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夕陽

 とうに空は茜色を超え、東の空から藍色に染まる頃。彰二は竹刀を肩で軽く叩きながら満足げに言う。

「やればできるじゃねーか。だったら最初っからちゃんとやっとけよ。したらこんなに遅くなること無かっただろ。全くお前はよー」

 宿題をサボろうとしたところを親に見つかり、結局やり終えるまで付きっ切りで監視されたはめになった小学生のような気分なのは、一体どうしてだろうか。

 なんだか釈然としないものを胸に抱きながらも、今の鉄にそれを深く追求する気力はない。


(やっと……、やっと終わった…………)


 最終種目・打ち込み計二千百二十回を終え、本日のノルマを果たした鉄は大の字になって河原に寝転んでいた。厳密には力の入らなくなった手足を投げ出して、その場に倒れていた。

 一番星を見つけて、視界が滲んでくるのはその美しさに胸が動かされたからだけではないだろう。思わず小さく鼻を啜った鉄の目の前に差し出されるいちごミルク。鉄はぎこちない動きでそれを受け取った。

「サンキュ」

 すぐ横に腰を下ろしながら「おう」と相槌を打った鬼教官は、鉄と同じように黄昏の空を見上げた。

「なんか懐かしいな」

「んんー?」

「あの頃もよく夕陽、見たよな」

 彰二の意味する「あの頃」を思い出して鉄は頷いた。

「そうだね」

あの頃。中学二年のあの頃も、二人はこうして夕陽を眺めていたものだった。

「あの頃のお前、突っ張ってたよなー」

「……ウルセー」

 口を尖らて目を逸らせる鉄を彰二がニヒヒと笑う。


 トラブル体質であるがため、不穏な空気やトラブルを持ってきそうな人を避けて生きてきた鉄と、その一方いかにもトラブルを持ってきそうな彰二。その二人が友となったのは、ある放課後の出会いがきっかけだった。


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