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きっかけ Castitas―純潔の白百合 6

「大叔父様っ! 何をっ」

 その問いには応えず妖しく微笑む大叔父にカナンは彼の意図を知った。

 恐怖に駆られて激しく抵抗するが、小さなカナンの抵抗などいとも簡単に封じられてしまう。

「ぃ、イヤ……っ」

 

(誰かっ……)


 驚愕と恐怖に声を失っているカナンにスティーヴンは掠れる声で囁いた。

「あぁ、長かった。長かったよ、カナン。私はやっと君を手に入れる。この美しい体に私を刻み付けることが出来る。可愛いカナン。――君は、私のものだ」

「――っ!!」


(誰か助けてっ!)


 スティーヴンがゆっくりと覆いかぶさって来る現実から逃避するようにカナンは目瞳をギュッと閉じた。

 とその時、頭の中に穏やかな声が響いた。


『……救いを求めるか?』


 驚いて目を開くと、目の前に迫っているはずの大叔父の姿はなく、カナンは淡い光の中にいた。戸惑いながら辺りを見渡していると再び同じ声が響く。


『救いを求めるか?』


「救い?」

 思わず聞き返したカナンのすぐ近くで肯定を示すように光がそよいだ。


『お前には資質がある。我と約定を交わすのなら力を授けよう。お前を、救おう』


「私を……救ってくれるの? 大叔父様から、あの人から助けてくれるのっ!?」

 一歩大きく踏み出した問いにまた光がそよぐ。カナンは両手を広げて声の限り叫んだ。

「約束するっ、約束するわ! だから私を――」


――助けてっ!!


 その瞬間、カナンは眩い光と腹部に焼けるような熱を感じた。

「ぐ、ぉおぉっ……」

 低い呻き声にはっと目を開いたカナン。目の前には双眸から赤黒い血を流し、苦悶の表情を浮かべた大叔父がいた。

 スティーヴンはゆらりと体を起こし、天を仰ぐ。そしてカナンは目を見張った。スティーヴンの脇腹を見たこともない長い槍が貫通していたのだ。

「な、なぜだぁああぁぁ! 神よぉぉっ、私はあなたのために働いたではないかぁああっ!」

 槍をその身に受けたまま慟哭する大叔父を、何が起こったのか分からずにただ茫然自失として見上げるカナン。だが大きく開いた彼のシャツ、鎖骨中央のすぐ下にカナンは何かを見つけた。

 大叔父は刺青などするような人物ではなかったはず。異様なほど冷静にそう考えたカナンは目を細めた。


――luxuria


 学校の図書室で、そして敬虔な聖教会ビリーバーであるマジェッツ家の書斎にもあった聖書で見た文字。微かに残る記憶を手繰り寄せ、カナンは思い当った。


(シンズを記述したベンジャミンの章、七つ目の刻印の……)


「……色欲」

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