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星空の海辺に  作者: あおい
06
18/23

06-1

「それは……無理だ」


 男は言った。


「なぜだ? 俺達と一緒に居ると言う事は、監視がラクだってコトだぞ」


「そう言う事ではない。城は立ち入り禁止だ。何人たりとも入ってはならない。それが例え王族の関係者であったとしてもだ」


「へぇ? ナニがあった?」


 数秒の間の後、彼は静かに言った。


「――怪異」と。



 男――クライドの話はこうだ。

 城の中には未だに幼き姫君・ウォーレリアが眠っている。


 ウォーレリアとはさっき巳央が文献で見つけた、現国王とされている男のひ孫に当たる姫らしい。

 つまり孫の子供、だ。


 この国の異常事態が認識され始めた初期の頃、武官の子息達が城内の様子を見に行った事があったらしい。

 だが彼らは入城して早々、逃げ出して来たと伝えられている。


 そして叫んだ。

「城の中には化け物が居る!」と。


 次々と大人達が姿を消してゆく中、軍人も官僚も例外ではなかった。

 となると多分、王家の大人達も無事ではいないだろう。


 あの城の中に居残ってしまった、たったひとりの子供。

 それが王女ウォーレリア。当時七歳。



「化け物、とは? なぜ姫君が〈眠っている〉と言い切れる?」


「私が知っているのは伝聞に過ぎない、完全に正確な情報ではない部分もあるだろう。だがそう伝えられているのだ。その後も城の様子を見に行く者達は居たらしい。だが姫君の元に辿り着く前に皆、逃げ帰って来る。帰って来れなかった者は、城内で生命を落としたと聞いている」


 ――どうしてこうなる……?


 小坂の両親が離婚しちゃう! どころではない。

 ここまで来て化け物騒動、だなんて。


「ならやっぱり一緒に来い。伝聞ではなく、その目で確かめろ。そして可能なら、それを解決するべきだ。そうだろう?」


「正体の分からない者達と城に同行など、断る!」


「いいのか? ずうっとこのままで。俺はお前がこの国の将来を憂いている人間に思えた。だからこうやって話もしている。俺達の事を信用出来ないと言うなら、それは仕方の無い事だ。ならそれを逆手に取り、この国にとって〈死なせても困らない余所者〉を利用し、闇を取り払おうくらいの気にはなれないのか? お前達はどこかでケリを着ける必要があると、俺は思うんだがな」


 クライドは巳央を睨みつける。だが反論はしない。


「見取り図は暗記して来た。あの資料が間違っていなければ、俺が迷う事はない」


「だが、私ひとりの一存では……」


「立ち入り禁止って、中に入るヤツを心配して禁止してるだけだろ。なら、誰もお前を強く責めやしないと思うぞ。中に入るヤツが痛い目に遭うってだけなんだからな」


 クライドは俯き、数秒、考え込む様子を見せる。

 そして。


「分かった」と言った。


「だが忠告しておく。お前達が城内の物に手を着けたら、私は躊躇無く斬らせてもらうからな」


 巳央がこちらを向いた。真顔で。


「……俺ら、調度品泥棒に見えるのか?」と呟く。


「さ、さぁ? 僕に聞かれても」


「あのなー、お前。言っとくわ。俺が好きなのは旨そうな動物だし、卵だし、綺麗な水と空気とあいつなの」


 指を、さされた。


 ――そこで僕っ?


 まぁ嫌われてるよりはマシだけど。こんな風に宣言されると、妙な気分だ。


 ――しかも今の順番で、一番最後だし。


「美術品も金貨も王家の財宝も、キョーミ無ぇわ」


 それらと同じカテゴリーに入れられて〈好き〉に分類されたのか。

 なんだかちょっと、不満……。



 一度、クライド自身の武器を取りに彼の自宅らしき場所に立ち寄って、それから城へと向かう。

 あまり人目につきたくない、とクライドが言うので、裏の林の方にある関係者通用門から城の敷地内に入った。


 監視などはされていない。

 あんな噂があるのでは、好き好んで侵入する者など居ないのだろう。


 庭内の植物は生い茂り鬱蒼として、昼間だと言うのに周囲は暗い。

 刺のある植物が蔓を伸ばしている。それに陽成は何度か指や服を引っ掛けた。

 とても歩き難い。


 そして近づいた重厚な石造りの強固な建物は、陽成の通う学校の校舎より何倍も大きかった。

 思わず見上げる。最上部がよく見えない。高過ぎて、頭がクラリとした。


 これが他人を拒絶していると言う城か。


 ――ん? 城に意識があるの?


「で、どこから入るって? 正面玄関じゃないんだろ?」


「関係者が出入りしていた通用口はいくつもある。ここから一番近い所は……確か」


「ならこっちだな」と言う巳央に、陽成は引っ張られる。

 それに付いて来るクライド。


「鍵開いてるのかぁ? 閉まってたらぶち壊すコトになるけど?」


「どうしてすぐ壊すんだよぉ」


「だってメンドクサいもんよ」


 壁に沿ってしばらく歩くと、扉が見えた。


「木製だな。壊せるな」


 巳央が取っ手に手を掛けた。そして、数秒。

 青い瞳が取っ手を見つめる。


 その横顔がピクリ、と微かに動いたのを陽成は見た。

 眉がわずかに、不快そうに反応したのだ。


「どうしたの?」


 陽成は不安になる。


「あ、いや……大丈夫、開いてる」


 巳央が手首を動かすと、扉は外に向かって開いた。


 扉の形にぽっかりと、闇が姿を現す。

 吸い込まれそうな暗さだ。


「懐中電……いや、クライド。キャンドル持ってるか?」


 巳央がそう聞いた時、突然。


 ふ。ふ。ふふふ……ふ。


 壁の燭台照明が突然、灯った。

 ここの扉は通路に通じていたようで、淡い光が奥に向かって灯っている。


「バレてんぞ、俺らの訪問」


「そのようだな」


「誘われてるぅ~。このまま行くけど、クライド」


「なんだ」


「大丈夫か。その剣、使いこなせるのか」


 学校の制服のような物を着ている彼に、確かに不似合いな剣であった。

 その辺の高校生が競技用の物ではなく、真剣を持っているように見える。


「私に不釣り合いな、立派な剣だろう?」


「そうだな。お前の身体には少し、大き過ぎるように見える」


「だがこれは、曾祖父から受け継がれた大切な剣だ。扱える程度には、鍛えているさ」


「その身体をか?」


「この身体を、だ」


「偉いな、お前は。ジィさんも喜んでるだろう」


 クライドは苦笑いを浮かべた。


「あ。ひとつ言っとくわ。お前、俺がどんな姿になってもビビるなよ? それは幻影だから」


 巳央はクライドに、静かに言った。


「どう言う意味だ?」


「俺は幻惑を使って戦うんだ。だから何を見ても怯まず冷静に戦え、ってコト」


 ――嘘つき……。


 小手先の飛び道具が通用しないとなれば、巳央は正体を現して戦うつもりなのだろう。人の姿で出来る事には、限界がある。

 ヘビの化け物を見たクライドに退治されてしまってはたまらない。

 先に釘を刺しておくのは、正しい事だ。


「さ、入るか。陽成、傍を離れるなよ」


 巳央にぎゅっ。と強く手を握られる。

 痛い、とクレームを言いそうになったが、巳央は珍しく本気なのだろうな。


 陽成は自分も、その手を握り返した。

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