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星空の海辺に  作者: あおい
07
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07-1

■07■


 陽成が小さい頃、何度も連れて来た巳央の好きな景色が広がる。


 近くに小川が流れ、草原に風が吹き抜ける。

 水色の空には純白の雲が漂い、木陰に入ると明るい陽射しから逃げられる。

 少し先には果実を付けた広葉樹林が広がり、それをついばむ鳥達の鳴き声が風に乗って流れてゆく。


 黒い着物を着流した黒髪の男が、木陰で膝を抱える巳央を見つける。

 静かに近寄り「横、いいですか」と囁いた。

 巳央は「好きにすれば」とだけ答える。


「拗ねてるんですか」


「……別に」


「向こうの〈土地の精霊〉にまで心配かけたんですって? 子供はいつか、巣立つものです」


「そんなのどうでもいい。あいつ、仮面とか抜かしやがった」


 巳央が陽成に仮面をかぶせたのだ、と。


「あぁ……まぁ、精神が脱皮する時にそう錯覚する事もあるでしょ。どこかの子供も、自分に仮面をかぶせたのは親だとか考えていますよ。よくある事です」


「お前はさ、あの時の陽成の顔を見てないから、そんな風に俺を慰められるんだ」


「どんな目をしてたんですって?」


 冴え冴えとした、冷たくて気の強そうな目つきだった。


 あれだけの変化にクライドが気付かなかったのが信じられない。

 出会って間もなかったとは言え、あまりの豹変ぶりに少しくらい気付いても良さそうなものなのに。


 ――まぁあいつ、国のコトで頭がいっぱいだったろーしな。


「あなたの気が済むまで落ち込ませてあげますよ。落ち込むのにウンザリしてから、戻って来てくださいね。中途半端な状態で戻られても迷惑なだけですから」


 なんて薄情な。いや、ドライ過ぎる。

 言ってる事は分かるけど、少しくらい優しくしてくれてもいいだろうに。


「泣いてもいいんですよ? あなたなど人間で言えば、まだ幼稚園児くらいなのですから」


「泣かねーよ。バッカじゃね」



 あの城で。

 クライドが姫君の元に去った後、陽成は言った。


 自分はあの家に、あの場所に生まれて当然だったのだと。

 巳央達の影響を受けて当然だったのだと。


 でなければ、あんな場所に生まれる必然は無かったのだと。


 だから巳央が陽成に対し、負い目を感じる必要など微塵も無いのだと――言ってくれた。


『本当に、巳央には感謝している』


『あの仮面があったから、こうやって生きて来れた』


『これから自由に生きるために、今日まで〈陽成の仮面〉は大人しいフリをして、周囲を観察して来た』


『周囲を。世間を。世の中を』


『さぁ、これからは好きに生きるんだ。ボクはボク。湯山陽成』


『〈陰の気〉に導かれ、ボクはこの世に生まれて来た』


『巳央の居る場所に生まれたのは、運命だったんだから』


『ボク達は運命に導かれて出会ったんだね』


『何より誰より大切な、大好きな、何物にも代え難い、ボクの運命の友達――』


『それが巳央』



 あの城に入る時。

 通用口の取っ手を握った時、イヤな予感は走ったのだ。


 その正体が、この結末である。


 それを回避出来なかっただなんて、自分もまだまだ未熟である。

 確かに自分など、幼稚園児レベルで間違い無いのかも知れない。


 ――いや。回避する必要なんて無かったんだ。これでいいんだ。


 彼はやっと、本当の自分に戻れたのだから。

 本当の、本性の〈湯山陽成〉に――。

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