俺たちの使命
ビュッと風を切る音と風間の息を呑む音が重なる。
「待って!」
突然の制止の声。
剣の刃は風間の首数ミリのところで止まっていた。
鉄は切っ先をぶらせることなくゆっくりと首を傾ける。
そこにいたのは、こめかみから血を流しながら立っていたのはミサだった。
「お願い、その人を殺さないで! ……こんなことお願いできる立場の人間じゃないことは分かってる。でもその人にしか……、その人にしか兄に掛けられた暗示は解けない……」
懇願するミサに動きを止めたままの鉄を見て風間はニヤリとした。
「ミサっ!!」
「え……――」
呼びかけに反射的に風間の瞳を見てしまったミサは急に虚ろな表情となり、おもむろに床に転がったナイフを一本拾い上げた。ふらりと立ち上がり、ナイフを鉄へと向ける。
鉄の背後でクツクツと笑い声が上がった。
「あはははっ! 形勢逆転だよ! さぁ、どうする? ミサが言った通り僕の暗示は僕にしか解けない。僕を殺せばミサも、あの男も死ぬまで暗示にかかったままだ!」
「お前……っ!」
どこまでも非道なやり方に、鉄は唸るように吐き捨てた。
そこへ先ほどとは比べ物にならないほどの速さでミサが切りかかる。
流れる動作でそれを躱し、剣を振り上げようとして鉄は大きく舌打ちした。
「そうそう。ミサはただ僕に操られてるだけなんだ。くれぐれも傷つけたりなんかしないでくれよ」
「待てっ!」
逃げようとする風間を追おうとするがミサに行く手を阻まれてままならない。
「フフ、じゃあね。ミサをよろしく」
そう言って逃げ去って行く風間の背中を鉄は睨みつける。
再び襲いかかってくるナイフを鉄は剣で受け止めた。
「ミサさん、しっかりして。ミサさんは、本当はこんなこと望んでないんだろ!?」
鉄の呼びかけにも、ミサの虚ろな瞳が揺れることはない。ミサは何度払われても、次々に鉄へと襲い掛かってゆく。
(くそっ、これじゃあ……)
鉄は柄を握る手に力を込めた。
「ミサさん、風間は俺が捕まえる。殺すんじゃなく、ちゃんと捕まえて見せる。そうすればお兄さんも元に戻せるはずだろ? 約束するよミサさん、だから……お願いだから、そこをどいてくれっ!」
高い金属音がハラヘリの厨房に響く。鉄の一撃がミサのナイフを薙ぎ払ったのだ。その勢いでミサは床に倒れ込む。
(そのまま起き上がらないでくれ……っ)
鉄は内心懇願しながらミサを見守る。だがそれも空しくミサはムクリと起き上がった。
「ダメかっ」
今の鉄にミサを強行突破するのは難しくはない。しかしミサを傷つけることなくそうすることは、やはり簡単な事ではない。
これでは風間を逃がしてしまう。焦燥感を募ら結木つも再び剣を構える鉄。
と、その時、バチバチと辛うじて残っていた照明が音を立て、次いで鉄の視界にほの青い光が映る。
サラリと揺れる黒髪。青い光を宿した蒼い瞳。
鉄はふっと小さく息を吐いた。
「良かった、――カナン」
気配を感じて振り返ったが、時、既に遅し。
ミサは長槍の柄から繰り出される一撃を浴び、くるりと半回転しながらあっけなく床に崩れ落ちた。
同じ光を放つ槍と剣を手に、対峙する二人。
鉄の手に握られた剣を見つめ、躊躇いがちに口を開いたのはカナンだった。
「……鉄くん、私――」
「行こう、カナン。まだシンズは倒してない」
そう言って鉄は手を差し伸べた。
カナンは虚を突かれたように鉄を見つめる。鉄は緩やかな笑顔を浮かべた。
「シンズを裁くのが、俺たちの使命だろ?」
一瞬目を見張ったカナン。そして迷うことなくその手を取って頷いた。
「っはい!」




