度にこの人数ではー……」
人数か……。
避難民はパッと見でも100人以上いるように見える。
しかも全員が無一文なのだ。
そう大きくはないこの島にとって、財政的にかなりの負担になるだろう。
「どうする……? 何人かずつ、俺たちの領やアゴスト伯爵領で受け入れることも出来ると思うが」
クリス様がそう提案すると、話し合いの様子を見守っていたボルカノ島民からヒュッと息を呑む音が聞こえてきた。
「大国に連れて行かれる……?」
「こわい、こわい……!」
「ううっ、ううう……」
フォルトゥーナ王国をどんなところだと思っているのか、みんな恐ろしそうにブルブルと震え出してしまった。
「みなさん、僕たちの国はとてもいいところですよ? この辺りよりはたいぶ寒いとは思いますが、慣れればーー」
「さ、さむい!?」
「寒いところは死んでしまう!」
「海に長いこと浸かっていると、体が冷えて死んでしまうんだ!」
アルフォンソの言った”寒い”という言葉が、余計にボルカノ島民の恐怖心を煽ってしまったようだ。
そりゃ南国育ちの人にとっては寒いでしょうけど、死ぬほどの寒さでもないんだけどな。
どう説明すれば分かってもらえるのか……。
「困ったな」
「困りましたね」
クリス様とアルフォンソも、困り果てて王様と同じ腕組ポーズになってしまった。
かくいう私も心から困っています……。
「この中にー、すでにペリコローソ島に親族が移住してる者はおりますかなー?」
「娘がこちらの島へ嫁いでおりますー」
「次男一家が移り住みましたー」
王様の問いかけに、何人かのボルカノ島民が手を上げた。
25人~30人といったところか。
「ふむ。それではー、頼るあてがある者についてはこの島で受け入れましょうー」
それじゃ、頼るあてがない人は……。
80人位の人が、路頭に迷うどころか、海上に迷うの!?
どうしよう、とても放っておけないよ。
「うーん、うーん、ううーーーん……」
この島では受け入れてもらえないし、かと言って本人たちがあれほどフォルトゥーナ王国に行くことを嫌がっているとなると……。
「どこか別の島へ連れて行く……?」
私たちが目指している南の島へ行ってみる?
だけど、仕事で付き合いのあるペリコローソ島とは違って、南の島でアゴスト伯爵家の名前が通用するとは思えない。
この島でさえ、これほど受け入れが難航しているというのに、遠い南の島へ連れて行って受け入れてもらえる保証なんてどこにもないのだ。
何かいい考えはないものか……。
なにか……、なにか……。
「あーっ、そうだッ!」




