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きっかけ Castitas―純潔の白百合 7

 カナンの口から漏れた言葉が聞こえたのか、スティーヴンは再びカナンに伸し掛かり迫り縋った。

「カナン、私の可愛いカナン! 助けて、助けておくれぇっ。この忌々しい槍を抜いておくれよぅっ!」

 もはや大叔父にも、人間にさえも見えない化け物に乞われるまま、カナンは恐る恐る槍の柄に震える手を伸ばし、触れる。するとカナンはまたあの声を聞いた。

 柄を握ったカナンをシンズ・luxuriaは嬉々として促す。

「そうだよぉ。それでいいんだ。さぁ、この槍を抜いておくれ。さぁ早くぅっ!」

「……あなたは罪を犯してきました」

 静かな呟きに、それまで必死に懇願していたシンズ体がビクリと竦んだ。

「これは罰」

「な、何を言っているんだい、私の可愛いカナン?」

 目に見えて狼狽えるシンズにかまうことなく、カナンは胸に浮かぶ言葉を無心に紡いでゆく。

「悪魔をその身に宿し、シンズへと堕ちた者は……」

「そんなはずが無い! こんな小娘が――」

「神の名の下に消えるのが、定め」

 シンズはカナンの首元にある真紅の首輪に手を掛け、力を込めた。

「黙れ、黙れぇっ! その先を、それ以上言うなぁぁああっ!!」

「復讐するは、我にありっ」

 カナンは握った柄を更に深くシンズの体に突き立て、全身全霊も持って横に引いた。

 確実な手ごたえ。

 肉が裂ける音に次いで真っ白だったシーツが真紅に染まる。と同時にカナンはその白い肌に返り血を浴びた。

 カナンは肩を大きく上下して息をしていた。

「……カナン」

 その声にはっとして顔上げた先には、どんなに血塗られていても分かる優しい笑顔。大叔父、スティーヴン・マジェッツだった。

「スティーヴン、大おじさま……?」

 スティーヴンは首輪に掛けていた手を震わせながらカナンの顔を両手で包んだ。

「すまなかった……。私は、君を、愛していた。許されないと、分かっていたけど止められなかった。その罪な思いが、悪魔を呼んだんだね。私は悪魔に……魅入られてしまって、いたんだねぇ」

 そう言ってスティーヴンは顔を歪めた。その目からは透明の涙が次々に落ちて行く。

「こんなことになって、本当に、すまなかった。カナン、本当に……すまなぃ……」

 彼の目はみるみるうちに光を失い、そして力なく崩れ落ちていった。

 その一部始終をぼんやりと眺めていたカナンは、やがておずおずと大叔父の体に触れてみた。

「大、おじさま……? ねぇ、大叔父様? 起きてください。こんなイヤです、ダメですよ。……こんなのっ! ねぇっ、大叔父様ぁっ!」

 ピクリとも動かなくなったスティーヴンの体を揺すっているうちにカナンの声から嗚咽が漏れる。

「ごめ、なさぃ……、スティーヴン大おじ様、ごめんなさい。本当に、ごめんなさぃっ」

 泣きながら謝り続ける少女カナンの腹部にはこの日からcastitasの聖痕が現れた。


――castitas。神に純潔の資質を認められた者。純潔の白百合。

 その誕生だった。


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