望んだはずの関係
カナンと聖教会は結木を訊ね、罪人の親玉(鉄視点)・シンズの存在を知って早一週間半。
大口を叩いたものの、鉄はシンズを見つけ出すどころか、小さな手がかりさえも見つけ出せないでいた。
――シンズには、セイント同様体のどこかにその証たるマークがあります。
それを手掛かりに探してくださいね。と笑顔の結木にサラリと言われて一つ返事したはいいが……。
(一体どうやって体のどこかにあるマークを探すんだよー)
見ればすぐに分かる。そう言われたはいいが一体どんなものなのか見当もつかない。あからさまに「シンズ」とでも体の、しかもよく見える箇所に刻まれていれば別だが、恐らくそんな訳は……まずないだろう。
出会う人、道行く人。
とにかく手当たり次第に、目につく人々を見える範囲で観察はしている。いくら今が初秋で着込み度がまだまだ低いとは言え、やはりそれだけでは分からない。
(だいたい俺の行動範囲内にいんのか?)
鉄の行動範囲と言えば、せいぜい自宅と学校からそれぞれ二駅までがいいところだ。
というか、都内に、日本にさえいるのだろうか。鉄は内心ぼやかずにはいられない。
世界は広い。そして何と現在地球上には七十一億人もの人間が暮らしているのだ。その中から誰か特定の、しかも名前も、どんな人相かも確認できていない人間を探すなんて、干し草の中から針を探すようなもの。至難の業である。
その証拠に、三人のシンズは既に存在が確認されていはいるものの長年聖教会の手を逃れ続けているらしい。
ただでさえ難航しているシンズの捜索に加え、最近超ド級トラブルと言う名のアルバイトから遠ざかっているためか、鉄はまた以前の様に細々としたトラブルに遭遇するようになった。もちろん、あくまでシンズを探しているのだが、変質者を見るような目つきで睨まれることはこの一週間と半、日常茶飯事のこと。
先日などは危うくお巡りさんに通報されるところだった。そしてつい昨日は、そんなに遅くもない時間に乗ったバスの中で酔っぱらいのサラリーマンに絡まれた。踏んだり蹴ったりとはこの事だ。
鉄の平穏? な日々は一か月としないうちに終わりを告げたのだった。
ミッションに出ていれば出ているで、いくら胸にどこか納得しないものを抱かずにはいられなかった。だが、こうなって来ると、いや、実のところもう随分前から既に鉄は、カナンと過ごした危険に満ちてはいるものの平穏な日々を偲んでいた。
相変わらずカナンとは学校で会う。だが今は、学校だけで、会う。
今でも鉄が聖教会に結木を訪ねることは度々あるが、タイミングが悪いのか教会でカナンに会うことは今のところなかった。
学校で目が合えば微笑んでくれるし、話もする。だが、それだけだ。
鉄は今まで感じることのなかったものを感じていた。
――空白とも言えない、カナンとの間に出来た距離。
去り際に「ごきげんよう」と言われて、「じゃあ」と言い返すだけの仲。
仕事上のパートナーではなく、普通のクラスメイトになっただけ。聖女とただの一般人。
カナンと出会った当時、鉄はこの関係を望んでいたはずだ。
それを今になって寂しいと思うのは、身勝手だろうか。
(でも……)
実は鉄が寂しさを感じずにはいられない理由はそれだけではなかった。
最近、カナンが儚げに笑むことが多くなった。
気のせいではない。彰二も薄々と彼女の変化に気が付いたようで、何かあったのかと聞かれた。
忙しいらしい。事実であるし、そう答えるに留まったが、身体的な忙しさだけがカナンをあんな表情にさせるのではない事くらい、鉄には分かっていた。
――カナンは何かに憂いている。そしてそれは日を追うごとに強くなっている。
短期間とは言え、共に過ごした日々で知り得た聖女の人知れない、そして計り知れない憂いの存在。
何ができるわけでもない。今より近くにいたあの頃でさえ何も出来はしなかった。しかし、だからこそ、以前よりも遠くにいることに鉄は言い様のない焦燥感と寂寥感を抱かずにはいられないのだろう。
(何かできればいいのに……って、シンズを見つけ出すこと、だよな……)
そう思い至った鉄は、カウンター席でお行儀悪くも上半身を沈み込ませたまま、とりあえずもう二駅先まで捜索範囲を広めようと決意した。




