きっかけ Castitas―純潔の白百合 5
カナンの瞳が揺れた。
スティーヴンはゆっくりと体を離す自らの動きを追うカナンの視線を楽しみながら続けた。
「貧しい国の女性や子供を買いに行くんだ。出稼ぎ先を斡旋して、数年後には必ず返すと言う約束をして家族に前金を渡す。でももちろん、彼らが帰れるわけがないよ。こちらにやってきたが最後、彼らは死ぬまで娼婦や男娼として生きていくんだからね」
「……なっ――」
「フフ、最初はね。本当にただの旅行で行ったんだ。だがあそこの子供たちは黒髪をしている子が多い。君と同じ美しい黒髪をね。だから私は黒髪の子供を片っ端から買ってはカナン、君だと思って犯したよ。それはそれは気分が良かった。現実では手に入れられない君を、まやかしでも手に入れたと思えたからね。でもやっぱり満たされなかった。やっぱり君でないとダメなんだ」
そう言ってスティーヴンはカナンの髪を一房とって口づけた。
「そのことを悟った私はとても空しくてね。でも手元には既に大勢の子供たちがいた。それで考えたんだ。必要の無くなった子供たちを船で密入国させてから売り捌こう、とね。やってみたらね、それが驚くほど高く売れたんだよ。私は、これはビジネスになると思い付いた。そして私の予想通り外国からの女性と子供を売るマーケットは大成功したんだ」
微笑みながらひどく残酷なことを自慢げに話すのは、一体誰だろうか。カナンはただ虚ろな目を見開いていた。そんなカナンにかまうことなくスティーヴンは続ける。
「フフフ。だからね、私が成功したのは偏に君のお陰なんだよ。全く、君は美しく罪な女神だ」
――私の、お陰? 私のせいで、今までたくさんの人たちが不幸になったの?
まともには信じられない話だが、カナンには分かっていた。この男が話しているのは全て真実である、と。
襲いかかる計り知れない罪悪感と嫌悪感に耐え切れなくなったように大きく項垂れたカナン。
スティーヴンはあやすようにカナンの背中を軽く叩いた。
「大丈夫。今後可哀想な子供たちがこの国にやって来ることは少なくなるだろうからね。つい先日マーケットのソースが明るみになって、来週にも警察が摘発するだろう。このマーケットが無くなることはないけれど、一時期でも規模は確実に小さくなる。だから――私たちは明日にもこの国を出る」
「私たち……、私たちって?」
つと顔を上げて問いかけるカナンにスティーヴンは優しく微笑む。
「もちろん、私と君だよ。カナン」
「わた、し……? い、ぃや……イヤよ! 私はどこにも行かない! お父様とお母様のところへ返して! 大叔父様、お願いしますっ」
「何を言っているんだい? それはできないよ。私たちはずっと、ずぅっと一緒だ。もう離れることなどないあってはならないんだ。それは神がお決めになったことなんだよ」
「そんなっ……何を言っているんですか!? イヤです、お願いです! 私を返してください!」
「……仕方がないな」
ぽつりと呟いたスティーヴンは半狂乱で縋りつくカナンの手を唐突に取ると、大きなベッドへと押し倒した。




