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第69話 南の島を目指して


「チェリーナ、南の島のことだけどね」


王都まで国王陛下一行を送り届けたその日の夜、アメティースタ公爵領へとんぼ返りして来たアルフォンソが唐突に切り出した。


え、リビングに入って来て、開口一番それ?


「いきなりどうしたの? とりあえず、おかえりなさい」


「ただいま」


クリス様は苦笑しながら私に返事をした。


「ただいま、チェリーナ。それで南の島のことだけど、僕も一緒に行こうと思ってるんだ」


なんでみんなそうやって勝手に決めるかな!?


「でも、アルフォンソは仕事が忙しいでしょ?」


「それは忙しいけどね。キキは少しおしゃべりなところが玉に瑕だけど、仕事はよく出来るんだ。だから、僕の留守中の対応はキキに任せることにするよ。もし緊急の用件があれば、ラヴィエータの通信機で僕に連絡をくれれば何とかなると思う」


へえー、やっぱりアルベルティーニ商会の子どもはみんな優秀って噂は本当なんだねぇ。


「あら、そうなの。仕事に差し支えがないなら私は別に構わないわよ。でもどうして南の島に興味を持ったの?」


「それはもちろん、そこに新しい商売の種がゴロゴロ転がってると踏んだからさ。アイテム袋があれば、元手が許す限り大量に買い付けしてくることも可能だしね」


ふーむ、南の島で仕入れたものをこっちで売りさばいて大儲けしようと。

しかもクリス様と一緒なら、お金が足りなくて買えなかったなんてことになるわけないし。


アルフォンソって、とてつもなく商魂たくましいよね!?

ほんとちゃっかりしてるよ。


「俺も賛成だな。アルフォンソがいればいろいろと助かるんじゃないかと思ってるんだ。俺たちは品物の買い付けなんかしたことがないし、法外な値段で売りつけられたとしても気付けないだろ?」


なるほどー、言われてみれば納得です!

私は割と庶民的な金銭感覚はある方だけど、でもやっぱりプロであるアルフォンソにはかなわないもんね。


それにガブリエルと違っていちいち私を苛立たせるようなこともないし、旅の同行者として何の不満もないよ。


「わかりました。それじゃ、アルフォンソも一緒に行きましょう」


「どうせならジュリオも誘ってみるか? そう毎回俺たちが飛んで行くわけにはいかないし、今後は船便で仕入れるとしたらポルトの町を経由することになるだろうから」


ジュリオも誘うんだ。

私は別にどっちでもいいけど、ルイーザが反対してたんじゃなかったっけ?


「でもルイーザが……」


「ああ、あれな。あれはガブリエルを諦めさせるために言ったことだろ。ポルトの町からなら、ほんの2~3日の旅だろうし、本気で反対してたとは思えないけどな」


えっ、ガブリエルを諦めさせるために一芝居打ってくれてたの!?


すごいよルイーザ。

わがままガブリエルを手玉に取るとは……、その技、いつか私も習得したいものです。






そして数日後、ルイーザから南の島の所在地について連絡を受けた私たちは、ひとまずポルトの町を目指して出発することになった。


「クリス様、アルフォンソ、それじゃそろそろ出発しましょう! カーラ、留守をお願いね」


「皆さま、どうかお気を付けて。奥様、くれぐれも危険なことはーー」


心配顔のカーラが、またも細かい注意事項を口にしそうになる。


もう何度も聞いたよ!

また言われる前にさっさと飛んでしまおう!


「わかってるわ。それじゃあねー!」


ふうー、なんとか切り抜けた。

朝からお小言なんて面倒くさいよ。


「とりあえず今日は、ポルトの町で一泊だな」


ポルトの町に行くなら、忘れずに大海老の串焼きを大人買いしておかないと。

それにホタテも必要だ。


「そうですね。あっ、そうだ! マルティーノおじさまが遭難した時に暮らしてた無人島は、ポルトの町から1時間くらいですよ。今夜はその島で一泊してもいいかもしれません」


「ちょっと、チェリーナ……。いきなり無人島なんて」


アルフォンソがドン引きした顔で私を見る。


え、なんで引いてるのかな?

あの島には懐かしい思い出があるし、10年ぶりにちょっと見てみたいんだけど。


「俺たちの目指す南の島がどこにあるのか、具体的に分かったわけじゃないんだぞ? アゴスト伯爵が海図を見せてくれるそうだし、詳しい話をきちんと聞いてから出発した方がいい」


そうでした……。

実はまだ場所の特定には至ってないんだよね。


アゴスト伯爵が町の商人を呼んで聞いてくれたらしいんだけど、残念ながらその商人も詳しい場所までは分からなかったんだって。

それでも、大体このあたりじゃないかと当たりを付けてくれたので、その情報を頼りに南の島を探すことにしたのだ。


「わかりました。それじゃ、そうしましょう。あっ、帰りに無人島で一泊しますか?」


「いや、したくないって……。どうせ泊まるなら人の住む島がいいよ。無人島なんて何もないでしょ……」


そんなことないよ?

スッゴイ大発見があるかもしれないし。


「アルフォンソったら冒険心がないわねぇ。マーニとだって、無人島で出会ったんじゃないの。どんなことが起こるか分からない未開の島なんてワクワクするでしょう?」


まさかあの白いモフモフが神獣とは思わなかったよねえ。

モフモフ過ぎて、何の動物かさえ判別不能だったくらいだ。


「まあ、それも一理あるのは認めるよ。だけど、今回の旅の最重要事項は、南の島を見つけることだって忘れてないよね? チェリーナが何か思いつくたびに寄り道してたら、本来の目的を見失ってしまいそうだよ」


うっ……、だ、大丈夫だよ、目的は私もちゃんと分かってるし。


……でも、何かに目移りして最初の目的を忘れちゃうって……、言われてみれば今までにも結構やっちゃってたかもしれない。

そこを突かれると、ちょっと反論しにくいな……。


「こんなことなら、前もって旅のしおりを作ればよかったわ」


それなら、決められたスケジュールに沿って行動すれば、目的をすべて達成できたのに。


「旅のしおりって何?」


「何日の何時にどういう行動をして、どこで食事をして、どこに泊まるかということをあらかじめ決めて紙に書いておくのよ。そうすれば、当日になって慌てなくても済むし、やりたかったことを忘れないでしょ? 時間の節約にもなるわ」


「へえー、旅のしおりか。面白いね。観光客を集めるのにも役立つかもしれないな」


こっちの世界じゃ、旅はフリープランしかないもんね。

あらかじめ予定が決まっている観光ツアーは元々存在しないのだ。


そこをビジネスチャンスと見て、飛行機代わりにバルーンの送迎を付けることや、魔の森への日帰りオプショナルツアーを考えていたけど、”大人気! バルーンで行くアメティースタ公爵領7泊8日 ~ロマンあふれる魅惑の辺境の地を満喫する旅~”みたいな、予定がきっちり組み込まれたプランは考えていなかった。


「しかしチェリーナはよくいろんなことを思いつくよな。感心するよ」


もっと褒められればもっと思いつくかもしれません!


「うふふー」


「クリス様、あんまり褒めないでください。まったく土地勘のないところで突拍子もない行動に出られたら、困るのは僕たちですよ」


アルフォンソ!?

いつ私が突拍子もない行動なんてしたのよ!?


「ひどいわ、アルフォンソ! 私はいたって常識人のつもりです!」


「常識人のつもり……。自己評価と他者評価は、必ずしも一致するとは限らないってことだね」


「アルフォンソ! そんなお兄様みたいな言い方は止めてよ!」


皮肉たっぷりな言い方がお兄様っぽいー!


私は褒められて伸びるタイプなんだからね。

長所を伸ばすべく、もっと言い方に気を使ってほしいな!





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