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その道のプロ

「つーわけで今日から俺がお前に付いて教えることなった。ビシバシ容赦なく行くから泣き言いわねぇでちゃんとついて来いよ。いいな、小鉄」

「………………は?」

「『は?』じゃねーだろ。お願いしますっ! だろが!」

 竹刀で頭をはたかれそうになって鉄は咄嗟に身を引く。

「なっ! なぁんで彰二がここ(教会)にいんだよっ!?」

「あ? なんでって、それは俺がお前をドが付く素人のグズからちょっとは使い物になるようにするように、って結木神父から直々に頼まれたからに決まってんだろ」

 彰二は竹刀で肩を軽く叩きながら、さも当然とさえ言いたげだ。だがこの状況が当然でないのは鉄である。

「んなこと決まってるか! ってかその前に、お前結木さんと知り合いだったのかよ!? ってぇーか、それ以前にお前ビリーバーだったのかよぉっ!!」

「まぁな」

 そう冷静に応えて彰二は首元のチェーンを指に引っかけた。そしてシャツの中から出てきたのは薔薇が絡まった十字架。

一目で聖教会のシンボルを模したものと分かるそれに鉄は目を剝く。

「今までそんなの着けてたことなんかなかっただろっ」

「ったり前だろ。学校にはアクセは付けてっちゃいけないんだぜ」

「……エェー」


(お前がそれを言うのかよ……)


 何度も担任や学年主任にやたらと丈の短い学ランや、ビビッドすぎるTシャツについて注意されている彰二のご尤もな言葉に鉄はいろんな意味で閉口する。

 彰二は竹刀を鉄の眼先に突きつけた。

「いいか、お前を一か月でセイントとして戦えるようにする」

「はっ!? ぃ、一か月!? 無理だよ、そんなのっ!」

 一か月で素人のグズからカナンレベルにまで達しろと言うのか。そんなの無茶苦茶すぎる。不可能だし、あり得ない。ミッション・インポッシブル過ぎる。焦って噛み付く鉄に彰二は自信たっぷりにニヤリと笑う。

「心配すんな。この俺が付いてやるんだ。お前は死なない程度に死ぬ気で来い。そうすればどうにかなる。前も言っただろ? 俺はな、見る目があるんだ」

江川鉄、久方ぶりに悪友・彰二の目付きに背筋が寒くなるの感じた。


◇◆◇


 「くっ、ぅう……っ」

 プルプルと痙攣する腕。目の前の鉄棒の位置が先ほどからほとんど変わっていない。少なくとも遠ざかっていないのは不幸中の幸いだろうか。鉄は再び歯を食いしばって体を引き寄せる。

 とその時、ビキッと嫌な音が鉄の腕から生じる。鉄はアガァと悲鳴とも呻きとも言えない声を上げ、崩れ落ちた。

「オラ、何休憩してんだ、小鉄?」

 目だけ動かして見上げれば、そこには竹刀を持った彰二の姿。

 鉄は必死に助けを求める。

「あ゛あ゛っ……ぅ、腕が、ぁあ……」

「あ、腕がどうしたんだ?」

 グイッと腕を引っ張られ鉄は堪らずカエルが潰されたような声を出した。彰二は小首を傾げて鉄の腕を掴んだままブンブンと振る。

「おーい、小鉄くーん? 十七歳、童貞街道まっしぐらの江川く――」

「ってぇー! お前それ絶対ワザとだろっ!! フヒッ! っぐあ、ぁぁ……っ」

 いきり立って噛み付いてみたは良いもののその反動は半端が無かった。断末魔を残し、鉄はその場にパタリと倒れる。もう指一本も動かせない。

助けを求める相手を間違った。確実に、だ。鉄は後悔の念を打ちひしがれる。

 考えてみれば当然である。心身ともに文字通りこんなボロ雑巾になっているのは、何を隠そうこの悪友・上村彰二のせいなのだから。


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