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ここしかない

「はぁ、……はぁっ」

 鉄は目的の場所の前に、荒い息を抑えるべく大きく一つ深呼吸をした。

 どうして気が付かなかったのだろう。ヒントはあんなにもあったのに。どうして、もっと早くここに辿り着けなかったんだろう。

 鉄は自らを詰り倒したい気持ちを拳に力を込めることで諌める。

 未だにすべてが分かったわけではない。

 だが英知の書に指し示されたシンズの居場所、シンズに操られていた男の言葉、そしてカナンが消えた地点。

 嵌ることはないと思っていたピースが鉄の中でぴったりと嵌った。


(カナンもきっとここに来たはずなんだっ)


――カフェ・ハラヘリ。


 確証はないはずなのに、なぜか鉄には分かっていた。ここしかない。

ドアノブに手を伸ばし、鉄はゆっくりとその扉を開けた。


 極力気を付けていたものの、カランと僅かにドアベルが鳴る。

 ここに来るのはいつも昼間のテータイムの時間帯だからだろうか。クローズした後の、照明の灯されていない人気のない店内は暗く、そしてやけに静かに感じられた。

 しかしながらいつも通り胃袋を刺激する香りが、僅かな光と共に厨房の方から客席へと漏れ出ている。

 足音を忍ばせてカウンターに向かった鉄は息を殺してゆっくりとその奥にある厨房へと近づく。

 とその時、パタパタと足音がした。

 咄嗟の事に身を隠すことも出来ず、鉄はその場で硬直する。

「……っきゃあ! 誰っ!? って、鉄君じゃない!」

「っ、ミサさんっ……」

 ぎこちなく返す鉄を余所に、厨房から現れたミサは思いがけない閉店後の来客が鉄だと分かると目に見えて安堵した。

「んもうっ、びっくりさせないでよ! 誰か間違って入って来ちゃったのかと思ったわよ。どうしたの? こんな時間に。もう今日は閉まっちゃってるんだけど。……ねぇ鉄君、大丈夫? なんだか顔が真っ青よ」

 そう言いながらカウンターから出てきたミサは心配そうに鉄の顔を覗き込む。だが鉄は反射的に一歩後ずさった。

 その様子にミサが目を丸くする。

「鉄君? どうしたの?」

 鉄の喉がゴクリと鳴る。

「……ミサさん……、カナンは、どこですか?」

 ミサは困惑気に小首を傾げた。

「カナンちゃん?」

「ここにいるはずです。……ミサさんが連れ去ったんですよね?」

「連れ去った? どうして私がカナンちゃんを連れ去ったりするの?」

「――それは……、それはミサさんが、四人目のシンズだから……」

 やっとの思いで絞り出せたのはそれだけだった。

するとミサは合点が言ったとまでに「あぁ」と微笑み、肩を竦める。

「そっかぁ、鉄君にもバレちゃってたのね。残念、うまくやってたと思ったのになぁ」


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