セイント vs セイント
鉄は近くにいた学生の肩を掴み、止めようとする。
「やめろ、やめろよっ!!」
だが彼はその手を振り払い、肉を求めて他学生の元へと向かう。
彼に振り払われた手には血がべっとりと着いていた。鉄は愕然とした。
風間は微笑みながら小首を傾げた。
「何って? だから言ったでしょう。趣向を変えたんだよ。手を加えられないのは残念だけど、みんなお互いの新鮮で若い肉を楽しんでるんじゃないかなぁ? ホラ」
風間の指差す先では数人の学生が一人に覆いかぶさり、その肉を食んでいた。
目の前が白くなってゆく。体が燃えるように熱い。
鉄は小さく呻き、つま先が白くなるほど剣を握り込んだ。見る見るうちに剣が青白い輝きを増す。
「っお前は、絶対に許さないっ!」
「鉄くん、だめですっ!」
カナンの声が体育館内に響いた。だが鉄の目には、耳には、感覚にはもはや風間しか存在しなかった。
(この男は生かしておけない! この男は存在してはいけない――罪人っ!)
鉄は人とは思えない跳躍力で大きく飛んで風間に切りかかる。
驚愕に目を見開き動けないでいる風間。
――捕った。
鉄はやけに冴えた頭で確信した。
だが次の瞬間、同じく青白い光を放つ長槍に阻まれる。大きく火花が散った。
「何っ!?」
大きく髪を靡かせて鉄の前に立ちはだかっていたのはカナンだった。
「なぜだっ! なぜ邪魔をするっ!?」
鉄はカナンを睨みつけた。
カナンは風間を背に鉄と対峙して言い募った。
「鉄くん、約束を思い出してください! この男は許されません! でも殺してしまえばミサさんも、みんなも元には戻りませんっ!」
「黙れっ! 罪人は、シンズは須らく神の名の下に消えるのが条理、それが定めだっ!」
(え……アレ、俺何言ってんだろう?)
鉄は内心訝しがる。だがその手は剣をカナンに向けたままだ。
「そこをどけっ! いくら聖なる力を宿していても、我の前に立てば、――切る」
(き、切るっ!? カナンを?)
自分の口から出た恐ろしく物騒な言葉に鉄は激しく動揺するが、剣は迷うことなくカナンの槍を大きく薙ぎ払っていた。
カナンが体勢を崩して、倒れ込む。
鉄の体は剣の切っ先をカナンに向けた。
(オイっ! マジ何やってんだよ、俺! やめろって!!)
どんなに自分の意思で体を制そうとしても、全く言うことを聞かない。まるで体が乗っ取られてしまったかのように、思う様に指一本動かすことが出来ない。鉄はいよいよ焦る。
(くそっ、一体どうなってんだよ!)
「お願いです、鉄くん! 気をしっかり持ってくださいっ! 剣の力に、飲まれないで――」
「黙れと言っている」
切っ先を喉元に突き付けられ、苦痛の眼差しで鉄を見上げるカナン。
彼女がそれ以上抵抗しないと見て取り、鉄の体は座り込んで恐怖に呆けている風間に向かい合った。
それまで呆けていた風間も我に返り、逃げようとするが背を壁に阻まれ身動きが出来ない。
「終わりだ。これは裁き。お前の罪に対する、復讐」
「太、助けてっ!」
「鉄くん! ダメですっ」
切っ先を風間の首に定めたままゆっくりと引く。
(こうじゃない! こうしたかったんじゃないっ! これは……)
鉄の口元が弧を描いた。
「復讐するは、我にあり」
(こんなのは、正義じゃないっ!!)
勢いよく突き出される剣。声にならない風間の悲鳴。カナンの息を呑む音。
剣が重い音を体育館内に響かせ、次いで風間がズルリと壁伝いに倒れた。
と同時に、館内にいた学生が次々と糸を失くしたマリオネットの様に倒れて行く。
鉄もまた脱力してその場に尻餅を着く。
よろよろと歩み寄ったカナンが風間を見て目を見開き、そして鉄をまじまじと見つめる。
「鉄くん、これは……」
「うん、危なかったけど、なんとか、なった」
弱く笑む鉄。
二人の目線の先には壁に突き刺さったままの剣。血の一滴さえも付いていない、曇りのない正義の剣だった。
最後の最後で、鉄は剣の切っ先を僅かにずらすことが出来る程度に、体の自由を取り戻していたのだ。
「はいっ、そうですね」
そう言ったカナンは涙を滲ませた蒼い瞳を安堵に細めて、鉄に手を差し伸べる。その笑顔はとてもカナンらしい、優しく眩しい笑顔だった。




