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四人目のシンズ――Gula

 頭が痛い。口の中が鉄臭い。不快感に目を醒ました鉄は、未だ朦朧とする意識の中、薄目を開けた。

 痛みを耐えながら頭を上げた鉄はそのまま際限なく目を見開いた。

 目線の先に横たわったカナンの姿を見つけたのだ。

「か、カナンっ!!」

 思わず手を伸ばそうとして鉄は体が動かないことに気付く。

 慌てて見やれば鉄の体は縄で椅子に縛り付けられていた。抜け出そうともがくが、椅子がガタガタと音を立てるだけで縄は一向に緩まない。

「カナン! 目を醒まして! しっかり……、くそっ!」

 舌打ちしながら鉄は辺りを見渡した。

 煌々と明るい照明。銀色で統一されたオーブンや巨大な冷蔵庫。カナンが横たわっているのは良く見れば調理台だ。コンロに掛けられた大きな鍋からは先ほどと同じ、芳ばしい香りが漂う。

「ここ、ハラヘリの……厨房?」

「そうですよ」

 思いがけない肯定の声に鉄は振り返り、息を呑んだ。

 そこにいたのは、カフェ・ハラヘリの店長風間だった。

「久しぶり、江川君」

「風間、さん?」

「うん」

 風間はにっこりと微笑んだ。

 何が起こっているのか把握しきれない鉄は絶句したまま、厨房へと入ってくる風間を目で追う。

 鼻歌さえ歌いだしそうなほど上機嫌な風間。

 鉄は半ば呆然としながらもあることに気が付いた。

 目の前の男は風間だけれど、いつもの風間ではない。爽やかな笑顔は変わっていない。だがどこかが、何かが、決定的に違う。


(目だ……っ)


 違和感の元凶を理解して、違和感は一瞬にして言いようの無い恐怖へと変わった。


――狂気を湛えた瞳。


 鉄は悟った。


(ミサさんじゃなかったんだ。ミサさんも、あの人と同じ。操られてただけだったんだ。風間さんが……)


「シンズ……」

 鉄の呟きに、風間はカナンのいる調理台に軽く体重を預けながら満足そうに笑む。

「そう。僕が――」

 そう言って風間は右腕のシャツを捲った。

「君たちの探しているシンズだ」

 露わになった腕。肘のすぐ上に浮かぶ、刺青のような文字。


――gula


 セイント同様、体のどこかにあるというシンズたるマーク

 これがそうに違いない。鉄は直感した。

 風間が四人目のシンズ。

 風間はマークを指先でなぞる。

「これが現れはじめたのは随分前の事なんだけれどね。刺青をした覚えも、こんなところに火傷をした覚えもない。最初は薄っすらとしか見えなかったし、変だなーって思いつつも気にしないでいたんだ。だけどね、最近になって文字がはっきりし始めた。それに面白い事にも気が付いたんだ。何だと思う?」

 何も答えられないでいる鉄。

 その様子に笑みを深くして風間は続けた。

「人をね、思いのままに操れるようになったんだよ。まだ仕組みはよく分からないんだけど、相手の目を見てある事をするよう念じると、みんなその通りにしてくれる。そう、どんなことでも、ね」

「それであの人を、……ミサさんを操ったんですか?」

「まぁね。あの大男はそうだよ。でもミサは違う。ミサは自分から協力してくれてたんだからね」

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