きっかけ Castitas―純潔の白百合 2
カナンのこの大叔父をとても慕っていた。
老年に達してさえいても仕事一筋、常に忙しく飛び回るスティーヴン。
いつも優しい笑顔を向け、会う度に小さなプレゼントを片手に旅先であったことを話してくれる。
幼い頃にはもっと頻繁に会う事もあったが、今では年に何回かしか会うことはない。そんな大叔父が自身の誕生日パーティーに駆け付けてくれたのをカナンは大いに喜んだ。
「うん! ありがとうございますっ。大叔父様大好きです!」
そう言ってカナンは耳元に黄色いアカシアの花を挿してくれたスティーヴンの頬にいつもの様にキスをする。
カナンを支えるように背に伸ばした腕にスティーヴンは僅かに力を込めた。
「もう十になるのか。大きくなったね、カナン。私の可愛いカナン」
◆◇◆
「はぁー! やっとお外に出られたぁ」
マジェッツ家の敷地内の広い庭園、その中央にある大きな噴水の前までやってきたカナンは両手を広げ、少女らしい声をあげてくるくると楽しげに回る。
「そんなにはしゃいでいると転んでしまうよ」
柔らかく微笑みながら注意する大叔父にカナンは小さく舌を見せた。
「大丈夫です! 私はもう十になりました。もう立派なレディですよ、フフ」
そう言って噴水の周りをカナンは鼻歌を歌いながら踊る。
パーティーが開催されている本邸のテラスからは離れていて聞こえてくる声もない。
そこにあるのは噴水から流れ落ちる水しぶきの微かな水音と近くの木々に留まる鳥のさえずる声、そしてそれに似た、カナンの可愛らしい笑い声だけだった。
スティーヴンは噴水の縁に腰を下ろしてしばらくカナンの様子を眺めていたが、やがて手招きしてカナンを横に招く。
カナンは彼の横に座って機嫌良さそうに小首を傾げた。
「なぁに、大叔父様?」
「バースデープレゼント、まだだっただろう?」
「あぁ、そうですね! 今年は何かしら? 昨年送っていただいた寄木の宝石箱、とってもステキでお気に入りなんです」
「そうかそうか、それは良かった。でも今年のプレゼントは特別だよ。なんて言ったって私が長年、カナンのために探していたものだからね。つい先日やっと君に似合いそうなものを旅先で見つけたんだ」
「わぁ、とてもドキドキします!」
興奮を隠せずに頬を赤らめるカナンにスティーヴンは微笑む。
「フフフ、では目を閉じてごらん。私がいいと言うまで目を開けてはいけないよ」
「はいっ」
素直に目を閉じたカナンは大叔父の「よし」の合図をそわそわと待つ。そんなカナンを彼は楽しげに眺め、目を細めた。
その瞳が宿していた色に、その時気付くことが出来るものは誰一人としていなかった。




