表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/82

兄弟 Indutria―英知の番人 4

 あの夜が来たのは、それから数か月後の事だった。

 一人きりとなった兄を想い、ただ顔だけでも見に行けないかと郁磨は思っていたが、相変わらず琢磨に会いに行くことは佳奈にきつく禁じられていた。

 郁磨には分からなかった。なぜ母がそれまでに琢磨に固執するのか。

 郁磨にだってあの時よりは家の事も、結木家の人間関係も分かっていた。

 佳奈は壮磨の愛を独り占めできないことが悔しくて、そして自分の子が妾とその子供に懐くのがおもしろくなくて、静香や時には郁磨にも当っていたのだろう。

 だがもう静香はいない。

 それに、以前からそうであるように結木家の嫡男は自分だ。なのに、佳奈は未だに何かにつけて琢磨に辛く当っているようなのだ。

 郁磨は兄のために小遣いから買った海外の童話を手に取る。


(兄さま……)


 その夜、郁磨は人が寝静まったのを見計らってそろりとベッドを出た。

 今日こそこの本を兄に渡したかった。今日こそ、兄の顔を見たかった。

 忍び足で裏門へと向かう。番犬二匹は正門前で寝ているはずだから、ここから離れに向かえばきっと誰にも気づかれることはない。

 だがダイニングルームの前を通り過ぎようとして、明かりがゆらりと揺らいだのが見えた。郁磨は息を呑んで壁に張り付く。

 すると、すすり泣きが聞こえてきた。


(お化けっ!!)


 悲鳴を上げたいのを必死で堪える郁磨。やがて、すすり泣きは嗚咽に変わった。はっきりとした声が聞こえてきて、郁磨は訝しがった。

「……さい、で……、……い」

 聞き覚えがあるように思えて郁磨は耳を澄ます。それは母・佳奈の声だった。身を潜めてダイニングルームの入り口で聞き耳を立てる。

「あなたが悪いのよ、琢磨。あなたが……、あなたがセイントだからっ!」


――セイント? 兄さまが?


 郁磨は耳を疑った。

 セイントと言えば、世界宗教の一つ、聖教会の象徴であり要。神の御業を成し得る聖人のことではないか。

 結木家は代々聖教会の敬虔な信者であった。物心ついたころから郁磨も教会へ通い、聖書を学び、その教理に適った生活をするよう家族に言われて育ってきた。

 だがおかしい。セイントを家から出すことは大変な名誉なはずだ。末代まで誇れこそはしても、謝罪や悲しみの感情などいらないはず。

 混乱した郁磨は一歩下がろうとしてバランスを崩し、本を落としてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ