無知な子らは同じ血、同じ肉によってもてなされ、宴を楽しむ
「自分、から……?」
「そうだよ。ミサはね、僕の事が好きなんだ。僕の事が好きだから、僕のやる事に協力したいって言ってくれてね。実のお兄さんまで僕に差し出してくれた。カナンちゃんにやられたあの大男、ミサの実のお兄さんなんだよ」
「なっ、そんなっ……」
「フフ、すごいだろ、彼女の愛って。ミサのお兄さんは元々自衛官で、前々から材料を確保するのに役立ちそうだなーって思ったんだよね。だからお願いしてみたんだ。『君のお兄さんを貸してくれ』ってね。
ミサは一つ返事で答えてくれたよ。まぁ、あの時は僕がお兄さんに暗示をかけてあんなことさせるなんて、夢にも思ってもなかっただろうけどね。分かった途端、お兄さんを元に戻せってうるさかったよ」
当時の様子を思い出して風間は喉の奥で嘲笑う。
「でも知っての通り、もちろん暗示は解かなったよ。あいつは適任だ。いくら暗示が使えても、僕だってやっぱり人目を気にするし、何より僕は調理専門だからさ。材料確保には向いてない。だから、僕は協力すれば、いつかお兄さんを元に戻してあげるよ、って言ってやったんだ」
「ミサさんは自分から協力してたんじゃないじゃないかっ! あんたがそう仕向けたんだろっ!! お兄さんを助けるために、仕方なくっ……」
風間は鼻で笑った。
「はいはい、そうかもね。でも事実は変わらない。ミサは俺のために自分の肉親を差し出して材料を確保させてきたし、僕の仕事も手伝ってきたんだからね」
言葉に詰まった鉄を風間は満足げに見下ろした。と、その時調理台の上のカナンが身じろぎした。
「カナン! カナンっ、起きて――」
「うるさい」
身を乗り出して叫んでいた鉄は、低い声ではなく、目の前に突き付けられたナイフを見て息を詰めた。
風間は先ほどと変わらずカナンの横にいる。だが目の前には鋭いナイフがその切っ先を鉄に向けている。
ナイフは宙に浮いていたのだ。
「そうそう。うるさくしないでくれるかな、まだ聖女様には眠っていてもらった方が都合がいいんだ」
目を見開いて微動だにしない鉄の思考を読み取り、風間は口角を上げた。
「あぁ、これはね、本当につい最近使えるようになった力。僕は物も思い通りに操れるんだよ」
風間がそう言う間にも、棚に収められていた大小さまざまなナイフが独りでに宙に浮き、その刃を鉄に向ける。
すごいだろう、と自慢げに話す風間に鉄は掠れる声で訊ねた。
「カナンを、どうするつもりですか?」
「どうって、僕はシェフだよ。僕の仕事は料理することだよ」
風間は呆れたように息を吐いた。
風間は至極まっとうな事を言っている。それは分かっている。だがこの状況下で彼が言っている事に不穏さしか感じられないのは、どうしてだろうか。鉄の呼吸はいつの間にか浅くなってゆく。
そんな鉄に気付くことなく風間はカナンの髪を一房手に取り鼻を寄せ、息を大きく吸い込む。
「ハァ……ミサは言っていなかったの? カナンちゃんは今夜のメインディッシュだ」
そして風間は恍惚とした表情でカナンの髪に口づけていく。
「カナンちゃんはまだ若い女の子だ。ねぇ、カナンちゃん。君の肉はきっと柔らかいんだろうね。腰の部分はステーキにしよう。焼き過ぎず、ミディアムレアくらいがいい。腿肉はシチューに。そうだ、あばら肉はトマト煮にでもしようか。ずっと前から狙ってたんだ。あぁ、聖女の肉はどんな味はするんだろう? きっと今までになく美味しいものが作れるよ。その辺の子供とは比べられない位にね」
この男は何を、言っているのだろうか。
(カナンを、どうするって……? 子供と比べられない……?)
呆然と鉄は風間の言葉を反芻する。そして自然と頭に浮かんだのは英知の書に示された天啓。
堕ちた罪人が好むのは青い果実。獣に守られた館で、無知な子らは同じ血、同じ肉によってもてなされ、宴を楽しむ。
青い果実はいなくなった子供たちだ。
そして最後まで理解できなかった最後の一説。
無知な子はここに来る客。同じ血、同じ肉は――
「まさ、か……っ」




