血の宴
体育館前。ここに来るまで極力忍び足でやってきたが、その必要はなかったと言える。彰二たちと別れた後も誰一人とすれ違うこともなかったのだ。
体育館には明々と照明がついているのが、館内に人がいるのかはここからは計り知れない。ただやはり異様に静かなだけだった。
「鉄くん」
「どうしたの?」
「一つ、約束してください」
神妙な顔で言うカナンに、鉄は何とも言えない気迫を感じた。
以前もこんなことがあった。確かあれはシンズだと思われていたミサの兄と対決する直前の事だ。
「何があっても……鉄くんはシンズを手にかけないでください」
「手にかけるって……俺たちはミサさん達を助けるためにシンズを捕まえるんだろ?」
「そうです。だから絶対に、何があってもシンズを手にかけないと、約束してくれますね?」
「分かった」
戸惑いながらも答えた鉄を見てカナンは小さく頷き、体育館のドアノブに手を掛ける。
鉄は左胸から剣を取り出し構える。
ゆっくりと開かれてゆくドアから眩しい程の光が漏れ出た。
飛び込んでいった体育館内。
最初に目に飛び込んできたのは館内中央にズラリと並んだ学生たちおよそ二十名。皆一様に虚ろな目で佇んでおり、暗示に掛けられているのが一目で分かる。
「やぁ、来たね」
一人舞台に座っていた風間は鉄たちの姿を認めて立ち上がる。
「やっぱりミサ一人には君たちは荷が重すぎたか。でも時間稼ぎくらいにはなったからね。まぁ、ミサにしては上出来かな」
クククと喉の奥で笑う風間。
それがいやに鉄の神経を逆撫でする。鉄は奥歯を噛んで風間を睨みつけた。
風間はそんな鉄の様子を愉快そうに台上から眺める。
鉄は大きく舌打ちして風間に向かって叫んだ。
「みんなに掛けた暗示を今すぐ解けっ!」
「それはできないよ。全く、今日は聖女の肉で最高の料理が出来るはずだったのに、いろいろ邪魔が入って台無しだ」
肩を竦めた風間が、ニヤリと狂気を宿した目を細める。
「だからね、今日はもう趣向を変えることにしたんだ。いつもはこんなことしないけど、まぁ、仕方ない、よね?」
「何言って――」
「さぁ、血の宴の始まりだ!」
風間が両手を広げると、それに呼応するようにすっと皆が一斉に顔を上げる。
彼らはフラリと互いに向き合い、そして、互いを噛み合いだした。
ある者は相手の手首を、ある者は相手の首筋を、互いに躊躇なく噛み合う。
――まるで互いを捕食しあっているかのように。
光を宿さない瞳のまま、表情なくただ互いを、文字通り貪る。
制服が瞬く間に血に染まり、体育館のワックスのしっかりかかった床に血溜まりが広がってゆく。肉を食い破る音が、生々しく耳に届く。
「な、に……? これは、……これは、何なんだよぉおっ!?」
目の前で繰り広げられる地獄絵図に鉄は嫌悪と恐怖に慄きながらも咆哮した。




