体育館へ
勢いよく教室内に入った鉄は暗闇の中キラリと光る何かが襲いかかって来るのを認め、咄嗟に剣で防いだ。キィンと高い金属音が響く。
「チっ! 誰だっ!!」
「その声……もしかして、鉄か!?」
「えぇ?」
聞き覚えのある声に目を丸くして目の前の人物見つめれば暗がりでも分かる、良く見知ったシルエット。
「……彰二?」
「おう、やっぱり小鉄か」
そう言いながら彰二は銀色の釘抜きで自分の肩を軽く叩く。
教室の隅からカチリという音がしてその一角に明かりが灯った。目を眇めて見れば、そこには女生徒が二人、身を寄せてこちらを窺っていた。
鉄は半ば呆然としながら訊ねた。
「彰二、こんなところで何やってんだよ?」
「いろいろあってよー、ってカナンちゃんっ!」
目ざとく鉄の背後にいたカナンを彰二は見つけた。
「上村君、お久しぶりです」
「いやっ、本当にお久しぶりっス! 最近会えなかったから俺、めっちゃ淋しかっ――!」
「シーッ!!」
緊張感鳴くはしゃぎ始めた彰二は鉄始め、その場にいた全員にすかさず窘められ、片手で口を塞ぐ。
再び訪れた緊張と静寂の中で耳を澄ませる一同。
何の物音もしない。足音も聞こえて来ない。
胸を撫で下ろしてから皆に睨まれ、彰二は「悪い」と無言で口を動した。
一つ付いた懐中電灯を中心にして、鉄とカナン、そして彰二も加わり教室の隅で頭を寄せる。
「てーわけなんだよ」
釘抜きで肩を軽く叩きながら事の成り行きを説明した彰二。中腰で座っていることもあり、一見ただのヤンキーだ。
先ほどの事ではないが、彰二の手に釘抜きがあるのは何となく、非常に心安くない。鉄は釘抜きをやんわりと取り上げながら要約する。
「つまり、いきなり他のクラスの生徒に襲われそうになったところを逃げて、今まで隠れてたってこと?」
彰二はウンウンと大きく首を縦に振る。
「俺はお前が出て行った後いつもの場所で睡眠学習してたんだけどさ」
昼寝だろ……。とは、その場にいた、カナンを除く誰もが内心突っ込みながらも口にはしなかった。
彰二は釘抜きに手を伸ばしながら続ける。
「急に悲鳴が聞こえたから下に降りて来れば、いきなりC組の奴らに襲われるだろ? いや、マジびっくりしたわ」
「委員会も終わって下校しようとしてたら急に追いかけられて……。上村君が私たちを助けてくれたんです。上村君がいなかったら今頃私たち……」
女生徒の一人・B組のクラスの田中がそう言うと、同じく永橋も小さく頷いて同意を示す。
「一人だったらなんとかなるけど、やっぱり二人を守りながらだと分が悪い。しかもなんかあいつら目がイっちゃってんだろ? したら丁度釘抜きが落ちてたからさ、ちょっと拝借したわけ」
「いくら身を守るためって、打ち所が悪かったらどうするんだよ」
彰二の手を巧みに避けて鉄は問う。剣があったから良かったものの、あれが無かったら確実に鉄の腕は粉々だっただろう。今は左胸に納まっている剣に感謝である。
だが彰二はあっけらかんと宣言した。
「心配すんな。俺見る目はあるから」
「なんのだよっ! って絶対お前俺だって最初分かってなかっただろ!?」
「誰かは分からなくてもこれを使わなきゃいけない奴か、そうじゃないかくらい分かんだよ。俺ぐらいになるとな、っと」
鉄の手から再び釘抜きを取り戻してニヒヒと笑う。釘抜きが相当気に入ったらしい。
鉄は不満げに鼻を鳴した。
「……意味わかんね」
静かにじゃれ合いだした男子たちを余所にカナンが話を戻した。
「それで襲われた人たちは皆体育館へ連れて行かれたんですね?」
「そうだと思う。さっきも何人か体育館の方に連れて行かれるのが、窓から見えたし」
「なんで体育館なんだろ?」
素朴な鉄の疑問に田中たちは首を横に振るが、カナンは眉を顰めて苦々しく答える。
「恐らく、校内に残っていた生徒を一堂に集めてるんだと思います」
「なんのために?」
「それは……」
カナンは口ごもりそのまま沈黙した。
鉄がその様子を訝しんでいると彰二がポンと鉄の肩を叩く。
「とりあえず分かってんのは、こうしてる暇はないってことだろ。行けよ。田中たちは俺が守る。お前には他にやらなきゃいけないことがあんだろ?」
――やらなければいけないこと。
頭に浮かんだのはミサや彼女の兄、そして立ち尽くした人々の姿。
(そうだ。俺にはやらなきゃいけないことがある)
鉄は拳を握りしめた。
教室を忍び足で出ようとしていた鉄は呼び止められ、振り返る。
「気を付けろよ」
やけに真剣な顔で言われた警告。鉄は大きく頷いた。
「お前もな」
一瞬目を見開いてから不遜とも言える笑みを彰二は浮かべた。
「言ってろ。俺を誰だと思ってんだよ?」
鉄もまた口の端で笑い返すとカナンと共に教室を出て行った。
――体育館へと向かって。




