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きっかけ Castitas―純潔の白百合 3

 体が重い。頭が痛い。カナンは言い様の無い不快感の中ふと目を醒ました。

 天蓋のある大きなベッドに横たわったままカナンはぐるりと辺りを見渡した。

 格式を漂わせた重厚な調度品、最先端の流行を取り入れた薄ピンクのカーテン、そしてティーテーブルの上に置かれた花瓶には黄色いアカシア。

「ここは……?」

 確か庭園の噴水の縁でスティーヴンと話していたはず。だがここは見たこともない、どこかの屋敷内だった。

 重い体をゆっくりと起こしたカナンのすぐ側で、チャラと小気味よい金属音がたつ。

 視線を落とせば細い銀色の鎖が一本、真っ白いシーツの上に波打っていた。

「何かしら、これ?」

 カナンは小首を傾げて両手で鎖を辿る。

「な、何これっ!?」

 鎖の繋がった先を認めたカナンは驚愕に上ずった声を上げた。それは彼女自身の首元、その細い首に掛けられた首輪に繋がっていたのだ。

 焦ったカナンは泣きそうになりながら首輪を外す為留め具を探す。だが首輪はガチャガチャと音を立てるだけで、留め具の場所もわからない。

「いやっ、何でっ、どうして!」

 混乱して涙を滲ませていると、大きなドアがガチャリと音を立てて開いた。

 カナンは息を呑んでドアを振り向く。

「お、大叔父様っ!」

「やぁ、カナン。目が醒めたようだね。気分はどうだい?」

「スティーヴン大叔父様っ、私、目が醒めたらこんなものが付いててっ!!」

 悲鳴のようなカナンの訴えにスティーヴンはきょとんとしてから、合点が言ったという様に、あぁと言ってにっこりと微笑んだ。

「それは私からのバースデープレゼントだよ」

「え……?」

 絶句してスティーヴンを見つめるカナン。

 スティーヴンは優雅な所作でベッドに腰掛け、カナンの首元に触れると、いつも通り優しげに笑む。

「あぁ、やはりこれはカナン、君にとっても似合っているよ。カナンはとても白い肌をしているからね、真紅がよく映える。探した甲斐があった」

 首輪と首筋を指先で撫でながら満足げに語るスティーヴンをカナンは信じられないものを見るような眼差しで見上げた。

「おぉ、おじさま?」

「なんだい? あぁ、でもまだ君には大きいみたいだね。しかし、まぁ心配することはないよ。すぐにぴったりになる」


――ぴったりになる? 首輪が、ぴったりになる?


「ぃ、イヤっ!!」

 カナンは思わずスティーヴンの手を払いのけて後ずさろうとした。

 だが急にピンと張った鎖に引かれ、カナンは半歩も下がれず内に呻き声を上げて前のめりにベッドに倒れ込みそうになる。

 するとスティーヴンがおやおやと白々しく漏らした。

「大丈夫かい? 暴れては駄目だよ、カナン。まだ薬が効いているだろう? 急に動くと立ちくらみを起こす。それに何より、君の肌が傷つく」

 眉を下げて首輪が食い込んだカナンの首元を擦るスティーヴン。カナンは涙を浮かべて問うた。

「どう、して……、どうしてこんなひどいことするの?」

「泣かないでおくれ、カナン。私はひどいことなんてしていないよ。私は君とずっと一緒にいたいんだ。君を、愛しているんだよ」


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