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カフェ・ハラヘリ

(俺、なんか変なこと言っちゃったか?)


 二週間と一日。最近になって鉄には気付いたことがあった。

常に優しく笑みを浮かべているが、カナンは時折、ほんの一瞬、悲しげに、儚げに微笑むのだ。

 もしかしたらカナン自身でさえ、気が付いていないのかもしれない。

出会ったばかりの頃は、カナンの笑顔に時折感じる違和感が何なのか鉄には分からなかった。だがそれに初めて気が付いた時、鉄は文字通り胸を鷲掴みされるような衝撃を受けた。そんな表情だった。

 何を儚んでいるのかは不明だ。しかし、カナンのその笑顔を見る度、鉄はできることならがその憂いを晴らしたいと心から思わずにはいられない。だが、どうしてそんな風に微笑むのか。鉄にはそれを訊ねる勇気もなければ、また、それを訊ねる資格もないように思われた。

「あの――」

「新しくオープンしましたぁ。よろしくお願いしまーす」

 ごめん。と何となく謝ろうとした鉄は元気に遮られ、チラシを手渡された。

「え?」

 顔を上げればポニーテールをした女性がニカッと人懐っこそうな笑みを浮かべた。

「先週から新しくオープンしたカフェなの。すぐそこなんで、よかったら来てください。ハイ、これ。あなたもどうぞ」

 そう言って彼女はカナンにもチラシを渡す。僅かに驚いたようだが、カナンは笑顔で礼を言っている。

 チラシを見れば「カフェ・ハラヘリ オープン!」と可愛らしい字で書かれていた。

「ハラヘリ……」

 センスがあるのかないのか……微妙だ。鉄はぎこちなく苦笑した。

「今ならオープン記念でデザート頼んでくれたら、紅茶かコーヒーがサービスでついて来るんだけど、どうかな?」

「おぉ、マジですか? あー、でも俺たちこれから行くところあるんで……って、カナン?」

 くるりと振り返れば、なぜかカナンは手にしたチラシの下の方を凝視して目を輝かせていた。

「どしたの?」

「あ、いえ別に……」

 カナンは慌てて取り繕おうとする。

 珍しい。訝しがった鉄が自分の手元にあるチラシをよく見ると、左下に貫録のあるブルドックの小さな写真と更にその下に「看板犬・ブルちゃん」の文字。

「……カナン、犬好きなの?」

「えっ! えぇと、はぃ、スキ、です……」

 顔を赤くして言葉を濁すカナン。だが鉄の脳内では、頬を赤らめて言うカナンの「スキ、です」の語尾だけがエコー付きで響いていた。


(ハっ、いかんいかん)


 小さく頭を振る鉄。スキなのは犬だと十二分に分かっている。だがしかし、脳内でどう解釈するのかは個人の自由だ。


(だって人間だものっ。男の子だもの!)


 誰にともなく内心言い訳をした鉄は口元を拭いながら、聞いてみる。

「んじゃあ、寄ってく? まだ約束の時間まであるし。俺、喉乾いたし」

「っはい!」


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