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秋空

 キレイなイワシ雲が浮かぶ空。

 慌ただしく部活へと向かうクラスメイトや掃除が始まるまでの束の間をおしゃべりに興じる女の子たち。一日の授業を終えた、にぎやかな教室内。

 午後のホームルームを終えた鉄は机に突っ伏したまま、何をするでもなくただ空を眺めていた。


 あれから一週間が経っていた。

 四人目のシンズと目されていた人物とカナンが対決した日。

 カナンが去った後、どこからともなく結木と同じ礼服を身に着けた男たちが現れた。見るからに聖教会のビリーバーだと分かるその男たちは、シンズに操られていた男を引き取りに来たと短く述べると、未だ茫然自失としている鉄を残して空き地を後にした。

 鉄は酷い倦怠感に項を垂れて帰路に着いた。

 文字通り劇的な一日。

 身体的にも精神的にも限界とまでに憔悴しているはずなのに、その夜はやけに頭が冴えて一睡も叶わなかった。

 明日、どんな顔をしてカナンに会おう。何と、言おう……。一晩中考えても答えが出ぬまま鉄は、次の日目の下に隈を付けて登校した。

 内心びくつきながらガラリと教室のドアを開けた鉄。

 真っ先に目が行ったのはカナンの机だった。そこに彼女が座っていない事を、彼女のカバンが置かれていないことにどこか安堵しながら自分の席に着く。だがそれも一瞬の事、カナンが教室に現れるのを今か今かとドキドキしながら鉄は待ったのだった。

 しかしカナンが学校に来ることはなかった。

 その次の日も、その、次の日も……。

 初日は、あんな出来事の直後なのだ。来なくても仕方がない。体を休めているに違いないと納得できた。良かった、とまで思えた。

 だが、彼女が休む日が続くうち、鉄の胸に言いようの無い焦燥感と一つのセオリーが生れた。


――カナンが来ないのは、俺がいるから? 俺に会いたくないから?


 とんでもない思い上がりだ。まだ傷が痛むのかもしれない。カナンに限って無さそうだが、なんとなく気分が乗らないから学校に来ないだけなのかもしれない。その可能性はないわけではない。鉄は自らを鼻で笑った。

 しかし次の瞬間、もし、万が一にも、億に一にもそうだったら? カナンが自分に向かって見せた儚い笑みを思い出した鉄はそう思わずにはいられなかった。


――だって、カナンを追い詰めたのは、思い出したくもない過去を無理やり話させたのは俺だ。触れられたくない古傷を抉ってしまったのは、この俺なんだ……。


 鉄は息が詰まるほどの自責の念に襲われた。フイと窓から目を逸らし、誰も座っていないカナンの席を横目で見てから机に突っ伏した。僅かに奥歯を噛み、腕の間からまた秋空をぼんやりと眺めた。

 と、その時すぐ近くでドサッという音がした。

 驚いて振り返ると机の上には白いビニール袋。購買のロゴが入っている。そして顔を上げれば茶髪にやや吊り目の友人が前の椅子に豪快に腰をかけるところだった。

「彰二……」

 彰二は鉄には目もくれずにビニール袋の中を漁る。そして取り出したのはいちごミルク。

 乱暴とも言える手つきでストローを差しこみ、勢いよく淡いピンク色の液体を啜る。

 一見近寄りがたい彰二が、近寄りがたいオーラまで放っている。

 いくら飲んでいるものが可愛いからと言って、その雰囲気まで和ませることはできない。鉄はおずおずと聞いてみた。

「彰二……どしたの?」

 黙っていちごミルクを飲む彰二と、とりあえず返答を待つ鉄。

やがてズゾゾゾォーッと音を立てていちごミルクの完飲が知れる。

「あのー、上村君?」

「お前さ、何やってんだよ。小鉄」

「……何、って?」

 だから小は付けるなという通常の返しは無かった。なんだかとてもではないがそう言う空気ではなかったのだ。

 何も言わずにストローを噛んだまま気怠そうに天井を見上げる彰二に、鉄は一思案して答えた。

「キレイな秋晴れだなー、と――」

 すると彰二がすかさずハッと鼻で笑った。

「お前、アレ知ってんのか?」

「アレ?」

首を傾げる鉄を横目で見てから彰二は苛立たしそうに舌打ちして視線を外す。

「――カナンちゃん、やめるらしいぞ」

「……やめる、って?」

 鉄の問いに彰二は急に立ち上がりバンッと机を大きく叩いた。

「ここだよっ! この学校を辞めんだよっ!!」


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